儚き想い、されど永遠の想い
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402部分:第三十一話 夏の黄金その六
第三十一話 夏の黄金その六
「あの、秋ですが」
「秋が何か」
「まだ暑いですがそれでもですね」
「はい、秋です」
そうだとだ。義正は秋のはじまりも笑顔で答えたのである。
「その通りです」
「そうですね。紛れもなく」
「何かあったのですか?」
真理の態度が何処かよそよそしいように感じられてだ。真理に問い返したのだ。
「一体」
「いえ、ただ」
「ただ?」
「不思議に思えまして」
こう言った真理だった。
「それで」
「不思議にですか」
「いつもは秋のはじまりは何ともないと思っていました」
「しかし今はなのですね」
「夏以上に。切なく感じられます」
「夏以上にですか」
「秋は。次第に寒くなってきて」
そうしてだというのだ。秋というものは。
「冬になりますね」
「そうですね。それは確かに」
「冬ですが」
秋のはじまりにだ。真理はもうその冬のことを思ったのである。
それでだ。こう言うのだった。
「その冬を。どうしても」
「越えられて。そうして」
「春にいきたいですが」
「それでもなのですね」
「私はまずはこの秋を越えなくてはいけませんね」
町は遠くを見てだ。そうして言ったのである。
「まずは最初に」
「そうです。それはどうしても」
「秋は長いですが」
夏以上に長い。春に梅雨があり夏がある。だがその秋はだった。
「十二月を冬のはじまりだとすると」
「秋は三ヶ月ですね」
「長いですね」
真理は少し俯いてだ。義正に話した。
「はじまりでそう思えます」
「長いと思えばどんなものでも長いです」
その真理にだ。義正は優しく話した。
「そう、一日、一時間でも」
「どんな時間でもですか」
「そして短いと思えばです」
「どんな時間でも、ですね」
「今までどうでしたか?」
義正は真理にこれまでの時の流れについて尋ねた。
「これまでは」
「冬に春、梅雨に」
「そして夏です」
「それまではどうかというのですね」
「どうでしたか?これまでは」
「そうですね」
義正に問われてだ。真理は少し考える顔になった。
それは一瞬だった筈だ。だが真理はその一瞬の間に多くのことを考えてだ。そのうえでだ。義正に対してこう答えたのである。
「あっという間でした」
「そうでしたね」
「はい、一瞬でした」
そうだったとだ。真理は答えたのだった。
「まさにです」
「そうですね。これまでは」
「充実して。そのことは前にお話しましたが」
「そういうことです。ですから秋もです」
「一瞬ですね」
「はい、一瞬です」
そのだ。秋もだというのだ。
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