英雄伝説~西風の絶剣~
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第32話 トラブルメーカー
前書き
side:リィン
「はぁ……不幸だ」
俺がハーケン門の牢屋に入れられて一日ほどが経過した。俺たちは尋問を行うまでここにいなければならないらしい。何故直に尋問しないのかと思ったがどうやら盗難事件でこっちに手が回らないらしい、こっちとしては有り難いが所詮時間稼ぎにしかならない。
(このまま尋問を受ければ俺が不法に入国したことがバレてしまうな……)
俺は正式な手続きをしてリベール王国に来たわけじゃないので調べられれば直に分かってしまう。そうなれば俺の正体もバレてしまう恐れがある。
「そうなったら危険を承知で逃げ出すか……」
万が一の時は異能の力を暴走させてでも逃げるしかないと覚悟を決めると、背後から誰かが抱き着いてきた。
「ふふっ、二人きりだねリート君……」
俺に抱き着いてきたのはオリビエさんだった。
「……はぁ」
オリビエさんの頭に拳骨を喰らわせて俺はオリビエさんから離れる。
「痛いじゃないか、もっと優しくしてほしいよ」
「少し黙ってくれませんか?大体こうなったのも全部あなたのせいじゃないですか」
「すまないとは思っているさ、でも過ぎてしまったことを悔やんでも仕方ないだろう?だから今は二人きりの状況を楽しもうと……」
「なるほど。本気で殴ってほしいんですね?」
「あはは……ごめんなさい」
俺が握り拳を見せて殺意を出すと流石にマズイと思ったのかオリビエさんは引き下がった。それにしてもどうしてこうなってしまったんだろうか……もしかしてこれは空の女神が俺に与えた罰なのか?今まで散々フィーや皆に心配させてきた俺に対する罰がこれなのかもしれない。だとしてもちょっと厳しくないか?
「ちょっと!押さないでよ!?」
「さっさと入れ!」
隣の牢屋に誰かが入れられたようだ。どうやら3人くらいのグループらしいがどうも聞いた事のある声だな……
「明朝、将軍閣下自らの手であんたたちの尋問が行われる。そこで無実が証明されれば2,3日で釈放されるはずだ」
「ま、しばらくそこで頭を冷やしておくんだな」
兵士たちは隣の牢屋に入れた人たちにそう言って立ち去っていった。どうやら彼らも何らかの疑いをかけられたようだ。
「はあ、冗談じゃないわよ……こちらの言い分も聞かないでこんな所に放り込んでさ……」
「軍が空賊団を逮捕できれば疑いが晴らせるだろうけど、こうなると無理かもしれないな」
「廃坑で戦った空賊は明らかに軍が来ることを知っていた、これは軍の内部に内通してるスパイがいるってことなんでしょうね」
隣の人たちの話を聞いてて思ったんだけど隣にいるのはもしかして……
「あの、もしかしてエステルさん達ですか?」
「えっ?今の声って……まさかリート君!?」
「はい、ご無沙汰しています」
やはり隣の牢屋にいたのはエステルさんだった。そうなるとヨシュアさんやシェラザードさんも一緒にいるはずだ。
「ど、どうしてリート君がハーケン門の牢屋に入ってるの!?」
「あはは、話すと長くなるんですけどね……」
俺はエステルさん達に今までの事を話した。
「うっわー……それは……」
「災難というか何というか……」
「貴方って厄介ごとを引き付けるタチなの?」
……顔は見えないが同情の眼差しを送られているのが伝わってくる。
「この変人から聞いた話しからもしかしてと思ってましたがハーケン門で知り合った遊撃士というのはやっぱりエステルさん達のことだったんですね」
「う、うん。そうだけど……リート君、なんかオリビエに対してだけ当たり強くない?」
「そりゃそうでしょう、この人のせいで今こうなってるんですから」
「リート君、意外と怖いんだね……」
ヨシュアさんはそう言うが貴方だってエステルさん関係になると怖くなるじゃないですか。
「というか何故エステルさん達は牢屋に入れられたんですか?あなた達が悪いことをするなんて思えないんですが……」
「まあね、色々あったの」
エステルさん達から話を聞くと、どうやら定期船が行方知らずになったのは空賊団『カプア一家』の仕業らしくエステルさん達は空賊たちが隠した定期船を見つけることはできたようだ。だがそこにモルガン将軍が率いる軍の部隊と鉢合わせになり盗賊の仲間として疑いをかけられたらしい。
「なんですかそれは……エステルさん達はなにも悪くないじゃないですか」
「そうでしょ?あのオヤジ見るからに頭固そうだったもん」
モルガン将軍か……百日戦役で活躍した人物ということは知っていたが遊撃士嫌いだとは知らなかった。
「とにかく今はどうしようもないし朝になるまでは休むしかないわね」
シェラザードさんの言うと言う通り今はどうしようもないので俺たちは休むことにした。しかしオリビエさんはいつまで喋っているんだろうか……まあいいや、最悪何かしようとしてきても気配で分かるし放っておこう。
「おい、起きろ!」
翌朝になり兵士の声で目を覚ます、横を見るとオリビエさんが頭にたんこぶを作って伸びていた。やっぱり俺に何かしようとしたのか……
「何よ、こんな朝早くから尋問なの?」
「いや違う、お前たちを釈放する」
「ふえっ?」
エステルさん達は釈放されるようだ。でもいきなりどうしてだろうか?そう思っているとそこに金髪の女性と軍服を着た白髪の男性が現れた。
「メイベル市長!?どうしてここに?」
どうやら彼女こそがボースの市長その人らしい、しかし随分と若いんだな。どうやらメイベル市長は白髪の男性……モルガン将軍と顔見知りのようで取り合ってくれたらしい。その話の途中でカシウスさんの名前が出たことに驚いたがよく考えればカシウスさんは遊撃士になる前は軍人だったことを思い出して俺は納得した。
(しかし団長もそうだけどカシウスさんも顔が広いよな……)
モルガン将軍はカシウスさんが軍人だった時の知り合いらしくエステルさん達が釈放されたのもそれが大きな要因になったようだ。ともかくこれでエステルさん達も事件解決に向けて動き出せるだろう。
「よかったですね、エステルさん。事件解決を祈っています」
「えっ?リート君はどうするの?」
「俺は別件で捕まってますし釈放はされないでしょう、俺の事は気にしないで行ってください」
「そんな!?オリビエはともかくリート君は無実じゃない!放ってなんておけないわ!」
「ですが……」
「あの、エステル君?僕はともかくってどういうことだい?」
「事実でしょう?それにあんたが牢屋に入ってればヨシュアも安全だしね。メイベル市長、リート君は無実だから何とかして牢屋から出してあげられないかしら?」
「あ、いやごめんなさい!僕も出してください!」
オリビエさんが隣で土下座をしていた。だったら最初から勝手に店のワインを飲まなければいいのに……
「あの、そちらの方々がグラン=シャリネを飲んだという方々ですか?事情は分かりました、でしたら……」
ーーーーーーーーー
ーーーーーー
ーーー
「本当にありがとうございました!!」
俺はメイベル市長の自宅内でメイベル市長に土下座をしていた。なんとメイベル市長が俺たちの罪を許してくれたおかげで釈放されたからだ。
「あ、あの……そこまでしなくても」
「いえ!あなたのお陰で俺はこうして無事に外に出られたんです!どれだけ感謝をしても足りません!」
「はは、良かったね。リート君」
「あなたも土下座してくださいよ、こうなった原因はあなたでしょうが!」
「あいたっ!?」
俺はオリビエさんの頭にチョップをかました。
「ふふ、面白い人たちですね」
「いえ、これと一緒にされるのはちょっと……」
流石にこの人と同じ扱いはごめんだ。
「しかしメイベル市長、本当にいいんですか?オリビエさんが勝手に飲んだワインの代金を返さなくても?」
「いいんです。あの店のオーナーは私ですし今回の事はお互い不幸な事故としましょう」
「メイベル市長……」
なんていい人なんだろうか、本来なら訴えられても仕方ないことをしたのに笑って許してくれるとは……よし、決めた。
「エステルさん、皆さんは空賊について調査してるんですよね?」
「ええ、そうだけど……」
「俺も事件解決のために力にならせてくれませんか?」
「ええっ!?」
俺はエステルさん達に今回の事件の解決のために力になりたいとお願いした。本来なら目立つ行為はしないと言ったが流石にここまでしてもらっておいて何もしないとなれば西風の旅団として名が廃ってしまう、受けた借りは必ず返すのが西風流だ。
「お願いします!俺を助けてくださったメイベル市長に恩返しがしたいんです!」
「……どうする、シェラ姉?」
「駄目よ……と言いたい所だけどこの様子だと勝手に行動しそうだし案外近くにいてもらった方が監視出来ていいかもしれないわね。目を離していたらまた何か厄介ごとに巻き込まれてそうだし……」
うぐっ、トラブルメーカー扱いか……まあ実際その通りだし反論できない。
「ただし私たちのいう事は絶対に守ってもらうわ。それと無茶はしないこと、これらを守れるなら特別に許可します」
「わかりました!このリート!未熟ながらも八葉一刀流の技を持って皆さんを支援します!」
俺は太刀を手にして力強く答えた。
「それなら僕も君たちに協力させてくれないかな?こう見えてもアーツと銃の腕には自信があるんだ」
「えー、オリビエも来るの?」
「どうしますか、シェラさん?」
「そうね、放っておいたらまた勝手についてきそうだしあんたも監視しといたほうがいいわね。でもあんたもリート君のように私たちのいう事は守ってもらうわよ」
「わかったよ、美人からのお願いなら何でも聞くさ」
取りあえず話はまとまったので俺たちはメイベル市長に別れを告げてメイベル市長の自宅を後にした。
「エステルさん達の考えでは空賊のアジトは定期船ではいけない場所にあるんですよね?」
「うん、空賊たちが定期船を廃鉱に隠して態々何回も往復したのは定期船では入れない場所にアジトがあるからだと思うんだ」
「問題はそれがどこにあるのかが分からないって事なのよね」
ヨシュアさんの説明にシェラザードさんが補足する。確かにどんな所にあるか予想はできてもそれが実際どこにあるかは分からない。虱潰しに探そうとしてもボース地方はかなり広いし結構骨が折れそうだ。
「取りあえず今は昨晩起きた強盗事件の被害者たちに話を聞いていきましょう、何か重要な手掛かりが分かるかもしれないしね」
シェラザードさんの意見に全員が頷いた。強盗事件とはメイベル市長の話の途中で出てきたんだけどどうも昨晩にボースの南街区で大規模な強盗事件があったらしい。俺たちは直にボース南街区に向かい被害者たちから話を聞いて回った。
途中でナイアルさんとドロシーさんに出会ったがどうやら廃坑についての情報をエステルさん達に話したのはナイアルさんらしい。彼が聞いた目撃情報によると犯人は西口方面に走っていったようだ。
「じゃあ他の家にも行って話を……」
「おい」
「……ん?」
俺たちの前にリベール王国の軍人が現れた、ハーケン門に所属している軍人のようだ。
「えっと、あたしたちに何か用かしら?」
「ふん、お前らがこの辺りをウロチョロと嗅ぎまわっていると話があってな。少し忠告しておいてやろうと思ったんだ」
「忠告?」
「遊撃士風情が我々の調べている付近を荒らすのはやめてもらおうか」
「あ、あんですってー!?」
どうやらこの兵士は俺たちが空賊事件について調べ回っているのが気に入らないらしい。
「なんだ?その態度は?市長の頼みで釈放しただけでお前たちの疑いが晴れたわけじゃないんだぞ、それとももう一回牢屋に入れられたいのか?」
「うぐぐ……」
さてどうしようか、あまり大きな争いにはしたくないし……
「何をしている?」
するとそこに軍服を着た金髪の男性と紫のかかった赤髪の女性が現れた。
「こ、これは大佐殿!?」
大佐?この人はリベール王国軍の大佐なのか?また随分と若いな、でもその立ち振る舞いには隙が見当たらない……かなりの実力者だ。
「栄えある王国軍の軍人が善良な一般市民を脅すとは……まったく、恥を知りたまえ」
「で、ですがこいつらはただの民間人ではございません!ギルドの遊撃士どもです!」
「ほう、そうだったのか……だったら猶更だろう。軍とギルドは協力関係にある、対立を煽ってどうするのだ?」
「し、しかし自分は将軍閣下の意を組みまして……」
「やれやれ……モルガン将軍にも困ったものだ。ここは私が引き受けよう、君は部下を連れて撤収したまえ」
「し、しかし……」
「もう十分に調査しただろう?将軍閣下には後で私の方から執り成しておく。それでも文句があるのかな?」
「りょ、了解しました……」
軍人はそう言うと自身の部下を連れて去っていった。
「さて、と……」
金髪の男性は俺たちの方に向きかえり話しかけてきた。
「遊撃士協会の諸君。軍の人間が失礼な事をしたね、謝罪をさせてもらうよ」
彼はそう言うと俺たちに頭を下げる、彼のこの行動にシェラザードさんも驚いていた。
「これは、どうもご丁寧に……こちらも気にしてませんしどうか顔をお上げください」
「そう言ってもらえると助かるよ……先ほども言ったように軍とギルドは協力関係にある、互いにかけている部分を補い合うべき関係だと思うのだ。今回の一連の事件に関しても君たちの働きには期待している」
「ふふ、失望させないように頑張らせてもらいますわ」
凄いなこの人……普通はさっきの軍人のように軍と関係のない者が活躍するのをいい気分がしない人だっているだろうに彼は寧ろ遊撃士協会の必要性を理解して尚且つ強力しようと言ったんだ。
「大佐……そろそろ定刻です」
「ああ、そうか」
男性の傍にいた女性がそう言った。どうやら時間を取らせてしまったらしい。
「そういえばまだ名乗っていなかったな。王国軍大佐、リシャールという。何かあったら連絡してくれたまえ」
リシャール大佐はそう言って部下の女性を引き連れて去っていった。気のせいかな、一瞬俺をジッと見ていたような気がしたが……まあ今はそんなことを気にしてる場合じゃないか。
「それにしても王国軍にも話が分かる人がいたのね、モルガン将軍やさっきの兵士みたいに遊撃士嫌いの人ばかりに会ってたから新鮮だわ」
「まあ軍人にも多くの考えを持った人がいるんだよ。それにしてもリシャール大佐か……あの若さで大佐だという事はかなり優秀な人物なんだろうね」
「中々のイケメンだったし私は嫌いじゃないわ、ああいう人」
エステルさん達もリシャール大佐にもいい印象を持ったようだ、その中でオリビエさんだけが何やら難しい顔をしていた。
「どうしたんですか、オリビエさん?珍しくまじめな顔をしてますけどリシャール大佐に何か思う事でもあったんですか?」
「いや、今のリシャール大佐なんだが……確かに中々の男ぶりではあるのは認めるが僕のライバルとしてはまだ役者不足だと思ってね。リート君もそう思わないかい?」
「はあ~……あなたに真面目な回答を期待した俺が馬鹿でした……」
結局オリビエさんはオリビエさんだった。
後書き
リィンは目上の人や初めてあった人には敬語を使いますがオリビエに対しては一応年上なので敬語は使ってますが内心は変人だと思って呆れています。まあ空の軌跡のオリビエは閃の軌跡の時と比べるとだいぶはっちゃけてるからね。ちかたないね。
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