獣篇Ⅱ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
11 すぐキレるのは止めましょう。
_「フフフフフ)
貴様らわしを査定に来たのか?気付かぬとでも思っていたか?」
足でひっくり返す。
_「上の差し金だろう?巨大な力を持つ吉原に恐れを抱き始めたか、ジジイども。吉原に巣食うこの夜王が邪魔だと?主らにこの夜王鳳仙を倒せると?」
_「い、いや…アンタと言えども、春雨と正面からやり合う気になれんだろう?よく考えて行動した方が身のためだ。」
_「ソイツは困るなァ。そんなんじゃ、オレのこの渇きはどうすればいい?女や酒じゃダメなんだよォ。オレはそんなものいらない。
そんなもんじゃ、オレの渇きはは癒えやしないんですよ。」
ニヤリと笑いあう二人。
_「血…修羅の血…。己と同等、それ以上の業なる者の血を以て初めて、オレの魂は潤う…。」
_「フフフフフ)
反目しあい、殺しあいを演じた、と聞いたが…血は争えんなァ。その目はヤツの目。その昔、夜王と呼ばれ、夜兎の頂点に君臨したわしに唯一強靭せず、たった独りで挑んできた男。…主が父、星海坊主の目。
三日三晩にわたる打ち合い。昨日のことのように覚えておるわ。わしとあれほど長く対峙した者はヤツが初めて。決着がつかなかったのも、ヤツが初めてであった。そして…」
_「あのォ、ウンコしたいんだけど。」
_「あんな幕切れも初めてであった。神威、貴様に父が越えられるか?」
_「もうとっくに越えてるヨ。家族がなんだ、とつまらない柵に囚われ、子どもに片腕を吹き飛ばされるような脆弱な精神の持ち主に、真の強さは得られない。旦那、アンタもあの男と似ているよ。外装はゴツくとも、中身は酒と女しかない。真の強者とは強き肉体と、強き魂を兼ね備えた者。何物にも囚われず、強さだけを追い求めるオレに、アンタたちが勝てやしないヨ。」
_「抜かせ、子童ァァッ!」
_「やめろ、団長ォォッ!」
あとは頼む、と言ってまた百華の格好に戻ってから、との建物の玄関に向かう。
とても声が響くためか、ドアの向こうから声が聞こえた。
_「すまぬ、わっちがもっと早くに逃がしていれば…。」
_「謝る必要なんてねェよ。」
_「…行くのか?」
_「行かなきゃ…晴太くんが死にます。」
_「行けば主らも死ぬ。夜兎が四人。軍隊一個あっても足りぬぞ。」
_「アイツは、私かなんとかしなきゃいけないネ。」
_「他が為に行く…晴太か?日輪か?」
_「ちょっくら、お陽さん取り戻しに行ってくる。こんな暗がりに閉じ込められてる内に、皆忘れちまった、太陽を。どんな場所だろうとよォ、どんな境遇だろうとよォ、太陽があるんだぜ?日輪でもねェ、連れションの旦那でもねェ。てめェのお陽さんがよォ。雲に隠れて見えなくなっちまうこともよくあるがよォ、それでも空を見上げてりゃァ、必ず雲の隙間から面を出すときがやってくる。だからよォ、あオレたちァ、ソイツを見失わねェように、空を仰ぎ見ることを忘れちゃァいけねェんだ。
背筋しゃんと伸ばして、お天道様ちゃんと見て、生きてかにゃァならねェんだ。…しみったれた面した連中に言っておいてくれ、空を見とけ、って。あの鉛色の汚ェ空に、オレたちが、バカデカいお陽さんを打ち上げてやらァ、ってな。」
_「悪いが断る。わっちも共に行くからのォ。」
_「吉原との戦いに、吉原の人間連れていくわけにゃァいかねェ。てめェ、裏切りもんになるぜ?」
_「言ったはずじゃ。わっちが守るのは日輪じゃ。吉原に忠誠を誓ったことなど一度もない。晴太を見殺しにする方がよほどの裏切りぞ。
それに、わっちも人に頼るばかりじゃなく、自分で探してみる気になったのさ。てめェのお陽さんというやつを。」
_「帰るとこ無くなっても知らねェぜ?」
_「大丈夫じゃ。だって主ら、吉原を叩き潰してくれるんじゃろう?」
ページ上へ戻る