孔雀王D×D
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8・はぐれ悪魔
駒王町には、いくつかお化け倉庫やら工場と呼ばれる廃屋がある。
凰蝶の母はそういう噂を聞いていて引っ越しを嫌がったものだった。無論、凰蝶もそう思っていた。が、父の仕事上致し方がない。それに、本当に出るとは、思ってもいない。おそらく、都市伝説的な物だろうと思っていた。が、一誠を尾行して来た場所がまさにその一つであった。
一誠が、到着していたころには、オカ研のメンバー全員とリアス学園長代理と秘書の姫島朱乃がいた。
(こんなところで、何をするつもりなのかしら?)
凰蝶は不思議そうに様子をうかがった。が、少し残念だと思っていた。何故なら、凰蝶自身も望んで入ったわけではないが、やはり、少し仲間外れ感を感じる。
しばらく一誠たちは話をしている様子だったが、すぐにその倉庫へ入っていった。
(肝試しのようなことしているのかしら?)
凰蝶もまた一誠たちの後を追うように倉庫の入り口まで走り出し、中へ入っていった。が、その時、女性なのかなんなのかわからないような気味の悪い悲鳴が中から聞こえてきた。
(え?なんなの今のは?もしや、兵頭先輩達に悪いことが)
凰蝶はすぐさま自分のスマホを取り出した。が、一応確認してみてからと思い立ちスマホをポケットの中にしまいこんだ。
倉庫の中は、とてつもなく暗く、月明かりだけが頼りだった。
凰蝶は慎重に歩を進めた。蹴躓いて怪我でもしようものならまさに本末転倒だ。
再度、ポケットからスマホを取り出そうとしたが、倉庫内にもかかわらず、物凄い稲光が走った。
(なんなのあれは?)
一瞬、見えたこの世とも思えないものを凰蝶は捉えた。
それは、下半身が蠍のような形をしていて上半身は半裸の女性でとてつもなく巨大な姿をしていた。
(も、もしや、映画かなんかの撮影?そういえば、兵頭先輩はどこの番組かわかんないけど、テレビに出ているって話だし。きっと、そうだ。撮影に違いない)
凰蝶はくすっと笑った。あんなものがこの世にあるはずがない。
人間、自分のキャパを超えるような出来事があると、それに対して怯えるか笑うしかない。
凰蝶もまさにその状態であった。
しかも、信じられない光景は数々あった。変な翼を広げ、飛び交う部員たち。
素手で化け物を殴り倒す塔城子猫。指から凄まじい雷撃を食らわしている姫島朱乃。のたうちまわる化け物。忙しく動き回るアーシア・アルジェント。
(あれ?兵頭先輩がいない)
凰蝶は一誠を探してみるが、どこにも見当たらなかった。そのかわり、赤い鎧らしき物を着た人物が地上からそして空からと丸い球を投げつけたり拳で殴ったりしていた。
(もしかして、あれが兵頭先輩?)
凰蝶は口をぽっかんと開けてその様子を見守った。
「さて、はぐれ悪魔さん。そろそろ、消滅するときよ」
リアスは腰に両手を当てて足を大きく開き怪物を見下ろすようにして言った。
「おのれ、グレゴリー家の娘め!!」
怪物は、息も絶え絶えにリアスを睨みつけていった。
「言いたいことはそれだけ」
リアスが気合を込めるとグレモリー家の紋章が現れた。その時、怪物は凰蝶を発見した。
(しめた!!)
怪物の動きは死にかけているとは思えない速さで凰蝶の方へ突進してきた。
その場にいた全員が虚を突かれた感じで怪物の動きを見守った。
「凰蝶ちゃん、逃げて!!」
アーシアの叫び声で全員が我に返った。
「なんで、凰蝶がここに?」
ゼノビアと木場が怪物を追ったが、間に合わなかった。
「一誠、付けられたわね」
リアスが一誠を睨んだ。
怪物は逃げようとした凰蝶を捕まえ、凰蝶を盾にするようにリアス達の方へ凰蝶を向けた。
「ハハハ、馬鹿な人間。これで私の方が有利になったなぁ、リアス・グレモリー」
怪物はにやりと微笑んだ。
「このはぐれ悪魔!!凰蝶ちゃんにちょっとでも手をだしてみやがれ、てめぇをメタメタにしてやる」
一誠は白く輝く球を怪物に向けた。
「おぉぉ、元気がいい男の子だこと。でもねぇー、こっちが有利なのをわかっていないの?」
怪物はにやりとひげた笑みを浮かべた。
「それにどう?こんな可愛らしい人間の女の子の肉は柔らかくてとっても美味しいのよ」
怪物は凰蝶の腕を絞り上げてゲラゲラと笑った。
(い、痛い。なにこれ?撮影じゃないないの?どうしてこんな目にあわないといけないの?)
この理不尽なことに凰蝶の目から涙がこぼれだしてきた。
(私、死んじゃうのかなぁ?死にたくないよ)
(大丈夫さ。お前は死にはしねぇよ)
凰蝶の目の前が暗くなったと思った時、いつもの声が聞こえ、一人の男が立っていた。
(あなたは、いつも私の夢に出てくる人?)
(お前は死なない。お前の力をこの化け物に見せてやれ)
(私の力ってなに?あなたは誰なの?)
鼻が曲がりそうな匂いで凰蝶は我に返った。怪物の顔が凰蝶に近づいていて長い舌を凰蝶の頬に這わせていた。が、その時、凰蝶の中の何かがはじけ飛んだ。
「汚い手で私に触るんじゃない」
凰蝶の大きな目が怪物を睨みつけた。
「な、なんだと!!この餓鬼が!!もう、腕を捥ぎ、頭から食ってやる」
怪物は腕に力をこめた。その刹那、怪物の腕は宙を舞った。と、同時に凰蝶もまた宙を舞い一回転して地上に降り立った。
「ぎゃぁーーーー!!」
怪物は切り取られた腕かから血を吹き出し悲鳴を上げた。
凰蝶の右手には八角形の物体が握られていた。その物体には、八角形の角に仏法僧が使う独鈷に似た鋭い歯がついていた。
「なんだ、あの武器は?」
一誠たちは見たことのない武器に目を見張った。
「ナクマク サンマンダ ボダナン マカシャクナ!!」
凰蝶が呪文のような言葉を発すると、風が一気に八角形の武器に集まり、その武器が勢いよく回り始めた。
「お前ごときが私に勝てるわけもない。消滅せよ、化け物」
凰蝶は一気に高く飛び上がった。
「生意気な小娘め!!死ね!!」
怪物も負けずに蠍の様な尻尾を凰蝶目がけて連続的に突き入れた。が、凰蝶は腕をまるで無限大のような文字を描くように振り回してその攻撃を余裕でかわし、怪物に向かって急降下を始めた。鈍い音が周囲に響いた。
凰蝶は怪物の背後に着地した。そして、怪物を見ることなくすたすたと歩き始めた。
「ど、どこに行く、小娘!!勝負はついていないぞ」
怪物は尻尾を凰蝶へ照準を定めた。
「お前はすでに終わっている」
凰蝶は後ろを振り向くことなく怪物に告げた。
「何を馬鹿な」
怪物はにやりと笑って攻撃に移ろうとした。その瞬間、その尻尾はまるで大根を輪切りにしたように切り裂かれ、体が炎に包まれた。
「そ、そんな馬鹿な!!」
怪物は断末魔を上げると同時に炎の中で細切れになり焼き尽くされて灰となってしまった。
(あの炎は、、まさか!!)
その光景を見つめていたレイベルは眼を大きく見開いた。
「レイベル、どうしたんだ?」
一誠はレイベルの異常な様子を見て問いかけた。
「一誠!!」
リアスの急を知らせる声が一誠の耳に届いた。と同時に、凰蝶がゆっくり後ろへ倒れていく光景を目にすることが出来た。
「危ない!!」
一誠は地面に倒れ行く凰蝶をぎりぎりのとこで助け起こした。
「ナイスよ、一誠」
リアスは一誠のもとに走り寄ってきた。
「部長、凰蝶ちゃんの今の力っていったい?」
一誠はリアスをいまだに部長と呼んでいる。リアスは元オカ研の部長を務めていたせいでもある。
「わからないわ」
リアスは凰蝶を見下ろして答えた。
「ところで、部長。最近、はぐれ悪魔の出現の頻度が多くないですか?」
一誠はリアスに疑問をぶつけてみた。実は、このサソリのような化け物以外に一誠たちは今まで5体もの化け物を倒してきた。
「それに・・・・・」
一誠は言葉を続けようとしたが、その言葉を飲み込んだ。
「一誠が言いたいことはわかるわ。依然、見たことがある人物だといいたいんでしょ?」
リアスは一誠が言いたいことを言い当てた。
そうなのだ。一誠が感じていたことは、一つ。
前にリオドラを倒した時に、リオドラにつき従っていた眷属悪魔達に似ているのだ。
「部長、レイティングゲーム中にキングが死んだ場合、その後の眷属悪魔達はどうなるのでしょうか?」
一誠はリアスの目を見つめて聞いた。それは、もし、万が一自分たちが同じ境遇になった場合の事を想定したものだった。
(リアス部長に限ってそんなことはありえない)
とは、否定する気持ちもあるのだが、この光景をみれば恐ろしさもある。
「進む道は3つ。一つはレイベルのようにフリーとなる者。二つ目は、テロリストとなる者。そして、最後は・・・・・・・」
リアスは眼を伏せた。
「はぐれになるってことですね?」
一誠もまた目を伏せた。
「でも、大丈夫よ、一誠。私にはあなたがいるし、朱乃もいる。ゼノビヤや子猫、アーシヤそして勇人。頼もしくも強い仲間たちがいるもの」
リアスはニッコリとほほ笑んだ。
「そ、そうですよね。リアス眷属は無敵だぜ」
一誠は大声を上げて叫んで仲間たちのもとへ走り去った。。
「リアス様、私、フェニックス家に一旦戻りたいと思います」
レイベルが後ろからヒソヒソと言った。
「そう、もしかして、今の能力のこと?」
リアスはレイベルに答えた。
「はい。お父様やお母様、ひいてはお兄様にも動いてもらおうと思っております」
レイベルは一礼すると一誠たちに挨拶もなく先に倉庫を出て行った。
「さぁ、みんな、帰るわよ」
リアスはみんなに声をかけて倉庫を後にした。凰蝶の意識は戻ることはなく、一誠の腕の中ですやすやと寝ているようだった。
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