儚き想い、されど永遠の想い
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371部分:第二十九話 限られた時その二
第二十九話 限られた時その二
「まずはそう思うことだ」
「生きることをですか」
「日露戦争でもそうだった」
父はその頃の話をした。日本という国自体が全てを賭けたその戦争のことをだ。
「あの時は確かに兵器や戦術がよかった」
「しかしそれだけではなくですね」
「そこにもう一つあったのだ」
まさにだ。それこそはだった。
「心だ」
「勝とうという心ですね」
「それがあったからこそ勝つことができたのだ」
日本の有史以来の危機もだ。それができたというのだ。
「それが達成できたのだ」
「そうなのですね」
「だから御前も持て」
そのだ。心をだというのだ。
「生きろ。いいな」
「はい、最後の最後まで」
「奇跡という言葉がある」
父が今度言う言葉はこれだった。
「奇跡は起きるものではないのだ」
「ではどういったものでしょうか」
「起こすものなのだ」
こう言うのだった。娘に対して。
「そうしたものなのだ」
「起こすものですか」
「人が起こすものなのだ」
日露戦争がそうだった様に。そうだというのである。
「だから御前もだ」
「私自身で、ですね」
「起こすのだ」
その奇跡をだ。娘に起こせというのだ。
「わかったな」
「私にできるでしょうか」
「できると思うことだ」
父として。娘に告げた言葉だった。
「わかったな。できると思うことだ」
「疑念を抱くのではなく」
「そうだ。思うことだ」
またこう告げたのである。
「それからだ」
「そうしてですか」
「果たすのだ」
娘への強い言葉が続く。
「奇跡をな」
「わかりました。それでは」
「奇跡は起こすものであり。そして」
「そして?」
「その人にとっての奇跡はかけがえのないものなのだ」
真理に生きるということ、それはだというのだ。
「死期は早められるしこともできれば遅らせることもできるのだ」
「そうですね。確かにです」
ここで母も口を開いてきた。
「思い次第で」
「気の持ちようで変わる」
また言う父だった。
「真理、御前のだ」
「そういうことなのですね」
「わかったのならば気を確かに持て」
「はい」
真理は父の言葉に確かな顔で頷いたのだった。
そうしてだった。自分から両親にだ。強い声で言ってみせた。
「私は必ずです」
「生きるな。最後まで」
「来年の桜の時まで」
そのだ。義正と約束したその時までというのである。
「生きます。そして」
「そしてだな」
「あの人と二人でその桜を見ます」
「そうすることだ」
「是非共。それまで頑張りなさい」
両親はその真理に微笑んで述べたのだった。そうした話をしてからだ。
真理は自分の屋敷に戻る為に実家を後にした。その門のところにだ。
見慣れた車が待っていた。その車の運転席からだ。
義正が出て来てだ。彼女に微笑んで言ってきたのだった。
「御待ちしていました」
「御仕事の帰りですね」
「はい」
その通りだとだ。義正は微笑みのままで真理に答える。
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