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卵焼きも

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第三章

「食べてみて下さい」
「ああ、目玉焼きと違ってか」
 客は今はこの客だけだ、見れば他の店も一段落した感じで客足は今は少なくなっている。
「味の方はか」
「自信がないですが」
「ぱっと見奇麗に出来てるぜ」
 客は自分が持ったその皿の上の卵焼きを見て言った、右手には割り箸がある。
「美味そうだぜ」
「それは何よりです」
「まあ食ってみないとわからないな」
「お料理はそうですからね」
「それじゃあ実際にな」
「今からですね」
「食うな」
 客はこう言って満月が作った卵焼きを食べた、そして一口食べてからそのうえで満月に笑顔で言った。
「美味いぜ」
「美味しいですか」
「ああ、かなりな」
「それは何よりです」
「ちゃんとした味付けで焼き加減でな」 
 それでというのだ。
「美味いぜ、あんた卵焼きも上手なんだな」
「いえ、本当にです」
「目玉焼き派でか」
「そっちは大好きでいつも食べて」
 それこそ毎朝の様にだ。
「作ってもいて」
「今も大抵そっち作ってたよな」
「そうでした、それでです」
「卵焼きはか」
「殆ど作ったことがなくて」
 それでというのだ。
「自信がなかったです」
「食ったこともなかったか」
「殆ど」
 そうだったというのだ。
「ですから自信がなかったんですが」
「いやいや、それでもな」
「美味しいですか」
「ああ」
 もう一口食べてからだった、客は満月にさらに話した。
「それもかなりな」
「それは何よりです」
「慣れてる感じだぜ」
「だといいんですが」
「というかあんた元々な」
「元々?」
「料理上手なんだな」
 そうだというのだ、満月は。
「そうなんだな」
「センスがあるんですか」
「料理のな」
「だといいですが」
「実際美味いぜ、だからな」
「卵焼きもですか」
「美味いんだよ、これは美味いからな」
 客は満月の焼いた卵焼きを食べつつ彼にさらに言った。
「もう一枚焼いてくれるかい?」
「それじゃあ」
「ああ、頼むぜ」
「もう一枚焼きますね」
 満月は客の言葉に応え卵焼きをもう一枚焼いて食べてもらった、その卵焼きもかなり好評だった。そして。
 ボランティアの後でだ、満月は仲間達に言った。
「いや、まさかね」
「卵焼きもいけたんだな」
「評判よかったみたいだね」
「目玉焼きだけじゃなくて」
「そちらも」
「そうみたいなんだ、僕はとにかく目玉焼きが好きで」
 それでと言う満月だった。
「目玉焼き焼くのが得意だったけれど」
「それだけじゃなくてな」
「卵焼きもいける」
「そっちも上手やねんな」
「そのことがわかったよ、料理のセンスがあるとも言ってもらったし」
 このことも言う満月だった。
「よかったよ、それじゃあね」
「これからは卵焼きも焼いていく」
「それも積極的に」
「そうしていくんだね」
「そうしていくよ、何でもね」
 それこそと言う満月だった。
「僕は料理のセンスがあるっていうし、それなら」
「他の料理もだね」
「焼いていく」
「そうしていくのね」
「うん、頑張ってね」
 穏やかな顔で言う満月だった、そうして彼は卵焼きも焼いて食べる様になった。それを困っている人達にも出す様になった。目玉焼きだけでなく。


卵焼きも   完


                2018・1・27 
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