儚き想い、されど永遠の想い
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429部分:第三十三話 鈴虫その五
第三十三話 鈴虫その五
そしてその言葉を聞いてだ。義愛も義智も言うのだった。
「もうすぐ一年だ」
「しかしまだだな」
「はい、今の生は続きます」
まさにそうだとだ。義正は兄達に話した。
「桜を見る。その時まで」
「桜は四月だ」
義智が述べた。桜の時期を。
「そして今は十一月だ」
「五ヶ月ですね」
「長いと思うか」
「一瞬です」
今の義正にしてみればだ。本当にそれだけだった。
そしてその一瞬についてだ。彼は話すのだった。
「その一瞬をです。私達はです」
「過ごしそうしてだな」
「桜を見ます。そして今は」
その一瞬の先からだ。今に話を戻してd。
そのうえでだ。彼はこの話もした。
「紅葉を見ます」
「そうするのだな」
「今この秋は」
「はい、では行って参ります」
こう話してだった。彼は真理、それに義幸を連れてだ。その公園に赴いた・
公園の中には石の基盤があった。その上を歩きながらだ。
真理にだ。義正はこう話したのだった。
「この基盤は豊臣秀吉が好きだったものです」
「豊臣秀吉がですか」
「彼もまた風流を愛していました」
確かに派手好きで百姓あがりで教養がないとされていた。しかしそれでもなのだ。
彼もまた風流に接していた。そして愛していたのだ。
そしてそのことをだ。義正は今真理に話すのだった。
「ですからこの公園。当時は寺でしたが」
「よく来ていたのですね」
「そうです。そして」
義正はここで上を見上げた。そこにはだ。
赤や橙、黄色の葉達がある。赤は紅に、黄は黄金に見える。日が照らしてそうした色をさらに見事に見せていたのだ。それを見ながらだ。
彼はだ。こうも話すのだった。
「この葉達はどうでしょうか」
「紅葉ですね」
「奇麗ですね」
真理はこう言ったところでだった。さらにだ。
義正にだ。こう言うのだった。
「いえ、奇麗という言葉ではです」
「言い表せませんか」
「それ以上のものがありますね」
これがここでの彼の言葉だった。
「何かこの世のものではないような」
「そこまでのものがありますか」
「そう思えます」
こう言う彼だった。
「非常に。それで」
「それで、ですか」
「この中にいますと」
紅に黄金、そしてその中間の橙の中にいるとだというのだ。
頭上にはその葉達が生い茂っている。そして足下にはだ。
同じ色の葉達がある。それも見てだ。
真理はだ。こうも話した。
「頭の上にも足下にもですね」
「そのどちらにもありますね」
「紅葉達が」
そのことも見てだ。真理は話すのだった。
「これは桜の時もそうでしたが」
「紅葉も同じです」
「花ではありません」
三人がいつも見ているだ。それではなかった。
だがそれでもだとだ。彼女は話すのだった。
「ですが花と同じだけですね」
「素晴らしいものですね」
「ええ。この世にはいないような」
そんな気さえするというのだ。
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