儚き想い、されど永遠の想い
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296部分:第二十二話 消える希望と灯る希望その九
第二十二話 消える希望と灯る希望その九
「それこそです」
「どれだけ入らなかったのでしょうか」
「何年もです」
実際にそうだったことをだ。真理に話したのだった。
「何年も入らなかったことが普通だったのです」
「それはまことですか?」
「はい、事実です」
「それで我慢できるのでしょうか」
顔を曇らせてだ。真理は言った。
「我が国ではそうした人はあまり」
「いないと思います」
「そうですね。とても」
「我が国では毎日にでも入る人もいますから」
真理もそうである。女としてだ。身だしなみに気をつけてのことだ。
「ですから」
「しかし西洋ではそうではなかったのです」
「何か事情があったのでしょうか」
「水が我が国に比べて貴重で」
「そのせいでしょうか」
「水の質も違ったのです」
それも違ったというのである。水の質もだ。
「西洋の水は硬水といいまして」
「硬水?」
「はい、硬水です」
そうした水だというのである。西洋の水は。
「それは身体に浴びたり浸るには不向きなのです」
「水といっても色々なのですね」
「ですから」
「だからなのですね」
「西洋では入浴は滅多にしないことだったのです」
「それにしても何年とは」
「英吉利の女王だったエリザベス女王ですが」
この頃はこの名前の女王は一人しかいなかった。もう一人のエリザベスが現われるのは後世になってからだ。それで一世になったのである。
「その女王も年に四回入るだけで」
「それでも非常に少ないのでは?」
「しかしそれで極めて入浴好きで清潔だと思われていたのです」
「国の主ですらですか」
「そこは日本とは違うのですね」
「全く違います」
まさにだ。そうだったというのだ。
「西洋の文明は確かに華麗ではありますが」
「そうした私達からは信じられない一面もあるのですね」
「どの文明でもそうしたものはありますね」
「確かに。言われてみれば」
「しかし我が国は入浴はです」
義正はここではその入浴に絞って話した。
「毎日の様にできますね」
「はい、有り難いことに」
「それは素晴らしいことだと思います」
義正は笑顔で述べた。
「では今から」
「入ってきます。有り難いことに」
「有り難いことにとは」
「この屋敷の御風呂は和風にされたのですね」
洋館だがだ。風呂はそうしているのだ。
「やはり御風呂はですか」
「はい、和風がいいと思いましたので」
そうしたとだ。義正は微笑んで真理に話した。
「そうしたのです」
「成程。それでなのですね」
「私個人の好みですが」
こう前置きしてからだ。義正はこのこともだ。真理に話した。
「御風呂はやはり」
「和風ですか」
「それが一番落ち着き癒されます」
それでだ。和風にしたというのだ。
「ですから」
「そうですね。それは」
「それはですか」
「私もです」
真理もだ。こう答えたのだった。
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