英雄伝説~西風の絶剣~
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第29話 ロレントでの日常
side:リィン
翌日の朝、帝国に向かうため飛行船に乗り込むカシウスさんをエステルさんとヨシュアさん、それにシェラザードというカシウスさんの弟子であり『銀閃』の二つ名をもつ遊撃士の方と一緒に見送りに来ていた。
「それじゃ行ってくるよ」
「いってらっしゃい、父さん」
「依頼が終わったら真っ直ぐ家に帰ってくるのよ?」
「全く、お前は俺の母親か。いってらっしゃいくらい言いなさい」
「あはは、冗談よ」
カシウスさんはエステルさんとヨシュアさんと話をした後にシェラザードさんに話しかける。
「シェラザード、後の事は任せたぞ」
「はい、エステルたちのことは任せてください。ビシバシと厳しく指導していきますから」
「それなら安心だな」
「え~……ちょっとは優しくしてほしいな」
「あはは、仕方ないよ、エステル。これも早く一人前になるために必要な事さ」
俺は四人の談笑を後ろで見ていたがカシウスさんが俺に小声で話しかけてきた。
「ルトガー君たちには私から話しをしておく、君も気を付けてな」
「はい、カシウスさんも気を付けてください」
そしてカシウスさんは飛行船に乗って旅立っていった。エステルさんたちも依頼を受ける為にギルドに向かった。
「初めまして、リート君。私はシェラザード。この町の遊撃士をしているわ。先生から貴方の事は聞いてるからこれからよろしくね」
「はい、お世話になります」
「じゃあまずはギルドに向かいましょうか、しばらくはそこで生活してもらう事になるからね」
俺はシェラザードさんに連れられてロレント支部ギルドに向かった。
「貴方がリート君ね、カシウスさんから話しは聞いてるわ。私はアイナ、短い間だけどよろしくね」
「リートです。ご迷惑をおかけしますが宜しくお願いします」
「しかし先生も急な事を言うわね、保護した子を今度は私たちに預けていくなんて……」
「あの、すいません。悪いのは僕なんでその……」
「ああ、気にしなくていいわよ。どの道貴方が帝国で起きた事件に関係するかもしれないやつらに襲われたって話は聞いてるから安全の為に事件が解決されるまで貴方と行方不明になった妹さんの保護をすることになってるから」
「あ、そうなんですか。でもやっぱり迷惑をかけてますし……」
「真面目ね~、そんなに謝らなくてもいいわよ」
俺が誤ってばかりなのかシェラザードさんは苦笑していた。
「でも本当にいいの?カシウスさんからは雑用をさせてもいいって聞いてるけど本来ならそんなことをしなくてもいいのよ?」
「いえお世話になるのに俺だけ何もしないっていうのは嫌なので……しっかりとお役に立つのでやらせてください」
「本当に真面目ね~……もう少し気楽になってもいいのよ?」
「あはは、まあ性分みたいなものなので……」
その後はシェラザードさんが遊撃士の仕事に向かい、俺はアイナさんにギルドの地下にある部屋に来ていた。
「ギルドって地下にも部屋があったんですね」
「百日戦役の時民間人を避難させる為に地下室を作っていたの、ここはそのなごりよ。普段は使われてない部屋だけど定期的に掃除はされてるから問題なく使えるはずよ」
「ありがとうございます」
それから俺はアイナさんに俺が出来る仕事を教えてくれてその日は難なく終わっていった。因みにエステルさんとヨシュアさんはカシウスさんが受けるはずだった依頼のいくつかをこなす為に今日はパーゼル農園という場所に魔獣退治に向かったらしい。
「しかしまさかリベールに来ることになるとはな……」
地下に用意された部屋で俺は今日のこの二日間について考えていた、団長達はカシウスさんが帝国についたときに訪ねて事情を話しておいてくれるらしいがそれでも皆の事が……フィーが心配だった。
「あの子ももう立派な猟兵だ、昔みたいに取り乱したりはしてないはず。でも……」
きっと不安に思っているだろう。俺だってそうなんだ、誰よりも家族に強い愛情を持っているフィーなら猶更だと思う。
「でも俺が勝手に動くわけにはいかないからな、今は遊撃士の皆さんを信じて待つしかないか……」
明日も仕事があるので俺は早々に眠ることにした。
「おはようございます、アイナさん」
「おはよう、リート君。どう、あの部屋は問題なく使えた?」
「はい、ぐっすりと休めました」
「それは良かったわ」
次の日の朝、俺とアイナさんが話していると勢いよくギルドのドアが開きエステルさんとヨシュアさんが入ってきた。
「ただいまー!アイナさん、依頼無事に終えたよ!」
「あら、じゃあ詳しい事を報告してもらおうかしら」
「分かりました」
エステルさんたちがこなした依頼というのは作物を荒らす魔獣の退治だったらしい。だが依頼主の頼みで魔獣は見逃したそうだ。ちょっと甘いんじゃないかと思ったがアイナさん曰く守り方は色々だし正義も星の数ほどある、つまり助け方も人それぞれだという言葉を聞いてなるほどと思い同時に効率しか考えなかった自分に少し嫌気がさした。
「……」
「おりょ?ヨシュア、どうかしたの?」
エステルさんがヨシュアさんを気に掛ける言葉を話したのでふとヨシュアさんを見てみると彼も何やら思い詰めた表情を浮かべていた。
「いや、今思うと僕は冷たい奴だなって思って……」
「もしかして魔獣を退治した方がいいって言った事を気にしてるの?あれはヨシュアが正しいと思うしそんなに気にしなくてもいいじゃない」
「うん、でもあの状況で僕だけは魔獣に対して可哀想とか許したほうがいいとかそんな考えは無かったんだ。あくまでも効率を考えて魔獣の駆除を選んだ、それって僕は心が冷たいってことなんじゃないかな……」
「ヨシュア、それは考え過ぎよ。さっきも言ったでしょ、助け方なんて人それぞれだって。だから正解の答えなんてないの。貴方の考えもある意味正しいしあんまり思いこみ過ぎると辛いだけよ?」
「アイナさん……すいません、少し卑屈になっていました」
ヨシュアさんはアイナさんに頭を下げて二人は新しい依頼を受けてそれに向かった。でもヨシュアさんも俺と同じことを考えていたのか……
(色んな答えがある、か……考えさせられる言葉だな)
絶対な正解なんてないのだろう、迷って悩んで人は自分なりの答えを見つけていくものだ。まあ今も悩んでいる俺が偉そうに言える事じゃないんだけどね。
俺は自分でそう思い苦笑して掃除を始めた。
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ーーー
「ふう、こんなものかな」
「あの、ちょっといいですか?」
俺はギルド前の道を箒で掃除していた。アイナさんは礼拝堂に用事があるそうで直に戻ってくるからと留守番を頼まれていた、キリがついたので箒をしまってギルドに入ろうとしたが誰かに声をかけられた。声がしたほうに振り返ってみると眼鏡をかけた男性が立っていた。
「えっとなにかご用でしょうか?」
「翡翠の塔と呼ばれる遺跡を知らないでしょうか?そこに用があるのですが場所が分からなくて……」
「翡翠の塔?この町から見て北の郊外にありますが……」
男性が効いてきたのは偶然か俺が倒れていた場所だった。そのことをカシウスさんから聞いてたので場所は知っていたがつい話してしまった。だがそれがいけなかった。
「ああ、そちらのほうでしたか。ありがとうございました、早速行ってみます」
「あ、ちょっと待ってください。山道には魔獣が……」
止めようとしたが見かけよりも機敏で直に姿が見えなくなってしまった。
「不味いな、アイナさんに話そうにも彼女は用事で今ギルドを留守にしてるし……」
マルガ山道や翡翠の塔には魔獣がいるので一般人が行くのは危険だ。さっきの男性は武器らしきものを持っていなかった、このままじゃ魔獣に襲われて殺されてしまうかもしれない。
本来ならアイナさんを呼びに行くのがベストだが間に合わないかもしれない、それに自分の迂闊な行動が原因だと思い焦った俺はマルガ山道に向かった。
「くそ、道中にはいなかったな。もう塔の中に入ってしまったのか?」
マルガ山道を走ってきたがさっきの男性はいなかった、となるともう既に塔の中に入ってしまったかもしれない。
「急がないと……!」
俺は意を決して翡翠の塔内部に入って言った
「さっきの人は……いた!」
翡翠の塔を登り四階まで来た、そこで先程の男性を見つけた、案の定魚のような魔獣に襲われかけていた。
「八葉一刀流、八の型『破甲拳』!!」
気を込めた掌底を魔獣に叩き込み吹き飛ばす、魔獣は壁に叩き付けられて消滅した。
「大丈夫ですか?」
「君はさっきの……いやはや、恥ずかしい所を見せてしまいましたね。逃げ足には自信があったのですが流石に今回は死を覚悟しましたよ」
男性は立ち上がりハハッと苦笑を浮かべた。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はアルバ、考古学者をしています」
「俺はリートと言います。アルバさん、ここは危険です。一度町まで戻って遊撃士協会に依頼された方がいいですよ」
「確かにそうしたほうが良かったですね、ですが後少しで屋上に出ますからここで戻るのも……」
「……はぁ、なら一緒に行きましょう。この辺にでる魔獣なら俺でも対処できますしこのまま放っておけませんから」
「そうですか、それはありがたい。是非お願いします」
本当ならさっさと町に戻ったほうがいいんだろう、けどこの人放っておいたら危ないしあと少しで目的地に着くならそこに向かってから帰ってもいいだろう。
「アイナさん、カンカンだろうな……」
帰った後の恐怖を感じながら俺はアルバ教授と一緒に屋上に向かった。
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ーーー
「随分と高いな……でもいい景色だ」
翡翠の塔の屋上についた俺はそこから見える絶景に目を奪われていた。
「いやー、これが翡翠の塔ですか!この台座といい調査のし甲斐がありますねえ」
「アルバ教授は考古学者なんですよね、何を調べにここに来たんですか?」
「そうですね、リート君は『セプト=テリオン』という言葉を知っていますか?」
「確か古代人が空の女神から授かったと言われる『七の至宝』のことですよね」
昔マリアナ姉さんに眠るときに聞いたおとぎ話、その話の中に七の至宝という言葉があったことを思い出した。
「ええ、その通りです。彼らはこの至宝の力を使い海と大地と天空を支配した、更には生命や時間の神秘すら解き明かしたと伝えられているのですがおよそ1200年前、古代文明の滅亡と共に『セプト=テリオン』も失われました」
「へえ……もしかしてその事とこの塔になにか関係があるんですか?」
「鋭いですね、その通りです。『七の至宝』の一つである『輝く環』がリベールに隠されているという伝説があるんですよ。この塔もリベール王国建設の際に作られたという古い遺跡なのでもしかしたらなにか手掛りがあるんじゃないかと思いここに来たという訳です」
『セプト=テリオン』か……古代のロマンを感じるな。
「さてそれでは早速調査を始めましょう…ってリ-ト君、どうかしましたか?屋上の入り口を見つめたりして……」
「アルバさん、何者かがここに向かってきています」
「ええ!?まさか魔獣ですか!?」
「とにかく僕の後ろにいてください。魔獣なら退治できますから……」
「分かりました、お願いします」
俺はアルバ教授を後ろの柱に隠れさせて上がってくるものに警戒する、そして上がってきたものの正体を知って驚いた。
「えっ?リート君!?」
「エステルさん!?」
屋上に上がってきたのは二日前に知り合ったエステルさんだった。
後書き
実際七の至宝もまだ四つしか出てないし(しかも火と土は混ざってるし)全部判明するころには自分30歳くらいになってそうですね。
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