大阪の塗り壁
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第二章
「そうですよね」
「ええ、それならね」
実際にとだ、詩織も話した。
「匂わないから」
「じゃあラムが安い時にです」
「買ってなのね」
「料理して主人に出してみます」
「そうしてね、私の夫は呉服店関係だけれど」
やはり八条グループが経営している。
「最近何か西陣織のいい職人さんと会えて」
「その人とですか」
「お仕事のお話しているらしくて」
「やっぱり遅いんですか」
「そうなの、京都から大阪は結構距離があって残業多くて」
「詩織さんの方もですか」
「大変みたいよ、主人にも美味しくて栄養のあるもの食べてもらわないとね」
今度は自分の夫のことを話す詩織だった、そしてだった。
その話をしてからだ、二人でそれぞれの家に帰った。二人共今日はパートがないので暇と言えば暇だった。
だが香菜は夫が帰った時にだ、彼にこんなことを言われた。
「何か家に帰るまでにな」
「どうしたの?」
「壁があったな」
夫にこう言われた。
「夜道にな」
「夜道に壁?」
香菜は夫の言葉に首を傾げさせた、そうしつつとりあえずスーツの上着を脱いでネクタイを外してテーブルに着く夫に野菜炒めと鰯の生姜煮を出した。
「それがあったの」
「ああ、家の前の道にな」
「あそこに?」
「壁があってな」
そしてというのだ。
「何だと思って少し回り道をしてな」
「壁で通れなくて」
「そうなってな」
「少し帰るのが遅れたの」
「ああ、ちょっとだけだったけれどな」
「壁ってそんなのないわよ」
香菜は夫にとても不思議そうな顔になって言葉を返した、自分もここで自分の席に着いた。夫の向かい側の席だ。
「別にね」
「そうだよな、俺も行く時はな」
「壁はなかったの」
「そんなのなかったさ」
二人の部屋の前の道にはというのだ。
「全くな」
「私がお昼通った時もよ」
香菜は自分のことも話した、昼確かに通ったのではっきりと認識していた。
「そんなのなかったわよ」
「じゃあ何なんだ?」
「何かしらね」
香菜には全くわからなかった、それで食事の後でだ。
夫と二人で自分達のいる団地から出て前の道を見ると壁なぞなかった。それで夫は狐に抓まれた顔で言った。
「ここにな」
「壁があったのね」
「そうだったんだよ、今はないな」
「見間違えとかじゃないわよね」
「見間違えるか?壁なんて」
「そうよね」
「団地じゃなくて道にあったんだからな」
二人が今いるその道にというのだ。
「だからな」
「なくて」
「ああ、本当にな」
「壁がここにあったのね」
「そうだったんだよ」
今は普通の夜道のそこにというのだ、何もないそこにだ。
二人はこの日は何もない夜道から家に帰って後は二人だけの夜を過ごした、だがその次の日にだった。
香菜は詩織にパートに行く前にこの話をした、詩織も自分のパートに行く前だった。この日は詩織の家にお邪魔して話した。
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