十六夜咲夜は猫を拾う。
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第15話
『…………………』
その後部屋に戻ると、レミリアは月を眺めながら
フランと共に月光浴をしていた。
今日はちょうど満月で、まんまるい月が
夜空に眩いほど輝いていた。
『お嬢様、どうかなさいましたか?』
『………今日は満月よね。』
『はい、今日は満月の日でございますが…』
『なんかね、妖力を感じないの』
レミリアが不思議そうな顔をしてそう言った。
『えっ…?』
『フランの言うとおり、妖力が感じられないのよ。
どこか、一点に集中して集められてるように』
その言葉を聞いた時、胸のあたりがざわりざわりと違和感が這う。
反射的に手を胸のあたりで握りしめ、這い上がってくるそれを抑えようとする。
『…珍しいですね。そんな事、一度もなかったのに…』
『あの月、偽物かなにかなのかしら。』
『いえ、でもいつもと変わらないように思えますが…』
『お姉様ー、私、美鈴とお外で遊んでくる』
『ええ、いってらっしゃい』
そんな月に飽きたのか、フランは美鈴と外に行ってしまった。一方レミリアは頬杖をつき、月を眺めているだけだった。
『………白夜』
『えっ?』
眺めながら呟いたその言葉に、どきりと心臓がはねる。
『白夜は今どうしているの?』
『今は確か部屋に居るはずですが…』
『…そう。』
先程白夜は風呂を済ませ、今は部屋で貸したドライヤーを使って長い髪を乾かしている途中だと思う。
あんなに長くて白い髪を手入れしないなんて勿体なく、せめてドライヤーで乾かすくらいはして欲しかったのだ。
『呼び出してきて頂戴』
『…仰せのままに。』
いつもより真剣な顔をしているレミリア。
なにか心当たりでもあるのだろうか。
でも、月の妖力を感じないだなんてこと、今まで一度もなかったはずだ。逆に、妖力を感じ過ぎることもなかった。
月に何らかの異変が起こっているか、或いは、
レミリアの言うとおり、妖力がひとつのものに
集中して集められているのか。
こんこん、と白夜の部屋のドアをノックする。
『白夜?咲夜よ。今、お嬢様が用があるみたいだから、出てこれるかしら?』
『え、あの、今は…あの…ちょっと』
『なにかあったの?』
『な、なんでもないです!すぐ行くので、少し時間をください…』
『…そう、わかったわ』
慌てているような様子だった白夜。
何かあったのだろうか、と心配になるもののすぐ行くと聞き、疑心感は残るもののそれほど心配することでもないだろう、と済ませた。
まだドライヤーが終わっていないか、他に用があるのだろう。
『お嬢様、白夜はすぐ降りてくる、とのことです』
『今はなにかダメな理由でもあるのかしら?』
『…いえ、そこまでは聞いておりません。』
『…まあ、気長に待つことにしましょう』
『はい、お嬢様。』
気長に待つ、と聞いて咲夜は即座に紅茶を用意する。
そんな長い間、ただなにもせずぼうっと月を眺めているだけでは喉も乾くだろう。
夜は眠気を邪魔しないように、優しいカモミールティーを淹れる。香りもよく、味も刺激的でもなく甘すぎない。
『お嬢様。紅茶をお持ち致しました』
『咲夜、ありがとう』
紅茶を一口飲むレミリア。
すると、窓からは夜だというのにまだ元気いっぱいのフランと、そんなフランに振り回されている美鈴の姿があった。
そんな微笑ましい光景に、笑がこぼれるレミリア。
庭に植えてあるパチュリーの花を興味深く見るフランと美鈴。流石にその花を抜こうとしていた時は止めていたが、他は全部振り回されっぱなしの美鈴に、咲夜までも
くすくすと笑ってしまう。
『ねえ、咲夜?』
『はい、なんでしょうか』
『…白夜が降りてこないのだけれど?』
『あれ、そう言えば…。すみません。すぐ降りてくるように言いますので____________』
『いえ、いいわ。』
『えっ…?』
がた、と席を立つレミリア。
『私が直接呼び出すわ。咲夜も付いてきてちょうだい』
『………………仰せの、ままに。』
言葉は沢山浮かんだ。
勿論メイドの自分がやる、とか、
お嬢様は座っていてください、とか
でも、それらを全部飲み込んだ。
疑問点はあるが、ここでレミリアが直接
部屋に行かないと白夜は出てこないと思ったのだ。
こんこん、と再度白夜の部屋をノックする。
『白夜?私よ、レミリア。ちょっと出てきてちょうだい。』
『あの、でも…!』
ガチャ
『あ…っ』
躊躇う白夜をよそに、ドアを開けたレミリア。
『え…っ?!』
『やっぱりそうだったのね。』
『ちが…あの、これは…!』
白夜の姿を見ておどろく咲夜。
焦りも戸惑いも見られず、想定の範囲内だという顔をしているレミリア。
そして、自分の体を必死に隠そうとしている白夜。
『月の妖力が感じられないのは…
貴方が吸い取っていたからなのね。
月の妖力がひとつに集中すると、体が光り出すのよ』
『あの…あ…』
『そんなの、隠せるわけないものね。…それも無意識なのかしら?』
白夜の体が、月の淡い光を放ち、きらりきらりと
光っていた。
小さな窓から差し込む、月光をあびて。
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