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儚き想い、されど永遠の想い

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321部分:第二十四話 告げる真実その十


第二十四話 告げる真実その十

「だが半島はだ」
「違いますか」
「そうではないと」
「支出が多過ぎる」
 まずはそれが問題だというのだ。
「今も毎年莫大な予算を注ぎ込んで発展にあたっているがだ」
「それでもですか」
「軌道に乗っていないと」
「財政的にも内政的にも大きな足枷になっているのではないのか」
 曇る顔でだ。半島経営について話すのだった。
「ひいては外交でも軍事でも」
「そういえば二個師団増設もでしたね」
「かなりの議論になりましたね」
「併合してから気付いた」
 半島防衛の為に二個師団が必要であるということにだ。そうなってからようやく気付いたのだ。恐ろしいことにこれが歴史的事実なのだ。
「それで日露戦争での疲弊からようやく立ち直り内政に予算を入れようとしたが」
「二個師団増設ですね」
「半島防衛の為の」
「国は護るものだ」
 例えそれがその半島であってもだ。そうしなければならないのだ。
「だからこそだ」
「その為の二個師団」
「それは必要ですね」
「護りを固めることが第一だ」
 何につけてもそれからだというのだ。
「そしてそれからだ」
「内政も経済もですね」
「あらゆることが」
「そうだ。だからあの二個師団は絶対に置かなくてはならなかった」
「世論は大変でしたが」
「それでも」
 実際に西園寺内閣はその話が出て一気に崩壊した。何と元老であり陸軍を仕切っていた山縣ですら陸軍が言ってから気付いた程なのだ。
 内角が倒れ慌てふためいた山縣はここで切り札を出したのだ。
 ニコポンことだ。桂太郎を総理に据えたのだ。彼は元老の一人であり山縣と共に陸軍の領袖であった。その彼ならこの問題を解決できると見てだ。
 しかし桂は既に二度と首相にならないと議会に約束していた。それでこの申し出を断ろうとした。しかしそれはできはしなかった。
 桂は首相になった。しかしだ。
 それが議会の反発を受けだ。世論も巻き込んだ糾弾になった。最早二個師団増設の話どころか国政もままならない状況に陥った。
 それで桂は無念のうちに首相を辞した。その時の心労で癌が悪化し間も無く死んでしまった。日韓併合は暗殺された伊藤も含めて元老を二人も葬ってしまった。
 そうした騒動を経てだ。陸軍がその存亡をかけて押し通した二個師団増設についてだ。伊上は仕方ないといった顔で述べた。
「必要だったのだ」
「あれだけの騒ぎを経てもですね」
「それでも」
「国防なき国は国ではない」
 こうも言う彼だった。
「だからだ」
「半島防衛の二個師団はですか」
「半島が日本である限りは」
「必要であったしこれからもだ」
「あの半島に軍を置かなくてはならないですね」
「これからも」
「そうだ。日本だからだ」
 日本領を見捨てる訳にはいかないというのだ。
「絶対にな」
「そして内政もですね」
「あの半島の内政も」
「欠かせない」
 やはりだ。日本領であるからだった。
「台湾もそうだったがあの半島でもな。だが」
「だが?」
「だがといいますと」
「あの半島には何もないのだ」
 和服の袖の中で腕を組み難しい顔をしての言葉だった。
 
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