儚き想い、されど永遠の想い
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259部分:第十九話 喀血その十一
第十九話 喀血その十一
「ですから。奇麗な作品にはです」
「その作者の奇麗なものが出ているというのですね」
「どの人にもありませんか?」
ひるがえってだった。真理は。
「そうしたものは」
「誰もがですか」
「奇麗なものも醜いものも」
「そのどちらも」
「持っているのではないでしょうか」
こう婆やに尋ねるのである。
「そう思いますが」
「そうですか」
「はい。それで」
それでだと。真理はその話をさらに続ける。
「その藤村や森鴎外にしてもです」
「彼等はどちらも」
「奇麗なものも持っていれば醜いものを持っていて」
「それで詩集にはですね」
藤村のことだ。それに他ならない。
「あの人の持っている奇麗なものが出ていると」
「それを読めばいいのではないでしょうか」
「そうお考えなのですね」
「はい」
その通りだとだ。真理は婆やに答えた。
「そう思います」
「左様ですか」
「確かに藤村は女性にだらしないでしょう」
このことはだ。真理に否定しなかった。
そしてさらにだ。森鴎外もだった。
「森鴎外にしても意固地で」
「はい、しかも権力志向が強く」
とにかくだ。問題の多い人物だったのだ。
「脚気のことも」
「あの病ですね」
「海軍では脚気はなくなりました」
このことは婆やも聞いて知っていた。彼女もだ。
それでだ。ここで言うのだった。
「しかしです」
「それでもですか」
「陸軍では脚気は猛威を振るい続けていました」
日清、日露の戦争の時もだ。それは極めて深刻な被害だった。
脚気は江戸時代の頃から日本を悩ませていた。それが維新からさらに顕著になっていたのだ。
何故脚気になるのか。それの究明が至上命題だった。この問題に対してだ。
「森鴎外、いえ」
「いえ?」
「陸軍軍医総監森林太郎氏はです」
これが彼の本名でありだ。軍の官職だった。直任官であり中将待遇だ。即ち天皇陛下自ら任命されたということになっている役職である。しかも中将待遇だからだ。宮廷に出入りもできたのだ。
その彼がだ。脚気に対してしたことは。
「あくまで脚気菌を探してです」
「それにこだわってですね」
「海軍の主張を全て否定していました」
そしてだった。婆やはだ。
海軍のこともだ。ここで話すのだった。
「海軍では何とかわかったのです」
「脚気のことをですね」
「はい。脚気は食べ物からなるものです」
「確かそれは」
「白米だけを食べていますとなります」
だから日本では脚気が問題になっていたのだ。日本人は白米が主食だ。その白米ばかりを食べていれば栄養の問題から脚気になるのだ。
それでだ。海軍ではだ。
「ですから麦飯や玄米を食べてです」
「脚気をなくしたのですね」
「そうしました。我が家では洋食も食べますが」
「パンもですね」
実際にだ。真理はパンもよく食べている。
「ああしたものを食べていれば」
「脚気にはなりません」
まさにそこにあると。婆やは指摘した。
「そのことがわかったのです」
「海軍ではですね」
「実際に海軍将校の方に教えて頂きました」
そのだ。海軍のだというのだ。
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