天国と地獄<中世ヨーロッパパロディー>
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5 CantoⅠー 109
ベルが鳴った。担当のヘンドリッチ教授が現れた。
_「では、皆さん宿題をお出しください。」
ソウデス。今回の宿題は、オウィディウスの『恋の歌』第一巻第13節の「暁の女神」だ。
_ quo properas, ingrata viris, ingrata puellis ?
これを訳してきなさい、という話だったが、何しろ本を探すことからしなければならなかったから、とても大変だった。
答え合わせは授業中にする、と聞いたのでノートにメモっていた。
_「暁の女神よ、どこへ急ぐのですか。男らに嫌われ、乙女たちにも嫌われながら。」
先生がロマンチストなのは構わないが、なぜこの宿題を出したのか、
いまいち理解できない。
確かにその授業で習った「どこ」と、「嫌う」という単語さえ分かればなんとかなる文章だが。
_「はい、では分かる人。」
はい、とスリザリンの先輩が声をあげる。
そう、彼女は高杉の追っかけをやっている、1個上の先輩だ。
_「どこに行くのに急いでいるのですか?男らにも、乙女らにも嫌われながら。
です。」
と、私をスゴい目で見ながら発表する。
そこ、なぜ私?
_「よくできました。
では、次のところに移ります。」
_「スゴいナ、零杏は。ほぼ完ぺきアル。
私なんて全然できなかったヨ。」
と、神楽ちゃんはホメてくれたが。
_「運だよ、運。今回はツイてたんだわ、きっと。」
そして、体格の練習、と言うことでダンテの『神曲』の一部を訳すことになった。
一部を授業で訳し、残りは宿題になった。
_ Questi la caccerà per ogne villa, こ(の猟犬)は遍く町を巡りて彼女を逐い払い、
fin che l’avrà rimessa ne lo’nferno, 初めに妬みによりて地獄から引き離されし彼女を、
là onde’nvidia prima dipartilla 再び其処に戻してしまうならむ。
それについてばかり考えていた、長かった一日も終わり、残りの魔法史も終わったところで、
今から寮に戻って支度をし、今日の練習試合に参加する予定だ。
***
一方、妹の麗奈は、母親とその一族の屋敷に住んでいた。
_「お母様、零杏お姉様は今、どこにいるの?」
_「零杏は、ホグワーツにいますよ。」
そう、まだ零杏本人は気づいていないが、零杏の母親は、純血の悪魔族である。
_「私、零杏お姉様とも一緒に住みたいわ。呼び戻してもよろしいかしら?」
_「でも、お父様がお許しにならないわ。」
_「お父様が?」
_「ええ。お父様は零杏をお屋敷へあげたくないのよ。」
_「なぜ?」
_「お父様は、零杏が悪魔族側に片寄ることを恐れてるのよ。すでに麗奈が悪魔族に引き取られているでしょう?」
_「つまり、お父様は、零杏お姉様は天使族であって欲しい、ということ?」
_「ええ。そういうことになるわね。」
_「でも、お姉様も一緒なら悪魔族側にとっても一石二鳥なんじゃなくて?」
_「もし、そうなれば戦争が悪化するわ。せめて母親として零杏を守りたいの。だから、お父様の言うことを守ろうとしたのよ。」
私は、高杉がお姉様を好きでいることを知っている。
_「もし、悪魔族の誰かがお姉様を嫁にもらいたい、と言ったら?
どうなさるの?」
_「お父様のお許しを頂かなくてはなりませんわね。」
お父様は、神様だ。
そして、その王座を零杏お姉様に譲るつもりだ。
決してそうさせるものか。
王座につくのは、私だ。
まずは、お姉様を誘拐することから、かしらね。
私は、神威に連絡を取った。
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