獣篇Ⅱ
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5 殺し屋を甘く見てはいけない。
用意してもらった部屋に入ると、神威はベッドの上に私をのせ、縁に座った。本当は全然眠くないが、神威がこちらをじっと見ている。
_「ねぇ、神威。」
_「なぁに?」
と、張り付いたような笑みを浮かべる。なんか隠してるの、バレバレですよ、あなた。
思いきって言ってみよう。
_「神威、さっきの抹茶ラテに何か眠くなるようなものを入れなかった?」
_「え?入れてないヨ。」
口の端が震えている。
_「そうかしら?白状したらどう?」
しばらく沈黙が続いていたが、やがて神威は降参降参、と言って、手を上げた。
_「もう。零杏には絶対にバレないようにしよう、と思ってたんだけどネ、睡眠薬を入れたヨ。なんで分かったノ?」
_「臭いがした。あと、殺し屋の勘。こう見えて私、一流の殺し屋だもの。甘く見てもらっちゃ困るわ。」
ヘェ、と感心している。
_「さすが、シンスケが側に置きたがるのも分かるヨ。」
_「ありがたきお言葉をどうも。
ついでに暗殺してしまってもいいかしら?」
_「ダメだヨ。それよりさ、シンスケなんかより僕と結婚してくれヨ。だって君、強い子を産みそうでしょ?」
_「そう?私そんなに強そうに見える?」
_「ウン。正直女にしちゃァもったいないくらい。」
_「そう、ありがとう。でもね、今はまだ誰とも結婚するつもりはないの。まだまだ青春を謳歌したいわ。
それより、今回の目的地はどこなの?夜王鳳仙とか言うワードが聞こえたけど。もしや、吉原かしら?」
_「すごいネ。零杏ってばすぐに解いちゃうんだから。そうだよ、吉原だよ。ちょっと野暮用でネ。鳳仙の旦那に会いに行かなきゃいけないんだ。」
_「なるほど。でもなぜ私が?」
_「零杏も気づいてるかと思うけど、鳳仙の旦那は『日輪』という女に夢中だ。そしてオレは、その女に会ってみたい。だから君は百華に潜入してもらいたいんだ。できそう?」
_「私はいいけど、衣装はどうするの?」
_「そうそう、だからね。これを着てヨ。」
と、渡されたのは、花魁風の着物と網タイツに膝上までの黒のブーツ。
_「これを着れば、百華になれるの?」
_「ウン。なれるよ。それで、鳳仙の旦那に接触してもらいたいんだ。」
_「なるほどね、そういう訳だったの。」
_「そうなノ。だから頼んだヨ。シンスケから零杏の腕はスゴい、って聞いてたからネ。」
_「ふーん…で?連絡手段はどうしたらいいの?」
_「イアホン型のトランシーバーと、あとちっさいマイクを着物に付けておいてくれれば大丈夫だからサ。」
と、それらも渡された。
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