儚き想い、されど永遠の想い
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362部分:第二十八話 余命その四
第二十八話 余命その四
その約束の中でだった。二人は。
今は屋敷の中に戻りだ。そのうえでだ。
佐藤や婆や、それに他の屋敷の者達にだ。医師に言われたことをありのまま話した。
そのことを受けてだ。まず婆やが言った。
「そうなのですか」
「はい」
静かにだ。真理は婆やの言葉に応えた。
「そうです」
「一年ですか」
「そしてその間です」
「御二人で過ごされるのですね」
「そしてその一年の後にです」
さらにだとだ。真理は婆やにだ、このことを話した。
「私達は最後にです」
「桜をですか」
「見ようと思っています」
そうだとだ。婆やに話したのである。
「そう考えています」
「わかりました」
目を閉じて暫し考えてからだ。婆やは真理に答えた。
「では私もです」
「婆やも」
「最後の最後までです」
どうするかとだ。真理に話したのである。
「共にいさせてもらいます」
「有り難うございます」
「今の冬から春になり夏になり」
「そして秋になりまた冬になりですね」
「一年が過ぎ春になり」
そしてだ。その春にだというのだ。
「二人で桜を」
「一年が過ぎても」
こう話していく。そしてだった。
真理がだ。白いながらも決意した顔でだ。婆やに話した。
「私は春を迎えたいです」
「一年、長いですね」
今の真理にはそうだと。婆やは話した。
「しかしそれでもですね」
「私はその時まで生きたいのです」
二人で桜を見る、その時までだというのだ。
「そう決めました」
「わかりました」
今度応えたのはだ。佐藤だった。
彼はその澄んだ顔に確かなものを宿らせながらだ。真理に話した。
「では及ばずながら私も」
「有り難うございます」
「そうさせてもらいますので」
こう話したのである。そしてだ。
ここでだ。義正も言った。
「人は生きようと思えば寿命もです」
「そうですね。延ばせますね」
「何とか」
「ですから」
それでだとだ。彼は言うのだった。
「私達はその一年を過ぎてもです」
「桜を見る為に」
「春のその桜を」
桜、それは即ち命の息吹だった。
その息吹を見てからだ。二人は話すのである。
「見ます」
「では私達はです」
シェフ、中年の口髭の彼がだ。優しい笑顔で述べてきた。
「その為にです」
「その為にですね」
「美味しくて身体にいいものを用意しておきますので」
そうするというのだった。彼等は。
「存分にお召し上がり下さい」
「是非です」
「たんとお召し上がり下さい」
他のシェフ達もメイド達もだ。二人に話してきた。やはり優しい笑顔で。
「残されては駄目ですよ」
「例えどんな食事でも」
「そうですね。何があろうとも」
真理もだ。笑顔で応えた。
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