儚き想い、されど永遠の想い
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298部分:第二十二話 消える希望と灯る希望その十一
第二十二話 消える希望と灯る希望その十一
席から立ちだ。そうして。
彼も風呂に入りに行く。その途中でだ。
真理に顔を向け。笑顔でこう告げた。
「では。お風呂の後で」
「その後で」
「少し飲んでから」
「お酒を飲まれてから」
「あのベッドで眠りましょう」
「幾ら何でもそれは」
労咳は感染する。伝染病であることは古来から知られている。それが為にだ。古来は労咳にかかり座敷牢に閉じ込められたものだ。
それでだ。真理はだ。
流石にそれはだと。義正に顔を曇らせて言った。
「無理です」
「無理だと言われますか」
「義正さんに迷惑がかかります」
「いえ、それを言えばです」
「言えば?」
「誰もが同じです」
こう言ったのだ。誰もがだとだ。
「我が国には不幸にして数多くの労咳の患者がいますね」
「それはその通りですが」
「その人達と側にいるだけで労咳になるのなら」
「誰もがですか」
「我が国は全て労咳に覆われてしまいます」
いささか強引だと思っていてもだ。それでもだ。
義正はだ。ここではこう言うのだった。
「ですから。夜共にいてもです」
「いいのですか」
「はい。ですから」
「わかりました。では」
「これまで通りです」
夫婦としてだ。そこはだというのだ。
「夜も共にいましょう」
「そうさせてもらいます」
こうしてだった。二人はだ。
夜も共にいることにしたのだった。実際に同じベッドで眠るのだった。
その翌朝もだ。二人でだ。
白い日の光がこれまた白いカーテンを照らしている部屋の中でだ。テーブルに向かい合って座りだ。その席においてこんな話をするのだった。
「朝も同じですね」
「これまで通りですね」
「そうして過ごせばいいのです」
それだけだというのだ。
「それで今朝の食事ですが」
「この洋食ですね」
「英吉利風の食卓です」
目玉焼きに焼いたベーコン、ボイルドベジタブル、それにトーストに紅茶だ。そのメニューを見てだ。ナイフとフォークを手にしながら。
義正はだ。そのイギリス風の食卓について話した。
「あの国は欧州では食事は悪いと言われていますが」
「それでもですか」
「朝食はいいと言われています」
このことは後に誰もが言うことであった。
「それでこうも言われています」
「こうとは?」
「英吉利では三回の食事は全て朝食でいい」
こう言われているというのだ。
「朝食だけが美味しいから」
「何か随分な言われ方ですね」
その話を聞いてだ。真理は。
思わず苦笑いになってだ。それで言ったのだった。
「朝食だけとは」
「ただ。面白いことにです」
「面白いこととは?」
「ビーフシチューですが」
義正は今度はこの料理の話をした。
「あれは英吉利の料理です」
「あれは美味しいと思いますが」
「カレーもあの国から伝わりました」
印度を植民地にしているだ。英吉利からだというのだ。
「あの料理もです」
「カレーもなのですか」
「そうしたことを見ると英吉利も料理がいいと思えますね」
「はい、確かに」
「けれど違うのですか」
「そう言われています」
「おかしな話ですね」
真理は義正のその英吉利料理の話を聞いてだ。
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