儚き想い、されど永遠の想い
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290部分:第二十二話 消える希望と灯る希望その三
第二十二話 消える希望と灯る希望その三
「その御心に添えられません」
「添えられない」
「私は。もう」
もうとだ。義正に話すのである。
「義正さんとずっと一緒にいられません」
「一緒に」
「はい、一緒にはもう」
いられないと言ってだ。そうしてだった。
笑顔だった。だがその笑顔は。
今にも壊れそうな顔になっていた。そして。
その瞳から。黒い瞳から涙を流しだ。頬を伝わせ。
その涙を流しながら。真理は言ったのだった。
「いられません」
「真理さん・・・・・・」
「すいません」
また謝罪の言葉を出す真理だった。
「本当にすいません」
「・・・・・・・・・」
義正も言葉がなかった。そうしてだ。
二人は無言で屋敷に帰った。その彼等をだ。
佐藤と婆やが迎える。その二人を見て。
二人はだ。こう言ったのだった。
「あの、お二人共」
「何があったのですか?」
佐藤も婆やもだ。顔を強張らせてだ。
「一体」
「お顔が真っ青ですが」
「いえ、何も」
「ありません」
二人で答える。
「ですから今は」
「御夕食は」
「はい、それでしたら」
「今にもできますので」
佐藤も婆やもだった。二人の言葉にこれといって言わず。
そのうえでだ。こう話したのだった。
「ではです」
「暫くお待ち下さい」
「わかりました」
「では暫くの間」
「音楽でもどうでしょうか」
佐藤は二人にそれを勧めた。
「それを聴かれながら」
「待てばいい」
「そう仰るのですね」
「はい、そうです」
にこやかに笑ってだ。二人に答えたのである。
その二人の言葉を聞いてだ。義正がだ。
最初にだ。微笑みを作って応えた。
「それでは」
「何を聴かれますか?」
「レコードを幾つか置いておいて下さい」
「御自身で選ばれますか」
「そうさせてもらいます」
これが義正の返答だった。
「それで宜しいでしょうか」
「はい」
佐藤はだ。ここでもだった。
二人のことには気付かずだ。自分の主に対してにこやかに答えたのだった。
「では蓄音機の側に何枚か置いておきますので」
「うん、じゃあね」
佐藤には砕けて返した。そうしたやり取りからだ。
二人は部屋に入りそこでだ。音楽を聴くことにした。その中でだ。
義正は真理に顔を向けてだ。まずはこう言った。
「ではおかけ下さい」
「席にですね」
「休まれて下さい」
彼女を気遣ってだ。それでの言葉だ。
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