孔雀王D×D
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10 どす黒い陰謀
一晩、宿に泊まった孔雀たちは裏高野本山へと出発していった。
裏高野は高野山の裏側に位置するのだが、その存在は誰に知られてはいない。そして、朝早く出発したのにもかかわらず孔雀たち一行がたどりついた時はすでに日は落ちかけていた。
「第九階中僧都・孔雀。御呼びにより参上仕った!!」
巨大で分厚い頑丈そうな門の前で孔雀は怒鳴った。そると、ゆっくりと門が開き、僧兵のような恰好をした二人の僧侶が現れた。
「よくぞ参った。日光様がお待ちになられている。拙僧について参られ」
僧侶たちは孔雀たちを先導するように先頭を歩きその後に孔雀たちは連れだって歩きだした。
もともと、裏高野本山は女人禁制なのだが、毎回、阿修羅は男装して入っていた。
「ねね、孔雀、もう、普通に入っても怒られなんじゃない?」
と阿修羅はひそひそと孔雀の耳元でささやいた。
「馬鹿、駄目に決まっているだろう?女人禁制は日光が座主になっても変わらないの」
孔雀は阿修羅が、かぶっている編み傘をぐいっと顔深く引っ張った。
孔雀たちは大講堂まで案内され、待つように言われた。
「よく来た。孔雀、鬼丸、そして、阿修羅よ」
現裏高野・座主の日光が数分で現れた。さすがに、裏高野を束ねる総大将となれる孔雀が知る日光よりも堂々としていて威厳さえある。
「日光様もご機嫌うるわしゅう」
孔雀は深々と頭を下げた。
「堅苦しい挨拶は抜きにしようや。俺たちを呼んだ理由っていうのをちゃきちゃき言ってもらいたいものだな。日光さんよ」
腕を組んで胡坐をかいて座っていた鬼丸が日光に睨みつけるように言った。
「その通りです、兄上。お三方には隠すことはありますまい」
屏風の外から女性の声が聞こえてきた。
「月読、来ていたのか」
日光が言うと静かに屏風が開かれると美しい女性が姿を現した。彼女こそ裏高野女人堂を統べる者であり、日光の実の妹でもある。
「月読様、お久しぶりです」
阿修羅は月読の元へ走り出し抱き付いた。
「久しぶりですね、阿修羅。元気でいましたか?」
月読は妹を見るような目で阿修羅に言った。
「はい!!」
阿修羅は満願の笑みで答えた。
「いいことです。孔雀様も元気そうですね」
月読は孔雀を見つめて言った。が、彼女は目が見えないのではあるのだが。
「月読様もご機嫌麗しゅう」
孔雀は頭を下げた。
「さて、孔雀、鬼丸、阿修羅。本題に移るとしよう」
日光は一つ咳払いをして皆の顔をみまわした。
「今回、お前たちを呼んだのはほかでもない。黄幡星が近づいて来ている」
「な、なんだって!!」
「そんな馬鹿な!!」
「あいつ、孔雀が倒したはずでしょ?」
孔雀たちは各々驚愕の声をあげた。
「本当の事なのですか?月読様」
孔雀は月読に向かって声を上げた。
「残念ながら本当の事です」
月読は目を伏せて答えた。
「星見の星海殿の報告もあった」
日光は月読の後に続けて言った。
「じょ、冗談じゃねぇ。また、あいつにかかわるのはごめんだぜ」
鬼丸は立ち上がり席を外そうとした。
「待てよ、鬼丸。なんで黄幡星が復活したのか事情を聞いた後でも遅くないだろう」
「そうよ。もう、おじいちゃんから貰ったお金もつかっちゃんでしょ?」
孔雀に続いて阿修羅も鬼丸を引き留めた。
「ちっ、わかったよ。聞かせてもらおうじゃないか、日光さんよ」
鬼丸は再びどっかりと座って日光を見据えた。が、日光は苦虫をつぶしたような表情で腕を組んで黙りこんでしまった。
「兄上、私から説明いたしましょうか」
月読は目が見えない分、人の空気が読める。ゆえに、日光の迷いを感じとったのだった。
「あの鳳凰の乱により空海お上人の封印が解けてしまったのは、みなさんの知っての通りです」
月読はゆっくり話し始めた。
鳳凰の乱とは、孔雀と同じく真言を唱え魔を退治することを生業とした退魔師の一人である鳳凰という人物が、地獄の魔物達を人間界に放出させ、まだ未熟な弥勒菩薩を消滅させようと企てた事件の事である。そして、その企てに必要だった要因が裏高野奥の院にあった空海の即身仏。
鳳凰はまんまと企てに成功したかに見えたが、孔雀との決戦に敗れ企てが失敗に終わったのだった。だが、この事件を発端にしてアルマゲドンへと突き進んでいったのだった。
「そして、空海お上人の代わりに私たちの父・前座主の薬師大医王が魔の封印となるべく即身仏となる事になったのですが・・・・・・」
月読は言葉を飲み込みため息を一つついた。
「もうよい、月読。そこからは私が話そう」
日光が言葉を続けようとした月読を制し話始めた。
「お前たちは知らないだろうが、ここ裏高野は未だ安定はしておらんのだ」
「え?どういうことなのですか?」
日光の言葉に孔雀は反応した。
「お上人が封印していた魔界への扉は未だに閉じられていないということだ」
「そんな馬鹿な!!だって、あのアルマゲドンから何年経っているとお思いですか?日光様」
孔雀は日光の言葉の言葉が信じられなかった。
「おいおい、ということは、薬師医王はまだ即身仏になっていないということか?」
鬼丸が孔雀に続いた。
鬼丸の言葉に日光は言葉に詰まった。
「ま、まさか、そのせいで黄幡星が復活したってことなのですか?」
「だから、お前たちと絡みたくなかったんだよ」
鬼丸は孔雀の問いに呼応するかのようにため息をついた。
「確かにお前の言うとおりだ、孔雀。この裏高野には、まだまだ闇と戦いたい退魔師がごまんといる。平和などを望まない退魔師がな」
日光は唇をかんだ。
「そのような輩が父を担ぎ出し、今なお魔界から闇の気が流れだしお山を覆っている」
(なるほど、この気持ち悪い気がそのせいか)
日光の言葉をいち早く感じていたのは、鬼丸だった。
「それで、日光様、我々にどうしろというのですか?」
孔雀はおおよそ何をするのかは、気づき始めていた。が、自分の予想を確認するために日光に問うた。
「お前の察しのとおりだ、孔雀」
日光もまた孔雀の心情を察していた。
「でもさぁ、日光様。孔雀てば、霊能力もなければ術も使えないよ、どうするの?」
「それは大丈夫よ、阿修羅。私に考えあります」
阿修羅の問いに月読が答えた。
「その考えっていうのは、なんなんですか?月読様」
すぐさま月読に孔雀は聞いた。
「兄上と私の霊力を孔雀様に少し分け与えるのです」
月読はにっこりとほほ笑んで孔雀に言った。
「そんなことが可能なのですか?月読様」
孔雀は眼を見開いて月読に言った。
「俺と月読だからこそ出来る技なのだ」
日光が月読に変わって言った。そして、月読も軽くうなずいた。
「だが、日光とあんたの力を孔雀に与えるということに問題はないのか?例えば、日光とあんたの力が弱まるとか」
鬼丸は柄にもなく日光と月読の事を心配しているようだった。
「それは心配には及びませんよ、鬼丸さん」
月読は鬼丸に微笑んだ。
「もともと、孔雀様は光と闇の心をお持ちになるお方。月光菩薩の私を媒介にすれば兄上の日光菩薩の力と私の力を分け与えたとしても全く問題ないのです」
「そんなもんかねぇ」
鬼丸は月読から顔をそむけて言った。
「はは、鬼丸、何照れてんの」
阿修羅は鬼丸の横腹を軽く小突いた。が、何も言わず鬼丸は阿修羅の頭を拳骨でたたいた。
「い、いったぁーーい!!なにすんのよ!!」
「お前がうるさいからだよ、馬鹿」
「全くうるさいことよ」
鬼丸と阿修羅のやり取りを見ていた日光はため息をつきつぶやいた。
「ですが、月読様。俺の神通力が復活すると言っても、どの程度のものなんですか?」
孔雀もまた二人のやり取りなぞ気にすることなく、月読に聞いた。
「そうですね。必殺の孔雀明王呪でいえば2回くらいでしょうか」
「2回ですか」
「はい、申し訳ありませんが」
孔雀の思案顔を見て月読は申し訳ないように謝った。
「いいえ。大丈夫ですよ、月読様。なんとかなります。こっちには、頼りになる仲間がいますから」
孔雀はにっこりと微笑んだ。
「おっ、いいこというじゃねぇか、孔雀。お前からそんな言葉をきくとはおもわなかったぜ」
鬼丸はにやりと微笑んで孔雀の肩を軽く小突いた。
「そうよ、孔雀。私に任せてよ」
阿修羅も胸を張った。
「お前は足を引っ張るなよ、阿修羅」
阿修羅に皮肉り大きく笑った。
「ひ、ひどぉーい」
阿修羅は、頬を膨らました。
「はははは、まぁいいじゃないか」
孔雀は鬼丸と阿修羅のやり取りを見つめて笑った。
「さて、孔雀。時間がない早急に儀式を始めるとしよう」
日光は月読と孔雀の両者を見つめて言った。
「わかりました、兄上。阿修羅と鬼丸さんは外でお待ちになられてください」
月読は日光に向かって頷いた。そして、孔雀も無言でうなずいていた。
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