前世の知識があるベル君が竜具で頑張る話
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べーと・ろーが
「アイズ!」
ベルを抱えたアイズは、十一階層で後続のフィンやリヴェリアと合流した。
「ベル!ベル!」
リヴェリアはアイズに…アイズの腕の中の、血塗れのベルへ駆け寄った。
「リヴェリア、それはモンスターの返り血」
「そ、そうか…」
リヴェリアが安堵の声を上げた。
「アイズ」
「フィン?」
「ベルは、どこで何をしていたんだい?」
「十五階層でシルバーバックに殺されかけてたから、私がシルバーバックを斬った」
「十五階層…!?」
コクンと頷いたアイズに、フィンは頭を抑えた。
「取り敢えず、帰ろう」
三日後
ガチャ…
「アイズ、リヴェリア。ベルはまだ起きないか?」
ベルは、再び例の部屋に運び込まれていた。
既に三日が経つが、ベルは未だに目を覚まさない。
「フィン…」
「ああ、まだ起きない…もう三日だ」
リヴェリアはベッドの脇に椅子を置いて座り、アイズはベッドに腰掛けていた。
「三日かぁ…」
リヴェリア達はベルが二度と起きないのではないかと心配していた。
「こうして見ると、やはり一人で十五階層まで行った男には見えないな」
「そうだな…」
フィンの言うとおり、ベルは華奢な幼女にしか見えない。
「それで?君達は寝ているのかい?」
とフィンが問うが、その答えはNOだとわかりきっていた。
「ねてない…」
「寝てないな」
「その目の下のクマ見たらわかるよ。
ほらほら。あとは僕が引き継ぐから二人は休んで」
「「…………」」
「看病していた君達が体調を崩したと聞いたらベルがどう思うだろうね?」
「「……」」
「じゃぁ団長命令だ。休め」
リヴェリアが無言で立ち上がった。
「アイズ、いくぞ」
アイズはフルフルと首を振る。
「フィンの言うとおりだ。お前が倒れたらベルが自分を責めてしまう」
「わかった…」
仕方なく、といった風にアイズが立った。
リヴェリアが出ていき、アイズがそれに続く。
しかしドア際で立ち止まり、ベルを見ている。
「ほら、いくぞアイズ」
「あっ…」
リヴェリアに引っ張られ、部屋を後にした。
そうして、部屋の中にはベルとフィンだけになった。
「≪ティルナファ・ファミリア≫か…」
フィンの口から溢れたのは、ベルの持つスキルの名だ。
フィンの手が、ベルを撫でる。
「君は…君は、英雄に成らざるを得ない…
このスキルは…そういう事…なのだろう…?」
三日前
「集まったな?」
ロキの私室には、フィン、ガレス、リヴェリア、アイズ、ベート、ヒュリテ姉妹…ロキファミリア幹部が集結していた。
皆、ロキの雰囲気が何時もと違うと、本気であると悟った。
「集まって貰ったんはベルの事や」
「ッハなんで俺達があのクソ兎の為に…お"っ!?」
悪態を吐いたベートの頭に、リヴェリアのスタッフが振り下ろされた。
「何しやがるババァ!」
「お前は少し黙っていろ」
この時のリヴェリアは、本気の殺意と敵意を抱いていた。
アイズも同じく、デスペレートに手をかけていた。
「チッ…わかったよ…」
ベートは渋々引き下がった。
「じゃー、先ずはコレ回してくれへん?」
ロキがフィンに見せたのは、ベルのステータスシートだった。
「こっ…これは……何の冗談だ…?」
受け取り、目を通したフィンの口からは、悲痛な声が漏れた。
「なんじゃい?」
それを見たガレスがシートをフィンの手から取り……
目を通した後、無言でリヴェリアに手渡した。
受け取ったリヴェリアの顔は、まるで親の仇を見るような顔だった。
その横のアイズは、リヴェリアの持つシートを見て、悲しそうな顔をした。
シートを受け取ったベートは、奥歯を噛み締め、ティオナに手渡した。
目を通したヒュリテ姉妹は、拳を握りしめた。
「見たな?
他人には…勿論ベルも含めて絶対に他言するなよ?」
ロキの言葉に、皆が無言で頷いた。
「ベルは冒険者や。
それも根っからのな…」
≪ティルナファ・ファミリア≫
「ロキ。『ティルナファ』とは何だ?」
リヴェリアの問いに、ロキは答える事は出来なかった。
「わからん…わからんのや。
うちも、『ティルナファ』ゆぅ存在は聞いた事あらへん。
神なのか、精霊なのかもわからん。
ただ、ろくでもない存在なんは確実や」
夜と闇と死。
そんなものに関わっている存在など、ろくでもない存在だと、皆理解しているのだ。
「主神として命ずる。
ベルを守れ」
立ち並ぶ面々を見渡したロキのセリフに真っ先に答えたのはアイズだった。
「わかった…ベルは私がまもる」
「私も、ベルを護ろう。
ベルを入れたのは、私だ。
私が責任を持って、ベルを護る」
「ごめんね。ベル。
僕は、ファミリアを率いる立場だ。
僕は、君を護る事ができないんだ」
三日前を思い出したフィンは、自分が情けないと思った。
コンコン…
「フィン。入るで」
「ロキか」
「白雪姫はまだ起きんか?」
「ああ、まだだ」
ロキが、先程までアイズが座っていた所に腰を下ろした。
「なんや?元気ないな」
「ああ…僕は、ベルを護れないんだ。
僕は、ファミリアを率いらなきゃいけない」
「(成る程…これが魔弾の王いうわけや…)」
三日前、ロキは魔弾の王の『異性同性善人悪人敵味方関わらず人を惹き付ける』という一文を消していた。
「大丈夫やろ。リヴェリアとアイズがついとんのやぞ?」
「わかっているさ…」
ロキは、おもむろにフィンの耳に口を近付けた。
「ドアの脇、ベートが仏頂面で待機しとるで」
「!?」
フィンがドアの方を向いた。
「ベートぉー、入ってきぃやぁ」
ガチャ…きぃぃぃ…
「ベート?」
「まだ、起きないのか?」
「ああ」
ベートが、ロキの隣に、腰を下ろした。
「俺はよ…俺はよ、こんな事、望んじゃ居なかった」
ベートの手が、ベルの頭を撫でる。
「あんだけ言えばよぉ、こいつも、無茶な夢諦めるっておもってたんだよ…
こいつが…危ねぇ道に進まねぇって…おもったんだよ…!」
「ベート…」
「なのによ…なのによ…!
こんな、無茶…しやがって…!」
ベートの目から、涙が溢れた。
「自分、きにしとったんか?」
「俺は…雑魚は嫌いだ…
だけど…雑魚を踏み潰すような奴はもっと嫌いだ…!
なのに…!コレじゃぁ…!
もしこいつが目覚めなかったら…!
死んじまったら…!
俺が殺したも同然じゃねぇか…!」
「んっ……」
「「ベル!」」
三人の前で、ベルがうっすらと目を開けた。
「……す」
ベルが言葉を紡ぐ。
「ベート…さん…は…悪く…ない…ですよ…」
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