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儚き想い、されど永遠の想い

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258部分:第十九話 喀血その十


第十九話 喀血その十

「彼の作品はあまり」
「読まない方がいいのですね」
「そう思います」
 こう言うのである。
「ですからその詩集はです」
「今からでも遅くはないからですね」
「読むのを止められるべきです」
「そういえばですが」
 婆やのそうした話からだ。
 真理はだ。別の作家の話を出してきた。その作家はというと。
「あの。お医者様でもある」
「お医者様といいますと」
「森鴎外ですが」
「はい。あの方もまた」
「そうですね。いい話は聞きませんね」
 森鴎外の人間性についてもだ。婆やは話した。
「かなり頑固というか頑迷というか」
「そうした方なのですね」
「プライドも高いそうで」
 このことはだ。エリート故とも言えた。森鴎外は医者としては独逸留学を経たまさにエリート中のエリートだったのである。
「何かと出世欲も強く」
「作品からはそうは思えませんが」
「それはその島崎藤村も同じでしょう」
「あの方とも」
「作品はよくても」
 それでもだ。それを創り上げる人間はというと。
「その人間性はです」
「別なのですね」
「残念ですが」
 婆やは苦い顔になって真理に述べる。
「そうなのでしょう」
「それではです」
「それでは?」
「作品と作者の人間性はまた別ですね」
 このことをだ。真理も言ってだ。
 そのうえでだった。婆やにこう話した。
「では作品の美しさを見てです」
「作者の人間性はですか」
「それは見ないで集中してはどうでしょうか」
「そうするべきだというのですか」
「そう思うのですが」
「どうでしょうか、それは」
 その考えについてはだった。婆やは。
 また難しい顔になってだ。真理に話すのだった。
「難しいのではないでしょうか。いえ」
「いえといいますと」
「そうはいかないです」
 こう真理に言うのである。
「やはり。作品には創り出す人間のその持っているものが出ますから」
「だから。作品もまた」
「醜く。穢れたものになります」
 婆やは眉を顰めさせて述べた。
「どうしてもです」
「そうなのですか」
「醜いものは必ず出ます」
 婆やは言い切った。
「ですから。どうしてもです」
「読まない方がいいですか」
「醜いものは人に悪影響を与えます」
「そして穢れたものもですね」
「そうです。同じです」
 どちらもだ。人に対してだというのだ。その作品を読む。
「私はそう思います」
「その考えだと」
 だが真理はだった。婆やのその言葉からだ。
 逆説的に考えてだ。こう言うのだった。
「こうも考えられませんか?」
「今度は一体」
「美しいものがあれば。作者の心に」
「それが作品にも出てですね」
「はい、読む人によい影響を与えます」
 婆やの否定の言葉をだ。そのままひっくり返しての言葉だった。
 
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