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英雄伝説~西風の絶剣~

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第30話 ロレント強盗事件

side:リィン


「もう、リート君!勝手なことをしちゃ駄目じゃない!」
「はい、すいません……」


 青空が広がる翡翠の塔の屋上で俺はエステルさんに説教をされていた。エステルさん達に事情を話したが「なんでそんな危ない事したのよ!」とエステルさんが珍しく激怒し「リート君!そこに正座!」
とかれこれ10分近く怒られている。ヨシュアさんは俺達の傍で成り行きを見守っていた。


「おいおい、いつまでやってるんだ?こっちはもう写真撮り終えちまったぜ」


 エステルさんたちと同行していた男性が早くしてくれと言わんばかりにしかめっ面をしていた。彼はエステルさんたちにこの塔までの護衛を依頼したリベール通信のナイアルさんでどうやら記事のネタを取るために相棒のドロシーさんとロレントに来ていたらしい。


「うわ~、ここって凄くいい場所ですね~。撮りがいがあります~」
「っておい!お前まだとってたのか!?オーバルカメラの感光クオーツだってタダじゃねえんだからガバガバ使うんじゃねえよ!」
「あーん、先輩意地悪ですー」


 ……どうやらナイアルさんは苦労人のようだ。


「リート君!よそ見してるけどちゃんと聞いてるの?」
「は、はい!聞いてます!」
「まあまあエステル、君が怒るのも分かるけど今は依頼主であるナイアルさんたちを町まで連れてかないと。続きはアイナさんがやってくれるよ」
「……わかったわ。でもいい、リート君?ちゃんと反省しないと駄目よ?」
「はい、すいませんでした」
「ん、よろしい。でもリート君がいなかったらアルバ教授も死んでたかも知れないしそこはあたしは凄いと思うわ」
「あ……」


 エステルさんにポンポンと頭を撫でられて俺は恥ずかしさで顔を赤くしてしまう。


「えっと、エステルさん。これは……」
「あ、ごめんごめん。嫌だった?」
「いえそうじゃなくて、頭を撫でられたのは随分と久しぶりでしたので……」


 うう、まさか他人に頭を撫でられるのがこんなにも恥ずかしいとは思わなかった。でもとても暖かい気持ちになったな。


「……エステル、そろそろ行こう」
「ええ、ってヨシュア?なんだか気分が悪そうだけどもしかしてまだ体調が悪いの?」
「い、いやそんなことはないよ」


 ヨシュアさんは屋上に上がってから少し気分が悪そうだったが今の彼は若干面白くなさそうな表情をしていた。もしかしてヨシュアさんはエステルさんが取られてしまうって思ってしまったのかな?俺もフィーが知らない男と仲良さそうにしていたらいい気分はしないしそういう事なんだろう。


 その後は全員でロレントまで向かった。


ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


「リート君!あれだけ言ったでしょう!勝手な行動はしないでって!それなのに貴方は!」
「はい、申し訳ございませんでした……」


 町に帰った俺は想像していたよりもカンカンに怒っていたアイナさんに怒られていた。それもそうだろう、アイナさんは俺を保護している立場なのに俺が勝手に危険な事をされたらどうしようもない。でもアイナさんはそういった立場よりも純粋に俺の事を心配していてくれたそうだから余計に心が痛い。


「まあアルバさんも自分のせいだと言っていたし目を離した私にも責任があるわ。でももう二度とこんなことはしないで?いいわね」
「はい、肝に銘じておきます」


 流石にもうこんなことは出来ないな、純粋に俺を心配してくれている人にこれ以上迷惑はかけられない。


「た、大変じゃーーーっ!!!」


 その時だった、突然誰かが慌てた様子でギルドに駆け込んできた。


「あれ、市長さん?」


 ギルドに入ってきたのはこの町の市長であるクラウスさんだった。前に挨拶をしにいったから名前は知っていた。


「エステル君とヨシュア君、それにシェラザード君もいるか!」
「どうしたんですか、そんなに慌てて?」


 ヨシュアさんがただ事でない様子のクラウスさんに声をかける。


「い、一大事なんじゃ!わしが家を留守にしている時に強盗に入られたんじゃ!!」
「あ、あんですって!?」


 ……どうやら厄介な事件が起きてしまったみたいだ。



ーーーーーーーーー

ーーーーーー

ーーー


side:エステル


「うわ~、メチャクチャだわ……」


 あたしたちは事件が起きた市長さんの家の書斎に来ていたが凄いありさまだった。物は乱雑してるし数時間前にここに訪れた時とは大違いだわ。


「これはまた見事なほどの荒らされっぷりね」


 シェラ姉も呆れを通り越して感心していた。まあ悪い事なんだから感心って言い方はおかしいけどそう言いたくなるくらい荒らされてるんだもんね。


「ああ、金庫が!?」


 辺りを見渡すと大きな金庫が開いていた。中は空っぽだ。


「女王陛下に贈るはずだったセプチウムも盗まれてしまったよ……」
「あのセプチウムが!?」


 市長さんが言っているのはあたしたちが鉱山から預かってきたセプチウムのことで大切に保管していたのにそれが盗まれてしまったなんて……


「君たちが持ってきてくれた大切なものを……本当にすまない」
「謝ることはないですよ。悪いのは犯人なんですから」
「そうよ、安心して市長さん。セプチウムは私たちが必ず取り戻すから!」
「おお、エステル君、ヨシュア君……」


 市長さんは罪悪感を感じていたようだけど悪いのはヨシュアの言う通り盗んだ奴らよ、まったく許せないわ!


「所で他の部屋の様子はどうですか?」
「他の部屋はほとんど荒らされておらんよ。家内たちが押し込められていた物奥部屋が散らかった程度じゃ」
「ふむ……エステル、ヨシュア。あんたたちに頼みたいことがあるの」
「えっ?」


 何かを考えていたシェラ姉があたしたちに頼みごとをしてきた。


「私は市長さんから事情を聞いておくからあんたたちはこの家の内部を調べてほしいの」
「それって現場検証ってやつ?でもあたしたちがやっていいの?」
「折角人数もいるんだから分担した方が効率がいいでしょ?それにこれも遊撃士としての必要なスキルよ、あくまでも慎重にね」
「わかったわ、あたしたちに任せて!」


 シェラ姉は市長さんを連れて一階に降りて行った。


「でも何から調べればいいのかしら?」
「まずは犯行の行われたこの部屋の調査、それから犯行当時に家にいた人たちから証言を聞いていこう」
「うん、オッケー!」


 あたしたちはまず書斎を調べることにした。


「う~ん、金庫は壊されたって訳じゃないようね」
「うん、どうやらカギを解析して開けたらしいね」
「じゃあプロの仕業って事?」
「……」


 ヨシュアは金庫の扉についてる暗証番号のボタンに指を置いた。


「ヨシュア、何してるの?」
「……やっぱりこのパウダーを使っていたか」
「えっ、パウダー?」
「うん、目では見にくいけど青い光を当てると発行するパウダーが付けられていたんだ」


 そのあとヨシュアからパウダーを使った金庫の開け方を聞いたけどヨシュアって博識よね。


「でもいつそのパウダーを付けたのかしら?」
「このパウダーは粘着性があるといってもそこまで強くはない、一日たてば取れてしまうね」
「じゃあ今日ここを訪ねた人が怪しいってことね」
「うん、取りあえず今は他の場所も調査していこう」


 あたしたちは書斎の調査を一旦終えて二階のテラスに向かった。


「あれ、ここの手すり、なにかキズみたいなのがあるわ」
「しかもこのキズ、まだ新しいよ。金属製の何かを引っかけた後みたいだ」
「じゃあ犯人はここから侵入したってことかしら?」
「可能性は高いね」


 その後は市長さんの奥さんであるミレーヌおばさんと使用人のリタさんに話を聞いてみると犯人は複数で3,4人くらいいて全員覆面をしていた。
 一人は背が低かったからもしかしたら女性かもしれない。犯行当時一階の玄関には鍵がかかっていたことが分かった。物置部屋は市長さんの言う通り散らかっており何故かセルべの葉という珍しい葉っぱが落ちていたので拾っておいた。


「そろそろシェラ姉の所にいかない?」
「そうだね、大体は調べ終えたしね」


 あたしたちは一旦調査を止めてシェラ姉と一緒に調べたことをまとめた。そして分かったのが『犯人たちの狙いは金庫の中のセプチウム』『3~4人のグループ』『二階のテラスから侵入した』ということが分かった。


「問題は金庫の暗所番号のボタンに誰がパウダーを付けたかって事よね」
「うん、それも今日辺りに訪ねてきた人物が怪しいね」
「今日訪ねてきたのは雑誌社の記者のナイアル君やドロシー君じゃな、取材という事で書斎で話していたんじゃ」
「でもあの二人はあたしたちと一緒に翡翠の塔に言ってたわよ?」
「うん、犯人の候補からは除外できるね」
「となると……後はジョゼット君しかおらんな」
「え、ジョゼットが?」


 ジョゼットというのは確かジェニス王立学園の女子生徒でこの町の歴史について学びにきていたのよね、昼間に市長さんの家を訪ねた時に丁度書斎にいてあたしたちと話をしたのを覚えてるわ。


「でも流石にありえないじゃろう」
「確かにそうよね、ただの女子生徒だし」
「いや決めつけるのはよくないよ、犯人が身分を偽って事前に下調べをすることもあるし怪しいと思った人物は疑った方がいい」
「どちらにせよ、その女の子から話を聞く必要がありそうね」


 あたしたちはジョゼットに話を聞くために彼女が泊まっているといっていたホテル・ロレントに向かった。


「え~!もうチェックアウトしたですって!?」


 支配人のヴィーノさんの話ではもうジョゼットはホテルから出た後らしい。


「このタイミングでだなんてますます怪しいわね……」
「発着場に行きましょう、今ならまだ間に合うかもしれない」
「そうね、急ぎましょう!」


 あたしたちはヴィーノさんにお礼を言ってロレント発着場に向かった。


「おや、エステルたちじゃないか。何か合ったのか?」
「アランさん、ここにジェニス王立学園の制服を着た女の子来なかった?」
「ああ、あそこの制服は可愛いんだよね。でも今日はおろか一か月くらいは見た記憶がないな」


 あたしたちは発着場で働いているアランさんに話を聞くが彼は一か月は見ていないという。じゃあジョゼットは飛行船を使ってないって事?


「飛行船じゃなければ街道を通ってロレントに来たのか……困ったわね」
「はい、これだと捜索範囲が広すぎてどのルートを使ったのか分からないですね」
「うーん、困ったわね」


 なにか犯人たちの向かった場所について知れる方法は無いかしら……あ、そうだわ!


「シェラ姉、実は市長さんの家の物置部屋でこれを見つけたの!」


 私は持っていたセルべの葉をシェラ姉に見せた。


「これはセルべの木の葉じゃない、確かこの辺だとミストヴァルトにしか生えていないはずなのにどうして市長さんの家に……まさか!」


 シェラ姉は何かに気が付いたように顔をハッと上げた。


「どうかした、シェラ姉?」
「あんたたち、犯人が3~4人のグループだって話を聞いたのを覚えてる?もしそのジョゼットという子が犯人なら仲間がいるはずよ」
「そうか、その仲間が潜伏してる場所があるってことですね」
「じゃあセルべの葉が物置部屋にあったって事は……」
「ええ、ミストヴァルトを潜伏先にしてる可能性が高いわ。急いで向かいましょう」


 あたしたちは急いでミストヴァルトに向かった。




 
 ミストヴァルトに向かった私たちは魔獣をかわしながら森の奥に向かう、すると広い空間のある場所が見えてきた。

 
「森にこんな場所があったんだ……」
「静かに……誰かいるわ」


 あたしたちはシェラ姉の指示で近くの茂みに隠れる、様子を探ると……あ、いた!ジョゼットだ!他にも3人の男たちがいた。


「ふっふっふ……まったくチョロイもんだよね。あんな程度の下準備でこんな極上品が手に入るなんて。これで兄ィたちに自慢できるよ」


 そんな、まさか本当にジョゼットが犯人だったなんて……


「それにしてもあの町の奴らお人よしすぎるよね、あの市長といいあの女遊撃士といい……あはは、おめでたい奴ら!」


 あ、あんですって~!まさかあれが素なの!?だとしたらとんだ猫かぶりもいたもんね!


「エステル、落ち着いて。もうちょっと話を聞こう」


 ヨシュアになだめられてしぶしぶと様子を伺うことにする。それから鉱山にあいつらの仲間が潜入していたってことも分かった。そういえばあの時新しく入った新人の作業員がいたけど今思えばなんか怪しかったわね。


「それにしてもあんな連中が遊撃士だなんてほんと笑えちゃうよね。特にあのノーテンキ女!ボクの事毛ほども疑わずに友達になれそう、だって!あの時は笑いを隠すのに苦労したよ」


 そういって大笑いするジョゼットたち。……いい加減我慢の限界だわ。


「……何がおかしいのよ」
「!?ッあ、あんたたちは……」


 あたしたちは武器を構えてジョゼットたちの前に立ちふさがった。


「黙って聞いてりゃあ能天気だの、おめでたいだの好き放題言ってくれちゃって……覚悟はできてんでしょーね!?」
「強盗の手際は良かったけど、最後に詰めが甘かったわね」
「遊撃士協会規約に基づき家宅侵入・器物破損・強盗の疑いであなたたちの身柄を拘束します。抵抗しない方が身のためですよ?」
「お、お嬢。どうするんだ……」
「ふん、遊撃士といっても女子供じゃないか。ボクたち『カプア一家』の力、見せてやりな!」
「「「がってんだ!」」」


 ジョゼットたちは武器を取り出して襲い掛かってきた。


「そっちがその気ならこっちだって容赦しないわ!行くわよ、皆!!」


 私は掛け声をかけて皆の力を上げる。ヨシュアがやつらの一人に切りかかりシェラ姉はアーツの体制に入った。


「くらえ!」


 敵の一人が短剣を振るってくる、あたしは落ち着いて短剣をスタッフで弾いておかえしに相手のお腹にスタッフで突きをいれた。


「あー、もう!なにやってるのさ!ティア!」
「アーツですって!?」


 だがジョゼットが回復のアーツを使い仲間を回復させる。相手がアーツを使ったことに動揺するあたし、その隙にあたしの背後から敵が切りかかってきた。


「スパークル!!」


 そこにシェラ姉のアーツ、『スパークル』の雷が落ちてきて敵を退ける。


「油断大敵よ、エステル」
「ありがとう、シェラ姉!」


 あたしは一旦距離をとり相手の様子を伺う。そこまで強いわけじゃないが連携がなかなか厄介だ、特にジョゼットがアーツでサポートしてくるので戦いにくい。今もヨシュアに『フォトンシュート』を放っていた。ヨシュアはアーツをダガーで打ち消してあたしのところまで下がってくる。


「敵の連携がなかなか厄介ですね」
「ならまとめて倒せばいいわね、結構強力なアーツを使うからあんたたちは敵を引き付けていて」
「わかったわ!」


 あたしとヨシュアはシェラ姉がアーツを使うまでの間、敵の足止めに専念した。


「ほらほら、かかってきなさいよ」
「女子供に苦戦してるようじゃ君たちも大したことないんだね」


 あたしとヨシュアの挑発にのったのかジョゼットたちはこちらに攻め立ててきた。


「くらいな!」


 ジョゼットが放つ銃弾をスタッフで弾いてあたしはアーツ『フレアアロー』をお見舞いした。


「あぶなっ!?くっそ~、ノーテンキ女のくせに!」


 ジョゼットはアーツをかわすが問題はない、そろそろかしら?


「あんたたち、でっかいのいくわよ!!」


 シェラ姉がアーツ『エアリアル』を放とうとしたのであたしとヨシュアは敵から距離をとった。


「なんで下がったんだ?……!っまさか!?」


 ジョゼットがあたしたちの作戦に気がついたようだけどもう遅い、彼女たちの周りに巨大な竜巻が現れてジョゼットたちを吹き飛ばした。


「きゃあああっ!!」


 ジョゼットたちは空中に放り投げられて地面にたたきつけられる、ちょっとやりすぎたんじゃないかと心配したがどうやら命に別状はないようだ。でも流石にきいたのか全員動けなくなっている。


「そ、そんなバカな……」
「ふふん、参ったか♪遊撃士を舐めるんじゃないわよ」


 あたしはジョゼットに近寄り持っていたセプチウムの結晶を取り返し確認する。ほっ、割れたりしてないようね、よかった。


「ああ、ボクのセプチウム……」
「あんたのものじゃないでしょーが!」


 まったくなんて図々しいのかしら!


「さあて目的のものも取り返せたことだしあんたたちには聞きたいことが沢山あるのよね。確かカプア一家とか言ってたわよね?」
「ギクッ……いやあ、何のことかな~?」


 シラを切ろうとするジョゼットの傍にシェラ姉が鞭をたたきつけた。


「ひっ!?危ないじゃない!」
「うふふ、口を割らないっていうのなら身体に聞くしかないようね。大丈夫、優しくしてあげるわ♡」
「ち、近寄るなー!あっちいけー!!」


 その時だった、空から銃弾が放たれてシェラ姉が立っていた地面に穴をあけた。シェラ姉はかわしたけど空を見上げて驚いていた。


「ひ、飛行艇!?」


 そこに現れたのは薄黄緑色の大きな飛行艇だった。


「あはは、形勢逆転だね!」


 あたしたちが驚いているすきにジョゼットたちが飛行艇にのりこんでしまった。もしかしてあいつらが最近ボースで悪事を働いている空賊だったの!?


「ま、待ちなさいよ、こらぁ!!」
「勝負はおあずけだ!これで勝ったと思わないでよ!」


 ジョゼットはそう言って飛行艇に乗って逃げてしまった。


「あー、もう!待ちなさいよーーー!!」



 結局あいつらは逃がしてしまったがセプチウムを取り返すことはできたのでとりあえずは良しとすることにした。そのあとはギルドに戻りアイナさんに報告をしていた。


「それにしても大変だったわね。まさか空賊が現れるなんて……逃がしてしまったのも無理はないわ」
「でも凄いですよ、奪われたセプチウムを取り返したんですから」


 アイナさんとリート君が慰めの言葉をかけてくれるが逃がしてしまったのはやっぱり悔しい。


「ごめんなさい、あたしがもっと冷静だったらこんなことには……」
「僕も迂闊でした……すいません」
「何言ってるのよ。今回は私のミスでもあるしあんたたちは悪くないわ。それに市長帝の現場検証も完ぺきだったし……アイナ、これなら大丈夫じゃない?」
「ええ、そうね。私もそう思います」


 アイナさんは懐から紙を取り出した。


「アイナさん、これは?」
「今のあなたちは準遊撃士、つまり見習いみたいなものね。正遊撃士になるには王国にあるすべての地方支部で推薦を受ける必要があるの。これはロレント支部の推薦状よ」
「い、いいの?あたしたち空賊をのがしちゃったんだけど……」
「代理の仕事と今回の活躍を見て私は大丈夫だと判断したの。だから受け取ってちょうだい」
「あ、ありがとうございます!!」


 やったー!これで正遊撃士に一歩近づいたわ!


「あはは、どうしよう。今すっごく嬉しい♪ねえヨシュア、こうなったら他の地方にもいくしかないよね!」
「はは、言うと思った。賛成だけど僕たちだけで勝手には決められないよ、父さんが帰ってから相談しよう!」
「うん!」


 あー、今から楽しみだわ。父さん、早く帰ってこないかなー。


 あたしが浮かれていると突然アイナさんの背後にある導力通信機から音が鳴った。


「はい、こちら遊撃士協会。リベール王国・ロレント支部です。あら、ご部沙汰しております……本当ですか?……それは大変なことになりましたね……えっ、……なんですって!?……すいません、直には信じられなくて……はい、ご家族にはそう伝えます。はい、ありがとうございました、失礼します」


 アイナさんは深刻な表情を浮かべて大きな声を出した。そして通信機を置いてこちらに向き変える。


「アイナさん、何かあったの?」
「エステル、ヨシュア。心して聞いて。定期飛行船『リンデ号』がボース地方で消息を絶ったの」
「ええっ!?」
「どういうことですか!」
「まだ詳細は分からないわ……大事なのはここからよ……その飛行犬にはカシウスさんが乗っていたらしいの……」
「えっ……」


 あたしはアイナさんの言葉に頭が真っ白になってしまった。


 
 

 
後書き
 次回はリィンが大変な目にあいます。 
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