インフィニット・ゲスエロス
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14話→社長の真意と始まりの鐘②
前書き
亡国企業「寒気がするのう」
さて、ここは考え所だ。
言うまでもなく、相手がここまで手札を開示しているにも関わらず、『いやー、きついっす』的な返答はアウト。
同時に、下手に同意すれば良いように使われ『ボロ雑巾にしてやるよ……』ルート。
だが、である。
社長の言葉を反芻する。
奴は『俺を選んだ』といっていた。その趣旨は……
短い思考時間を終わらせ、太郎は社長に問う。
「社長、『亡国企業』ではなく、貴方が僕に望む仕事は何ですか?」
どんな組織でも、その組織をある程度維持、拡大するためには、必要なものがある。
リーダーシップ、才覚、運、そして……己を前に突き動かすガソリンの役割を果たす、自身の欲望、『我欲』である。
「ほう、私が従順な『亡国企業』の犬とは考えないのかね?」
「少しだけ悩みましたが、その線はないですね。そういった組織の中で安らぎを得る人間が、今もまだ、こんな大きな会社のトップとして君臨する旨味はない。今まで稼いだ金や人脈を使って、その亡国企業とやらに近い企業で、責任のない役職についてノンビリ過ごせば良い」
答え合わせをするかのように、太郎は社長に説明していく。
「何故そうしないのか?もはや、苦労しなくても好きに生きれる財力や権力はあるのに、その手法を取らない理由として考えられるのは……」
社長の机に近づき、内緒の話をするように顔を寄せて答える。
「貴方が『亡国企業』に入った理由が、世界規模の組織を頼るためではなく、自分の目的のために利用するためだから、違いますかね?」
流石にエスパーではないので、その中身までは分からないが。
話の最後を、そう冗談めかして締めて、彼の反応を伺う。
「…………くくっ、いやはや、良い読みをしてるよ」
おお、合ってた。
内心で安堵する太郎の前で、社長は答えを開示する。
「正直な話、まっとうな幸せを望むなら、君の言う通り、今の地位で十分に過ぎる」
ただね、と彼は続けた。
「君も薄々気づいていると思うが、私は真っ当ではない。そのような振りをしてはいるがね」
大変失礼な話であるが、それは知っていた。
そもそも、自分で言うのはなんだが、俺達のような若輩者が発明した(勿論言葉は尽くしたが)怪しげな『未知の兵器』の製造に、少なくない金額を突っ込み、工場のラインまで動かしている。
ちなみに現時点でこの会社がIS事業に支払った金額は10億、小さな会社なら余裕で破産する金額だ。
なんの成果もまだ出していない事業に供出する金額と考えると、異常である。
恐らく役員会でも叩かれているはずなのに、平然としている。
この時点でマトモではない。
「まあ、君のプレゼンをみて、ある程度理解してくれている役員もいるが、君の予想の通り、多くはISには懐疑的だ。だが、私にとっては違う」
バサリ、といつの間にか出していたファイルの中身を広げる。
太郎側に開かれたそれに、ザックリと目を通す。
イージス艦……、ミサイル……戦闘機。
初めて目を通すそのリストに目を通してみると、そこには各機体に格納されている弾丸の数や、載るパイロットにいたるまで、あらゆる情報が記載されていた。
それはいい、まあ、説明が余りにも細かすぎるが、まだ理解の範疇だ。
だが、最後の欄にある『オッズ』という欄は一体……
「オッズの欄に疑問を持っているようだが、別に大したことではない。この兵器のプレゼンは、生きた人間の兵士を含む『戦力』をぶつけ、その勝敗に金銭をかける賭博の側面を含む、ということさ」
ほう、なるほどね。
まあ、国籍によっては、政治的な理由により『存在しなかった』という形にされる人間など腐るほどいる。
別に自分で集める訳でもあるまいし、そいつらを始末する事に懊悩することはない。
ただし、俺や束、社長等の知らない他人の死に鈍感な異常者視点で見れば、という但し書きがつくが。
「わかっているかと思いますが、その集まりに参加してISの有用性を見せるという事には反対です。あまりに表沙汰に出来ない部分が多い」
「ああ、分かっているさ」
その返答に当然のように頷く社長。
分かっているならなぜこんなモノを俺に見せたんだ?
浮かんだ疑問は、直ぐに解決した。
「だから、こいつら全員、俺たちの会社のISのダシになってもらおう」
ちょっとスーパーで買い物してきて?レベルの気安さで、社長はそう言った。
「…………はぁ?」
あまりの事に絶句した俺を、誰が責められようか。
「いやさー、知っての通り、現代で未知の兵器のプレゼンってむずかしいんだよ。下手に動くと国際情勢に関わるしね」
だからさ、と社長は続けた。
「いっそ暴走した兵器をISが鎮圧した………というシナリオでこちらで『演出』した方が楽だと思ったんだが…………分かるだろ?」
まあ、言いたい事はわかる。
俺と千冬以外の頼みを聞かない束と、曲がったことが嫌いな千冬。
マッチポンプを演出するなら、頼むのは俺一択だな。
頭をかきながら、短く了解の意を示す。
「…………分かりました。手を貸しますよ。」
ただ…………
「わかっていると思いますが、ネタばらしは千冬にしないで下さい。確実に止められます。で、束とは俺から話をもっていって擦り合わせます。恐らく似たような事は考えているから、束の意向を多分に組み込めば協力してくれるでしょう」
最後に…………太郎は社長に言った。
「この『ヒーロー役』を千冬が行うと同時に、報復行為を行う可能性の高い企業は俺が正体不明のテロリストとして処理します。リストアップを」
その言葉に、社長は我が意を得たりと言わんばかりに笑った。
「やはり君は最高だよ。山田太郎君」
「…………ありがとうございます。で、貴方の望みはそれだけでよろしいので?」
確認する太郎に、社長はまるで教え含めるようにこう返した。
「まずは目の前の事からだよ。太郎君。何、安心したまえ。私の望みは決して君の望みの邪魔にならんよ…………そもそも、もしそうなら、既に自分は殺されている。そうではないかね?」
君の恋人に、と言外に伝える社長に、太郎は苦笑で返した。
後書き
太郎・社長「(他の奴等を)ボロ雑巾にしてやるぜぇ」
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