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本当の強さ

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第四章

「あの、この人がですか?」
「峯川さんですか?」
「峯川治五郎さんですか?」
「この人が」
「そうなんですか?」
「そうだ」
 その通りだとだ、先生が答えた。
「先生の大学の同級生だ」
「空手家ですか?」
 倫子が怪訝な顔で先生に尋ねた。
「この人は」
「違う」 
 先生は手を挙げた倫子にすぐに答えた。
「格闘技は何もしていない」
「そうですか」
「そうだ、しかしな」
「しかし?」
「話を聞けばわかる」
 この一見何の変哲もない彼のそれをというのだ。
「そうすればな」
「そうですか」
「いえ、私は別に」
 その峯川が答えた。
「本当にです」
「大したことはないか」
「そうです、仕事もです」
 峯川は先生に穏やかな顔で話した。
「ごく普通の市役所の公務員ですし」
「仕事の話じゃない」
 先生は峯川に確かな声で返した。
「俺は御前程強い奴を知らない」
「だからですか」
「うちの部員達に御前のことを話してだ」
「そしてですか」
「知ってもらいたい」
 こう峯川に言うのだった。
「だから来てもらった」
「それでは」
「うちの部員達に話してくれるか」
「わかりました、それでは」
 その言葉を受けてだった、そのうえで。
 倫子達空手部の面々は峯川の話を聞いた、彼は大学の頃だ。
 不幸な交通事故で半死半生の重傷を負ってだ、そうしてだったのだ。
「下手をすればですか」
「一生ですか」
「寝たきりだったんですか」
「そう言われたんですか」
「はい」
 穏やかな声での返事だった。
「そうなりかねませんでした」
「あの、ですが」
「今の峯川さん普通にです」
「歩いてますけれど」
「立ってますし」
「そうですね」
「それがだ」
 ここでまた先生が部員達に話した。
「リハビリをしてだ」
「そうしてですか」
「今みたいにですか」
「動ける様になったんですか」
「普通に」
「そうだ、最初はな」
 先生は峯川を見つつ倫子達に話していく。
「寝たきりとも言われていたんだ」
「一生ですか」
「そんな状況だったんですか」
「一生寝たきりって」
「そこまで重傷だったんですか」
「そうだったんだ」
 実際にというのだ、先生の顔は真剣そのものだった。
「けれどそこからな」
「リハビリをして」
「そうしてですか」
「そうだ、試しにだ」
 ここでこうもだ、先生は倫子達に話した。
「手を拳にして暫く動かさないでみろ」
「あっ、俺あれです」
 男子部員の一人が右手を挙げて先生に言ってきた。 
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