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短編

作者:書架
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いちめんのきいろ

 黄色。
 見渡す限り黄色。
 いちめんのきいろ。

「……こんな場所、あったんだ」
 さくさくとなるべく花弁を踏まないよう、その黄色の中心へ進んでいく。この場に魔力が感じられる訳でもない、つまりこの花畑は純粋な自然の力で作られたものだ。
 自然のものは、良い。無機物で作ったものでも魔力で生成した物でも、両者とも自然とかけ離れたいびつさが感じられて仕方がない。どうにも人工物のいびつさ、無機質さが自分は気に食わない。
 それに比べて、どうだろう。人の手が一切入っていないこの美しさは。元あったものと同調して、どんなに目立つ色をしていても自然であることに変わりはない。
 人気が無いことを念のため確認すると、彼は花畑の中心で屈みこみ一輪一輪に触れていった。大きさもまばら、背丈も少しずつ違う花々。同じ種類でも、全てが少しずつ違う。当たり前のことなのかもしれないが、当たり前すぎて普通の人ならすべてを見渡しただ一言「すごいね」と言って終わってしまうのだ。何も表さない言葉で、何も表さずに。
「誰もいない、よな」
 もう一度辺りを見回し、今度はそこそこ注意深く他の魔導師の魔力を探した。それでも何も見つからないのをいいことに、彼はごめんと口にしつつその場に仰向けになった。
 目の高さと同じくらいの背丈の花々。彼らが見ているのだろう景色を同じ視点から見ているのだと思うと、心なしか彼らと同調したような気分になる。そよぐ風も木々太陽の光も、全てがヒトとして感じるものより眩しく思えて一瞬目を閉じようとした。
 そこで改めて、気付いた。彼は自分の左目があった場所に手を当て、慌ててその場から跳ね起き周りを見渡した。
「この花、」
 もちろん間違えるはずがない。自分は植物を司る魔導師なのだ、それに全く同じ黄色は常に自分のそばにある。いちめんのクロッカス畑の中心で、彼はしばらく跳ね起きた状態から動かなかった。動けなかった。
「……ああ」
 そうだ、こんなに目立つ立派な花畑。過去に気づいていないはずがない。気づいてはいたけど敢えて忘れた、利己的な思い出のクロッカス畑だ。

 ここで僕は目を。そして、あいつと。

「こんなところにいたか」
 自分の物でない声にびくっと身を震わせ、声の方へ目を向ける。その時視界に入ったにやけ顔から、またしばらく彼は目を離すことができなかった。珍しい彼の姿をからかう顔から、目を捧げた直後と同じ悪魔の顔から。 
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