儚き想い、されど永遠の想い
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294部分:第二十二話 消える希望と灯る希望その七
第二十二話 消える希望と灯る希望その七
だがだ。ベートーベンはそれでもだったのだ。
「しかし彼はです」
「それでもですか」
「こうした曲を作曲していったのです」
「この運命もまた」
「一時は死を考えたそうです」
自殺をだ。しかしだったのだ。
「ですが思い止まりです」
「こうした名曲を生み出していったのですか」
「そうしました」
「そうですか。それがベートーベンの」
「運命でした」
必然的にだ。話はそこに至った。ここでだった。
運命が終わった。それを受けてだ。
義正は席を立ち蓄音機の方に向かった。そこでだ。
新しいレコードを選ぼうとする。そこで目に入ったのは。
「これは」
「何かいい曲があるのですか?」
「ウェーバーがあります」
「ウェーバーですか」
「はい、独逸の音楽家です」
またしてもだ。独逸だった。素晴らしい音楽家を数多く輩出しているのがこの国なのだ。この時代の日本でもその為に独逸を崇拝する者は多かった。
「彼の曲ですが」
「今度はそれをですね」
「どうされますか?」
真理に顔を向けてだ。彼女に問うた。
「ウェーバーにされますか?」
「曲は何でしょうか」
「魔弾の射手です」
まずはこう答えた義正だった。
「それの序曲と。それに」
「それに?」
「同じく魔弾の射手からです」
そこからだ。もう一曲あるというのだ。
「狩人の合唱です」
「その二曲がですか」
「レコードに入っていますがどうされますか?」
「では」
少し考えてからだ。真理は。
こうだ。義正に答えたのだった。
「そのレコードにさせてもらいます」
「左様ですか」
「はい、それでは」
「今からかけますね」
「御願いします」
こうした軽いやり取りからだった。そのレコードが蓄音機にかけられる。レコードの針が伝いながらだ。音楽を出していくのだった。
その序曲は。聴いていると。
森の中にいる様な感じになった。それを感じだ。
真理はだ。こう義正に話した。
「今度は不思議な曲ですね」
「これは歌劇の序曲でして」
「歌劇のですか」
「はい。そのウェーバーの作曲した歌劇の作品です」
その歌劇がだ。魔弾の射手だというのだ。
「それなのです」
「そうなのですね」
「そうです。そして」
「そして?」
「彼もです」
こうだ。真理に対して話すのだった。
「彼もまた真理さんと同じでした」
「私と同じということは」
「労咳でした」
そうだったというのだ。ウェーバーもまただ。真理と同じ病だったというのだ。義正はこのことをだ。彼女に対してだ。あえて話したのである。
「ですがそれでもです」
「この曲を作曲したのですね」
「そうです。気力を振り絞って」
そうしたと。真理に話した。
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