| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

儚き想い、されど永遠の想い

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

334部分:第二十五話 強い一歩その九


第二十五話 強い一歩その九

「誰でもできるから」
「誰でもですか」
「うん、僕達は」
 真理も見てだ。そうしてだ。
 義正は穏やかに話していく。その声は澄み切っている。
 その澄んだ声でだ。話していってだ。彼は言う。
「あの時にそれがわかったんだ」
「家族の皆様の前でお話されたその時にですか」
「うん、あの時に」
 その通りだというのだ。あの告白の時にだ。
「僕達はわかったんだ」
「左様ですか」
「そう。そして」
 さらにだった。
「見えてきたんだ」
「何がですか?御覧になられたというのは」
「うん、人は前に。前に純粋に出れば」
 それでどうなるか。それが見えてきたというのだ。
「それで光のある場所にね」
「その光のある場所に」
「行けるんだ」
「では私もその時には」
「誰でもだよ」
 佐藤だけに限らないというのだ。それは。
「誰でもね。純粋に思って前に出ればね」
「道が開けて」
「そう、そこに行けるんだ」
 微笑みだ。彼は今二人でいる場所のことを佐藤に話していく。その語る顔こそがだ。そこにいるということの何よりの証だった。 
 その顔でだ。彼はさらに言うのだった。
「だからね。誰でもね」
「行けるからこそ」
「そのことについて思うことはないよ」 
 これが佐藤への言葉だった。
 そしてだ。ここまで言ってだ。彼は。
 こうだ。佐藤に言った。
「ではお風呂は」
「それですね」
「僕もね」
 入るというのだ。微笑んで。
「そうさせてもらうよ」
「はい、是非」
「お風呂はいいものだよ」
 義正は風呂が好きだ。それは何故かというと。
「心も癒してくれるから」
「身体だけではなく」
「だからいいんだ」
「そうも思いまして」
「心から全てがはじまるから」
「はい、あらゆることが」
「だからこそ」
 入るというのだ。彼もまた。
 そしてだ。彼も入るとしてだ。佐藤にも言ったのだった。
「後は僕達だけじゃなくて」
「私達もですか」
「いつもそうしているじゃないか」
 この屋敷では風呂は一つだ。まずは義正達が入りそのうえで使用人達、佐藤も含めて入ることになっている。かなり広い風呂なのだ。
「だからね」
「では。そうさせてもらいます」
「一つの幸せは一人だけが楽しんでいいものじゃないんだ」
 その風呂一つ取ってもだ。そうだというのだ。
「だからね」
「他の者にも伝えておきます」
「そう、是非そうしてね」
「わかっています」
 こう応えてだった。佐藤も風呂を楽しむことになった。
 義正も真理も二人でだ。その一歩を歩み出したのだった。今それがはじまった。


第二十五話   完


                2011・9・14
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧