ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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黒星団-ブラックスターズ-part6/Believe it or not?
前書き
そういえば、この小説…書き始めてから10年以上経ってた…うわ、時の流れが早すぎる。まだ書きたいと、せめてここまではって思ってたところまで全然行ききれてないのに。
土くれのフーケを名乗ってマジックアイテム連続窃盗事件を起こしていたのは、かつて魅惑の妖精亭で働いていたブラック、シルバ、ノヴァの3人の女性であった。スカロンの呼びかけにも真相を明かさず、それどころかサイトからデルフをも奪い取って逃走。その直後、ムサシとヤマワラワが皆の下に現れ、ジャンバードが占拠されたという悪いニュースを聞くこととなった。
ムサシからその話を聞いたサイトは、トリスタニア郊外のジャンバード補完地点へ向かった。
その場は、ジャンバードの見張りを担当していたであろう兵たちが無数に倒れていた。ジャンバードを追われたムサシとヤマワラワと入れ替わる形で、後に応援に来た者たちによってジャンバードは包囲されているが、状況は思わしくなかった。
サイトたちもジャンバードの状況をその目で確かめるべく、ムサシたちを先導させてこの場に居合わせた。
「恐れ多くも始祖の方舟を占拠している者に告ぐ!無駄な抵抗はやめろ!我々は既に貴君らを包囲している!賊として討ち取られたくなければ速やかに武器を捨てて投降せよ!」
ジャンバードを包囲する隊長の投降勧告が飛ぶが、それに応えてジャンバードの内部を映し出す電子モニターが、突如としてジャンバードの真上に、包囲するトリステイン軍全員に見えるように現れた。
「な、なんだこれは!?」
魔法を基盤とする文化が浸透するこの世界では無縁の、未来的な機械文明の一端を目の当たりにしたトリステイン軍の面々に、困惑が広がる。
映像内では、先刻サイトたちの前に現れたブラック、シルバ、ノヴァの3人の姿があった。また、彼女たちの傍には虫眼鏡や箒、鐘、杖等、様々な種類のアイテムが山のように積み上がっていたり袋に詰め込まれたりしている。スカロンの店から盗まれた魅惑の妖精ビスチェも無造作に置かれていた。この国の各地から盗んだマジックアイテムだろう。こうして見せつけられる
と、まるで自分たちの力を誇示しているとも、こちらの不快感を煽り出してるようにも受け取れそうだ。
「奴自ら現れたようだな、隊長!すぐに…」
「待て。よく見ろ。あれは奴らがそのまま姿を見せたのではない。何らかの手段で始祖の方舟内部の景色をこちらに見せているだけに過ぎん」
銃士隊の隊員の一人が、映像内で姿を現したブラックを見て、隊長であるアニエスに進言するが、アニエスは待ったをかけた。アニエスの読み通り、あの映像はただの映像…虚像だ。攻撃したところで銃弾も魔法もすり抜けるだけだろう。
『だーっはっはっは!こちらブラッ…こほん、「土くれのフーケ」だ。その勧告は受け入れられない。それに状況がわかっていないのはそちらの方だ。この船は、これまで頂戴したトリステイン内の多数のマジックアイテム同様、既に私たちのものだ。活かすも壊すも私たちの意志次第、お前たちに我々をどうこうできるものではない』
ジャンバードの周囲をトリステイン軍の一個部隊や銃士隊が包囲している状況でありながらも全く動揺せず、ブラックは自分たちの優位性を態度で示していた。映像内でふんぞりかえるブラックを見て、目付きを鋭くしていた。
『トリステイン政府に告ぐ。我々の要求に応えるのだ。さもなければ…』
ブラックたち3人は、奥行きを見せようと道を開けるように左右に移動する。そこには、ブラックたちの後ろに控えていたもう一人の人物がいた。
それは、ブラックたちやシルバより幼く、ノヴァよりも2、3歳ほど年上らしい黒髪の少女であった。
「『サツキ』!」
ジェシカが、少女を見て思わず叫んだ。
「え?もしかしてあの子も…」
少女の名を呼び当てたジェシカを見て、テファがスカロンとジェシカに問うと、想像の通りだとスカロンが頷いてみせた。
「ええ、あの子もブラックちゃんたちの仲間だった子よ」
「でも、なんか様子が変だわ。あの子は元々大人しかったけど…なんって言うか今のあの子、まるで…
人形みたい」
ジェシカの言う通り、サツキと呼ばれた少女はなぜか意識がはっきりしていないのか、目が虚で首が斜め四十五度の方へ傾いている。
しかもブラックたちは驚く行動に出た。
『この少女の命の保証はできない』
ブラックがそこまで告げると、ノヴァが触手から形成した真っ赤な鎌を、サツキの首筋に近づける。
「な!?」
スカロンから仲間だと教えられた矢先に、その仲間であるはずのサツキに刃を向けるという光景にサイトやテファも、それ以上に彼女らと顔見知りだったスカロンがとジェシカたち魅惑の妖精亭の面々が絶句した。
「さっき僕たちの前に現れた時も、ああやって彼女を人質にとってきたせいで、僕とヤマワラワはジャンバードから追い出されたんだ」
当惑するサイトたちに、ムサシが苦い顔で説明した。流石の百戦錬磨のウルトラマンであるムサシでも、人質を取られる以上簡単に手を下せない。
「あなたたち、今何をしてるかわかってるの!?サツキちゃんはあなたたちの昔からの仲間だったじゃない!」
流石に黙ってもいられないと言う勢いで、スカロンはジャンバード内のブラックに向けて叫ぶが、ブラック達の耳には届いていないのかそれとも聞き流されたのか、構わずブラックは要求を告げた。
『ではこれよりトリステインには、この世界中に散らばるマジックアイテムをありったけの量に加え、この星に存在する高エネルギー鉱石を我々に譲渡してもらう。
その名は「エメラル鉱石」。それを我々に譲渡せよ。そうすればこの少女の命を奪わないことを約束しよう』
「エメラル鉱石?」
誰もが聞き慣れない単語を耳にしたようで、困惑が広がった。
「そのエメラル鉱石とはなんだ?何らかの鉱石のようだが、そんなものは聞いたことがないぞ!」
『何?知らないだと?』
アニエスからの返答に船内のブラックもまた、思わぬ返答らしかったようで困惑を見せてきたものの、すぐに毅然とした…しかしどこか虚勢を張ったようにもとれる態度を持ち直した。
『ふ、ふん。しらばっくれても無駄だ。この星でしか産出されない豊潤なエネルギーを有する鉱石だ。その石さえあればこの船を再起動させることが可能であることもな。
いいか、期限を来週の今の時間までとする。それまでに即刻エメラル鉱石を用意することだ!』
一行は一度、魅惑の妖精亭へと集まった。その時のサイトはブラックたちへの不機嫌さに満ち溢れていた。元スタッフによって不祥事が起こったということもあって、スカロンの判断で魅惑の妖精亭はこの事件が解決を見るまでは営業休止することに決定した。
「くそ、あいつら!」
サイトは客が引き払われた妖精亭の客席にて、ブラックに投げ渡された置手紙越しに、それを拳ですり潰す勢いでテーブルにドゴッ!と拳を叩き入れた。その拍子にテーブルに同じく置かれていた水の入ったコップが倒れ、中に注がれていた水が零れ落ちてブラックの置手紙を濡らした。
(ゼロアイの次は、まさかデルフを盗まれちまうなんて!加えてジャンバードときやがった。俺ってやつはなんでこう…!)
以前はミシェルにウルトラゼロアイを盗まれてしまうという失態を犯し、今度はデルフを奪われてしまうとは。二度も大事なものを奪われてしまうという事態に、サイトは自分の甘さを呪う。
「サイト君」
ムサシが、苛立つサイトを見かねて声をかける。
「なんすか!…あ…」
呼ばれたサイトは苛立ったように言い返す。シエスタやテファは、普段の穏やかなサイトとは違うその強い気迫に圧され怯えた。ヤマワラワもウゥ…と肉食獣を相手にした野生の猿のように縮こまって怯えている。デルフを盗まれてしまったこともあり、犯人への怒りが顔に表れるくらいに滲み出ていたことで、何も悪くない彼女たちを怯えさせてしまっていた。ムサシが二人を指し示したことで、サイトもそのことにようやく気づいた。
「悪い…」
「い、いえ。あんなことがあったんですもの。仕方ないですよ」
シエスタはサイトの気持ちを汲んで、その態度を責めなかった。そんなシエスタを見て、ただでさえ今回の外出の発案はシエスタのおかげなのに、ますます気を遣わせてしまったことに申し訳ない気持ちが沸き上がる。
「サイトちゃん、ごめんなさいね。うちの元妖精さんたちが迷惑をかけちゃって…」
「私も、謝ります。サイトさんごめんなさい。私が今日お出掛け使用だなんて言ったばっかりにデルフリンガーさんが…」
だがそれはシエスタとて同じことだ。平民向け舞踏会のための出し物として巷で有名になりつつあるコーヒーの出品を提示してみせたものの、実際のところサイトとの時間を確保するためという下心から来たものだ。それが結果として、サイトの大事な剣が、よりにもよって叔父の元部下に盗まれるという事態になってしまった。
スカロンもまた同様である。自分の店で一時働いていた身の人物が、同じ経歴持ちの少年に危害を加えたのだ。ブラックたちとサイト、双方共に自分の手元を離れた身であるとはいえ監督不行き届きを痛感する。
スカロンたちのせいではない。既に店を辞めた身の者の責任まで背負わせる義理はない。気にしないでほしいとサイトが言おうとしたところで、アニエスが彼らに問う。
「スカロン店長。あの者たちがなぜこのような行いをしたのか、思い当たる節はないのか?」
「全く持ってないわん。ちょっと悪ぶってるような口はあったけど、あの子たちは困っている人がいたら損得無しに助けに行くとても良い子たちよ」
「あたしも、一緒に働いてるうちはそんな素振りすらなかったわ。他の子たちの注文ミスとかも率先して庇うくらいだったもの」
「だったら、この事態を引き起こしたことをどう説明する?奴らは既に大多数のマジックアイテムをこの国から盗み、今回もサイトの武器を盗んだだけでなく、自分の仲間を人質としているんだぞ。
尤も、奴らのとった行動も、貴君らの証言を聞くとますます信用ならん。自分の仲間を人質に取っていると言うが、始祖の方舟を奪取するための罠とも捉えられる。これが事実か否かはこの際関係がない。どちらにせよこのトリステインに奴らが危害を加えたことは紛れもない事実だ。これでも奴らに酌量の余地を与えろと言うのか?」
二人の話を訊いて、アニエスは訝し気に顔を歪めた。これだけの事件を起こした犯人を庇うような言動をとる二人の発言に耳を疑った。彼女が把握している限りでも、国中のマジックアイテムの多くが既に盗まれるのだ。いつアルビオンが再度攻め込んでくるかもわからないこの状況で、敵の工作兵なのかそれともただの愉快犯なのか、それすらわからない相手に手をこまねいている場合ではない。
実 際にサツキが仲間であるはずのブラックたちの手で人質に取らされているが、ジャンバード奪取のために実際にサツキが仲間であるブラックたちと共謀して人質を装ったにしろ、仲間であるサツキの身を盾にジャンバードの明け渡し要求をしたにせよ、少なくともブラックとシルバ、ノヴァの3人がトリステインにとっての脅威になったことは間違いないことだ。
アニエスの指摘に二人は何も言い返せない。
「アニエスさん!それ以上はやめてあげてください!一番ショックなのは、他ならぬ彼女たちなんですよ」
これ以上はこの親子や妖精亭の従業員の心身を抉るだけと思い、ムサシはアニエスに止めるように言った。
多くの人たちを笑顔にしてきたこの店に、似つかわしくない暗雲が立ち込めていた。一同の間を、暗い空気が包み込む中、怒りに身を震わせるサイトをはじめとした彼らの姿に、シュウは自分もこの場にいた身でありながら、残念な結果をもたらしたことを痛感し、ぎゅっと手を握る。これでは、舞踏会のためのーコーヒーを提供するどころの話ではなくなりつつある。それに目の前で起きた事件を前に、自分は止めることができたはずだと言うのに、
――――結局また、何も成せなかった
頭の中で声が響く。つい自然と頭の中に、自身に対する侮蔑や失望の言葉を並べてしまうのは、未だに過去の経験からの無力感ゆえだろうか。
テファもそんな彼の顔を見て、シュウが胸中に抱く環状を読み取って憂い顔を浮かべる。さらにマチルダはそんな彼女とシュウを見て、ふぅっと鼻でため息を漏らす。また自責の念でも抱いてるのだろう。自分にはどうにかできたかもしれないのに、それを成せなかったのだと。だが、目に余るほどの行動に移しているわけではないし、実際に自惚れたことを口に出して言ってるわけではない以上、いちいち反応が気になるからと言って過敏に反応するわけにもいかない。
マチルダは、サイトによってくしゃくしゃで水に濡れ切ったブラックたちの置手紙を拾い上げる。自分も以前盗賊だった頃はこうして、貴族に対する挑発の念を入れた領収証の名を借りた置手紙を置いていった。こんなところまで自分に似せてくるとは、こうしてされる側になると、悪意ある物まね芸をされたかのようで中々頭にくるものだ。
「…?」
ふと、マチルダは水に濡れたブラックの置手紙を見て、あるものを目にした。ブラックの置手紙の、大部分を濡らしている範囲の文章に、変化があったことに気づいたのである。
「ちょっとみんな!これを見て」
マチルダが一斉にこの場にいる全員に呼びかける。一体何を見たのか確かめようと、テーブルに置かれている濡れたブラックの置手紙に注目する。
ブラックの置手紙にだが、濡れた箇所を中心にうっすらと、文字が浮かび上がったのだ。
「文字が…!」
あの挑発めいた文面とは別の文章が浮かび上がったことに、一同の多くが目を丸くする。
「濡れると文字が浮かぶ仕掛けを仕込んでいたとはな」
シュウも置き手紙に浮き上がった文字を見つめながらそう呟く。こうまでしてでも、自分たちに何かを伝えようとしているのだろうか。
「でも、字が汚くて読みにくいですね。まるで慣れない異国語でも書いてるみたいです」
シエスタの言う通り、浮き出た時はいかにも不慣れな筆運びだったのか綺麗な字とは言えなかった。おかげで読み上げるのも少し苦労しそうだ。
「俺にはそもそも読めないや…なんて書いてあるんですか?」
サイトはまだこの世界の文字は学習していなかったため一文字も読めなかった。ここにルイズがいたら「ちゃんと学習しないさいよね。ご主人様である私が恥ずかしいんだから」と言って咎めてきただろう。でもだからって手紙の内容がわからないままでいるわけにもいかない。相手はデルフを盗んだ犯人なのだから無視するわけにいかない。
手紙の内容は、ジェシカが読み上げていった。置き手紙に浮き出た文面は、こう書かれていた。
『スカロン店長、ジェシカ君、魅惑の妖精亭の皆へ。そしてトリステインのマジックアイテムの元所持者達とこの国の者たちへ。
貴殿達に、魅惑の妖精ビスチェの盗難の他、数多くの多大な迷惑をかけたことを謝罪する。
しかしこれには、我らにとってそうせざるをえない状況故の行動であった。その理由をここに記す。
我らの仲間の一人、サツキ君が此度の黒幕にして、我らにマジックアイテムの盗難を命じてきた「バロッサ星人」に人質にされてしまったのだ。』
「バロッサ星人?!」
文章内に記載されていたそれに、サイトが反応した。
「知ってるのか?」
サイトがやたら過剰に反応をしたのを見て、シュウが尋ねる。自分はスペースビーストに関しての知識しかない。サイトから以前より聞いていた、ビーストに属さない怪獣や異星人に関しては彼の方が詳しい。きっと何か知ってるからこその反応だろう。
「一族郎党で海賊をやっている、宇宙でも類を見ない悪党な異星人だ。他の星でも散々海賊行為を働いてて、多くの人たちが迷惑を被ってる」
(種族単位で物欲の塊みたいな連中ということか)
サイトから、バロッサ星人なる種族の話を聞いて、これが本当ならなんとも迷惑な連中だろうとシュウは感じ得なかった。
「まだこの手紙、続きがあるわ。読み上げるわね」
さらに手紙の内容をジェシカは読み綴っていく。
『奴は非常に欲深い。この世界に散らばるマジックアイテムやジャンバードに目をつけ、我らにその回収を命じてきた。狡猾なことに、自分はもうサータンの毛で編んだ透明マントで姿を覆い隠し、我々に表立った行動をとらせている。
奴自らが表舞台に立とうとせず我らにその役を任せている理由は、紛れもなくウルトラマンの存在だろう。異星人である自分ならまだしも、所詮一介の人間の盗人風情のために彼らが手を下さないと見抜いてのことだ。いざという時は、我々にすべての罪をなすりつけ逃亡する魂胆だろう。
だがこうして君たちの元にこの手紙が届き、この文章が届くことさえ叶えば、バロッサ星人を倒し、サツキ君や我らの手で奪い奴に献上したマジックアイテムを取り返せるかもしれない。
だが一刻の猶予も許さない状況だ。ジャンバード起動のエネルギー源であるエメラル鉱石が手に入り次第、奴はジャンバードを起動させこの星から逃げる腹積りだ。それまでになんとしてもサツキ君を救い、バロッサ星人を倒さねば。
どうか、我らの真意が正しき者たちに伝わることを願う。
ブラック』
「そうか、通りで…」
「ムサシさん、何かわかったんですか?」
ジェシカが最後まで読み上げたところで、何かを掴んだらしいムサシに、テファが解説を求めた。
「さっきジャンバードであの子達に追い出された時、ブラックって人たちは横一列に並んで僕とヤマワラワの前に現れたんだけど、サツキって子の後ろの空間…誰もいなかったのに妙にゆらゆらと空間が揺れてたんだ。まるでその後ろに幽霊でもいるかのように。でもそうか…サータンっていうのはなんのことかはわからないけど、透明になれるマントで身を隠し、サツキちゃんを背後で操る形で人質にとっていたとすれば、ブラックさんたちの行動と、スカロンさんたちの彼女たちへの認識、全てに辻褄が合ってくる」
直接ブラックたちに、ジャンバード内で相対した時のことを振り返るムサシ。何度振り返っても、なぜか首が横に傾いていたサツキの後ろの位置の空間が、風に揺れるカーテンのようにわずかに揺らいでいた。あまりにも不自然な現象だ。
「じ、じゃああの子たちが本意で今回の騒ぎを起こしたわけではないということね?」
「この話が事実なら、そういうことだろうね」
「よかったわ…じゃああの子達、本気で悪事に手を染めたわけではなかったのね」
読み終えて、スカロンとジェシカは納得と安堵からため息を漏らした。ブラックたちは悪意を持って今回の騒ぎを起こしたのではない。仲間を守るために致し方ない事情があったのだと。
「おい、本当にこの内容を信じるのか?この手紙が、こちらを信じ込ませるための罠かもしれないんだぞ?」
しかし、アニエスは立場上疑ってかかる性分なのか未だ懐疑的であった。
「ブラックちゃんたちのことは私たちの方がよく知ってるもの」
「今まで知らなかった本性を露わにしただけかもしれんぞ。考えても見ろ。この手紙の内容が本当に真実なのか確証はない。それにあの女たち、わざわざ土くれのフーケを名乗って犯行に及んだ。そのバロッサせいじんとやらが今回の黒幕かどうかも直接この目で確認が取れた訳ではない。あわよくば自分たちの罪状を誰かに着せて、隙を見て逃亡かもしれない。さらに加えると、エメラル鉱石とはなんだ。そんな鉱石聞いたこともないぞ。
そもそも本気ではないにせよ、あの女共が犯行に及んだことは覆らん」
アニエスには、都合よく罪から逃れるために、自分たち以外の存在が黒幕なのだと、ブラックが虚偽の証言をとってきたのではないかとも予想していた。流石にスカロンも、今となっては元とはいえ、かわいい妖精さんであったブラックを結果として悪く言ってくるアニエスに対しムッとしてきた。
「ちょっと、その言い方ないんじゃない。ねぇサイト」
特に娘であるジェシカは、歳頃なところもあってか不快感が口に出るほどであった。彼女はサイトに同意を求めてくる。
「悪い、俺もブラックって人たちのこと信用できない。あいつらはデルフを盗んだ。俺にとっちゃそれだけでも許せない」
サイトはデルフを奪われた怒りもあってか、手紙の内容を全面的に信用しきれなかった。アニエスが言ったように、本当に適当な嘘をでっち上げた可能性を捨てきれなかった。
「サイト、あんたまで!あんた自身が言ってたじゃない!そのバロッサなんとかってのが実在するって!」
「ジェシカ、落ち着きなさい」
「でもパパ!」
サイトなら同意してくれることを期待していたジェシカが声を上げる。
「サイトちゃん自身もデルフちゃんを奪われた被害者なのよ。悔しいけど仕方ないわ」
スカロンはさすがと言うか、大人の対応を常に心掛けているためか、サイトのブラック達への不信感を汲んで否定することはしなかった。とはいえ、胸を痛めていることに変わりなく、残念そうに目を伏せている。
話を聞いていて、シエスタもますます表情を曇らせる。こんなことになるなら、下心でサイトを誘うべきではなかったのではと。シエスタだけでなく、場の空気が次第に悪くなっていくにつれて、テファやヤマワラワ、リシュもこの雰囲気の悪さに怯えて身が縮こまっていく。
「ちょっとあんたたち…」
「いや、僕は本当だと思うよ」
マチルダが悪い空気を作り出すサイトたちに一言物申そうとしたところで、この場をムサシは手紙の内容が事実であるという見解を示した。
「わざわざ水に浸して炙り出される文を記した手紙を送るくらいだ。バロッサ星人の目を欺く意図もあってわざとそうしたんだよ。もしこのSOSが見つかったら、サツキって子の命に関わっちゃうから。いくら僕らを罠に嵌める意図があるなら、別にわざわざこんな形で現れる文章なんて書かないんじゃないかな。僕らがこの字に気づけなかったかもしれないし」
「ふむ……」
「でも…!」
確証はないものの、だが確かに事実であると裏付けられるだけの理由に、疑念を抱くサイトやアニエスも考えさせられた。
腕を組んで、ブラックのたちのSOSが本当かもしれない可能性を見出したアニエスだが、サイトはまだ疑念が拭いきれなかった。そんな彼を、ムサシは微笑みながら諭してきた。
「サイト君、疑ってかかるのは悪いことじゃないし、僕らの立場上それも大事きなってくる。でも、助けを求める声の真偽を確かめるのも、大事なことじゃないかな。本当に助けるべき人を助けるためにも」
「…」
はっきりとそうは言ってないが、それは同じウルトラマンとしての指摘であった。それを理解したサイトは言い返す言葉が見つからなくなった。サイトとて、本当にブラックたちが純粋に悪意ある存在から救いを求めているのなら、助けてあげることに越したことはないとわかっている。それでも疑念が晴れないのは、自分で思っている以上に、よほどデルフを奪われた恨みが大きかったのかもしれない。
「平賀、俺は春野隊員を支持する」
ふと、しばらく静観し続けていたシュウが口を開いた。それを聞いてサイトはシュウに向けて目を見開く。
「シュウ、本気か?」
「どちらを信用するかしないかはこの際問題ではない。どちらにしろ、この事態を収めるためにも、そのバロッサ星人とやらもフーケを名乗ったあの女たちも無視できない。
それに連中に貸しをつくっておけば、舞踏会に出す分のコーヒーを受け取れるかもしれないからな」
「ちゃっかりしてるねぇ、あんた」
マチルダは、何気に救いの手を差し伸べつつも打算を混じらせたシュウを見て笑う。
「シュウ…」
ただ、テファはシュウを心配そうに見つめていた。今回の事件の裏に星人…つまり、ウルトラマンの力が必要になるかもしれない敵の存在が示唆された。もしかしたら、また彼が変身して無茶な戦いに身を乗り出すことになるかもしれない。そんな悪い予感が過る。マチルダもそんな妹分の感情を読んで表情が曇る。
「だが、万が一バロッサ星人とやらが裏で糸を引いている可能性を考慮して、平賀にも力を借りたい」
「「「!?」」」
しかし、そんな不安を的確に取り除こうとするかの如く、シュウはサイトへ協力を要請してきた。思わぬ彼の提案に、サイトとテファ、そしてマチルダが驚いて思わず彼を丸くなった目で見た。
あのシュウが、他者を頼ってきた。今までが今までなだけに驚きを禁じ得なかった。
「…俺は宇宙人と敵対した経験は皆無に等しい。だから奴らに詳しい者がいた方が、全員無事で事態の収集が可能になるはずだ」
そう言いながら、シュウは視線をマチルダとテファに向ける。これでいいんだろ?と、言葉ではなく目でそう問いてきた彼に肩をすくめながらふぅっと鼻息を漏らす。
「…ま、一人勝手に無茶をしでかすよりかはマシだね」
「姉さん、止めないの!?」
「慌てないのテファ、確かに今回、どうも厄介な事案だけど、こいつはちゃんと自分以外の誰かに頼ってきたんだ。
あたしも、今回も首を突っ込ませてもらうよ。ちゃんとシュウが無茶をしないままでいられるか見ておくためにもね」
「…本当に、大丈夫?」
どうしてもテファは、シュウに尋ねずにはいられず、拭えない不安をシュウに向けて口に出した。
「お前の望む結果になるよう努力する」
無事に5体満足でこの事件を解決できるかは保証できないが、もう以前のように無茶はしないよう心がける。そのように言われて、テファは不安を抱えながらもそれ以上は言わないことにした。実際テファも度重なる怪獣や闇の巨人の脅威の真っ只中にいて、死の恐怖等に怯えてきたからこそわかる。今回の事件は、場合によってはシュウやサイトがウルトラマンに変身してでも解決させなければならないことなのだ。
だが、だからこそ不安なのだ。たとえ無茶は控えるとは言っても、シュウとマチルダ、自分の最も近しい間柄の人間が進んで危険に身を投じる以上は、どうあっても拭えないのだ。
とはいえ、シュウもテファのためにも舞踏会をちゃんと成功させたいだけに、今回の事件を解決して、コーヒーの提供を確実なものとしたいところである。バロッサ星人に脅されているのが事実でもブラックたちに自分の偽名を利用されるのは気持ちがよくない。
「…ねぇサイト。あの子たち、何かあったの?」
「まぁ、色々とね…」
シュウとテファ、マチルダたちの間にある妙な空気に、ジェシカは興味をそそられたのかサイトにそっと耳打ちしてきた。
最初は恋色沙汰か何かと一瞬期待したがそうでもないらしい。ならサイトが詳しそうなので声をかけたが、サイトも自分の口からそれを、無関係のジェシカにそれを気安く言うのも違うので適当に流すことにした。
まだそれよりも、シュウも本当なら、過去のトラウマもあって他者に頼るのをしぶりがちなのを押し殺して自分を頼ってきたのだ。なら、自分の選ぶべき道は一つしかない。
「…わかった。これ以上デルフを取られたからってあいつらに目くじらを立て続けても俺が悪者になるだけだ。俺もブラックさんたちを助ける。デルフを取り戻すためにも。
アニエスさん、構いませんか?」
「…まぁ、このまま我々だけで事件の解決は難しいところだからな。サイト、こちらからも引き続き協力を願う」
サイトも引き続き、今回の事件を解決すべくアニエスへの協力を継続する旨を示した。
「その代わりと言っては何ですけど、スカロン店長。あの人たちへのコーヒーの件の口添え、お願いしてもいいですか?」
「もちろんよ!ありがとうねサイトちゃん、あの子達をどうかお願いね!」
元妖精さんを助けるためならそのくらいの申し出を断る理由はないのだと、スカロンは喜んだ。一時はサイトが協力を渋るのではと不安ではあったものの、サイトはなんだかんだ助けを求めるとそれに応えてくれる良い子なのだとスカロンは再認識する。
「だが、もう一つ気になることがあるな。あのブラックという女性が言っていた、要求内容の…『エメラル鉱石』だったか?これはトリステインで産出できるもの…ではないんですか?」
サイトとシュウ、そしてマチルダが続けて協力する意思を示したところで、ブラックの要求から新たに浮かんだ懸念について、ムサシはアニエスに尋ねた。
「私は貴族の名を手にし今の地位を獲得して以来、この国に一層貢献できるよう、国の内情等には目を通しているが、さっきも言ったがエメラル鉱石とやらは聞いたことがない。まだ目を通していない情報があったのか、それとも奴らがでたらめを言っているだけなのか…」
元々平民でありながら、貴族の位と銃士隊の隊長としての地位を得たアニエスは、その地位に驕ることなく、従来通りの生まれながらの貴族たち以上の忠節を行動で示すべく、国内情報等について予習可能な分はしっかり予習をこなしていた。これも貴族の位を得たことで国の資料室の利用が可能となったからだろう。そんなアニエスでも知らないことのようだ。
「今の話だと、アニエスさんどころか他の人たちも知らないみたいだろ。それを来週までに用意しとけとか、横暴どころじゃないぜ」
この国で認知すらまともにされてないものを要求してくるあたり、あちら側のこちらに対する理解力がやや欠如しているとも捉えられる有様に、サイトはどこか呆れたものを感じる。
「うーん。本気でこちらに要求を呑ませる気があるのか、それとも無理やりにでもこちらに難題を解決させたがるほど余裕がないのか。はたまた、彼女たちにはあると言わせるだけの確信があるのか…」
「…うぅ〜、お話長すぎ〜!リシュ疲れてきた〜!」
すると、長話に耐えかねたか、リシュが根を上げるように口を挟んできた。言われてみれば随分長々と話していた。リシュもシュウたちに連れられ、気が付けば事件が起きて蚊帳の外状態でずっと待たされ続け、さすがに疲れてしまったのだろう。幼子にしては随分我慢したと言える。実際、既に外は暗くなっていた。
「ねぇ、もう遅くなっちゃったし、今日のところはお開きにしない?リシュも疲れちゃったみたいだもの」
不貞腐れだしたリシュをなだめようと彼女の肩に手を添えたテファが、皆に向けてそう言うと、サイトたちはひとまずこの日は一度解散することになった。
その後、アニエスはジャンバードの方位を維持しつつ、ブラックが要求してきた『エメラル鉱石』の情報を求めて、アンリエッタに国で産出可能な鉱石類に詳しい者の協力の取り付けや国の資料室の使用許可を下ろしてもらうべく王城へ繰り出した。情報が不確かなものに対する要求のためとはいえ、時間がない。残存する魔法衛士隊や銃士隊がジャンバードを包囲する1週間の間、可能な限り情報を集め、鉱石のありかを突き止める。サイトたちも手伝うべきか頭をよぎったものの、サイトの場合はあくまでシエスタのお願いを果たすために来た身で、主であるルイズが不在の状態でこの街に着た。ほいほいとアニエスの仕事の手伝いで国の貴族しか入ることが許されない場所へ踏み入るわけにいかない。シュウもリシュやテファを放っておくわけにもいかないし、ブラックたちやその背後にいるであろうバロッサ星人対策のため、サイト共々待機。マチルダに至っては、本物のフーケである以上同様だ。ムサシもこの国では位を持たない身だから以下同文。
この日はスカロンの好意で、宿を取らせてもらう形で一同はトリスタニアで一夜を明かすことになった。
(待ってろよデルフ…必ずお前を取り戻す)
宵闇に満ちたトリスタニアの街を照らす双月を見上げながら、サイトは相棒であるデルフを取り戻すべく、明日に備えて休むのだった。
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