儚き想い、されど永遠の想い
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347部分:第二十六話 育っていくものその十三
第二十六話 育っていくものその十三
そうしてだ。さらにだというのだ。
「そしてその後は」
「二人目からはですね」
「女の子ばかりでした」
笑ってだ。そうだったというのだ。
「五人生まれましたが」
「その全員がですか」
「女の子でした」
「では御子息が一人で」
「娘は五人です」
それが婆やの子供達だというのだ。
「ただ。娘のうち二人はです」
「そうですか」
このことを聞いてだ。義正は少し悲しい顔になった。まだ子供の死亡率は高い時代だったのだ。それは戦後まで変わらなかった。
「それでは今は」
「四人です」
子供はそれだけだというのだ。
「そして孫です」
「お孫さん達もおられて」
「誰もが主人と私を慕ってくれています」
「まさに子はかすがいですね」
「ひいては孫もです」
「子供から。全てがはじまり」
そしてだった。そこからだというのだ。
「ですから旦那様は今です」
「その入り口に立っているのですね」
「では期待されて下さい」
不安を抱いてもだ。それ以上にだというのだ。
「奥様がお子様を生まれるのを」
「はい、間も無くですね」
「今にもです」
こうした話を三時間程しただろうか。するとだ。
真理がいる部屋からだ。大きな泣き声が聞こえてきた。その声を聞いて。
義正達は部屋の扉に顔を向けた。そうして。
婆やがだ。満面の、優しい笑みで義正に話してきた。
「おめでとうございます」
「あの声が」
「そうです。産声です」
まさにそれだというのだ。
「お生まれになりました」
「そうですか。私達の子供が」
「お部屋に行かれますか」
婆やはまた義正に尋ねた。
「これから」
「いえ、今は」
「行かれませんか」
「少し待ちます」
そうするとだ。彼は婆やに答えた。
「そうします」
「それはどうしてでしょうか」
「真理さんは今出産されたばかりです」
だからだというのだ。
「ですから今は」
「待たれるのですか」
「医師の方から話があります」
呼ぶ話がだ。それがあるからだともいうのだ。
「ですからそれを待って」
「そのうえで、ですか」
「はい、部屋に入るのはそれからです」
こう婆やに答えるのだった。
「そうします」
「そうですか。わかりました」
婆やはにこりとして義正のその考えに頷いた。そして共にいる佐藤も。
静かに微笑みだ。その笑みで言うのだった。
「ですね。では今はここにいましょう」
「それもまた何か」
「何か?」
「楽しいね」
そうだとだ。義正は佐藤にはこう言ったのである。
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