NARUTO日向ネジ短篇
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【螺旋と虹】
『ほら、ネジ……あっちを見てごらん』
ヒザシは、まだ幼い息子のネジを肩車して太陽とは反対の方角を向いて空を見せた。
『わぁ……父上、あれは何ですか?』
『虹、と言うんだよ。いつも見えるわけではないが、さっきのように雨が降った後に太陽が出て、その太陽とは反対の方を見るとあんなふうに七色の虹が出る事があるんだ』
『父上、虹のところに行ってみたいです。さわってみたいっ』
『あぁ……実は虹というのは近づこうとすればするほど逆に見えなくなってしまうもので、実際に触れる事は出来ないんだよ』
『そうなんですか……』
残念そうな息子の声に、ヒザシはある事を思いつく。
『あのように大きな虹は無理だが……、小さな虹くらいなら作れるぞ?』
『ほんと……!?』
肩車から息子を降ろし、ヒザシは家の庭にあるホースを使い、太陽を背にしてホースの口をすぼめ、水しぶきを出すと小さな虹が現れ、幼いネジはそれを見て目をキラキラさせる。
『父上、すごいです……! ──あ、でも、さわれないんだ……』
ホースの水しぶきで出来た小さな虹に触れてみようにも、触れようとした端から消えていってしまい、手が濡れてしまうだけだった。
『ねぇ父上、虹……にじって、自分の名前に似てますね』
縁側に父と二人で座り、庭にやってきていた小鳥に餌を撒きながら幼いネジはふと思った事を口にした。
『どうして自分は、ネジって名前なんですか?』
『──架け橋なってほしくてな』
『……え?』
『日向一族の……宗家と分家の、な』
『……?? 自分たち分家は、宗家を、命をかけて守るんでしょう?』
『いつか……出来る事なら、お前に繋ぎ合わせてほしい。宗家と分家の垣根を越え──日向の家族として』
『………?』
『今はまだ、はっきりとは判らなくていい。──ネジ、お前の名には、虹の意味も込めているんだ。呼び訛りのような感じになっているが……。そしてもう一つ、螺旋(らせん)……ネジとも読めるんだが、お前には宗家だけではない大切にすべきものと繋がっていき、繋ぎとめていってほしい。……そんな願いも込めている』
『自分にとって、いちばん大切なのは……父上ですっ』
『はは……嬉しい事を言ってくれるな、ネジ。……だが私の事はいいんだ、お前は……お前の思う通りに生きなさい。宗家から自由になる道も、探そうと思えば出来るかもしれない』
『どうして、そんなことを言うんですか、父上……?』
ネジはどこか不安を覚え、泣きそうな顔をする。
『ネジ、お前は私の一人息子で……愛すべき存在だからだ』
愛おしそうに目を細め、ネジの頭を優しく撫でるヒザシ。
『これだけは覚えておいてくれ、ネジ。──日向の呪印によって籠の中の鳥にされようとも、心までは決して、縛れはしないと』
─────────
「ネジ兄さん、向こうを見て下さい。虹が出ています」
屋外の開けた場所で修業中、突然の雨が降って来ようと構わずに続け、通り雨が去った後に「あ、」っとヒナタが何かに気づいて小さく声を出した為、修業の手を止めネジはふと空を見上げると、太陽が顔を出している反対方向に半円形の大きな虹が現れていた。
「綺麗な虹ですね……」
「そう……ですね」
「そう言えば虹って……ネジ兄さんの名前と似てますね」
「一文字違いで、読みが似ているだけですよ」
「にじ……、ニジ兄さん」
「いや、無理に当てはめなくとも……。そもそも呼びにくいでしょう」
「そんな事ないです、ニジ兄さん」
ヒナタはどうやら、からかっているつもりではないらしくネジに向け微笑んでいる。
「ネジでいいですよ。聞きようによっては、どちらで呼んでいるか判りにくいですし」
「虹って……太陽の光がないと現れないんですよね。だけどごく希に、夜でも月の光があれば見える事があるんだそうです。──月の光も、太陽によって輝いてますから、虹はやっぱり太陽の光がないと現れてくれないんですね。それも、いつだって見えるわけじゃない……そんな儚いところが、私は好きだったりします」
「そう、ですか。俺にはよく判りませんが」
ヒナタは空に架かる虹を見つめ、微笑んだままでいる。……ネジにとっては、複雑な心境だった。
(太陽の光──、日差しを……父上を失った俺は果たして、虹と成り得るんだろうか。日向宗家と分家の架け橋に……なれるんだろうか。繋ぎとめて、いけるのだろうか)
「……ネジ兄さん?」
(闇の中から救い出してくれたあいつが……ナルトが、太陽だとするなら──まだ、俺は……)
「ネジ兄さん…!」
「あ……はい、何でしょうヒナタ様」
「虹……、消えてしまいました」
「あぁ……そのようですね」
下向いていたせいか、ネジは虹が消えた事にヒナタに言われるまで気づかなかった。
「ヒナタ様、俺は──・・・」
「どうかしたの、ネジ兄さん。さっきから何だか……」
「いえ、何でもありません。……今日の修業はここまでにしておきましょう」
「あ……はい、分かりました」
ネジは虹の消えた方向を仰ぎ見据えたまま、しばらく立ち尽くす。
(あいつは……ナルトは、『火影になって日向を変えてやる』と言っていた。それを間に受けるつもりはないし、あいつもあの場の勢いで言っただけで忘れているもしれない。あいつを信用していない訳じゃない……ただ、待っているだけでは駄目なのだ。やはり、日向を内側から変えてゆくには──)
「ネジ兄さん……、何か悩み事があるなら、一人で抱え込まないで下さい。私じゃ、頼りにならないかもしれないけど……少しでも、ネジ兄さんの力になりたいから」
先に日向邸に戻ったと思われたヒナタが、ネジのすぐ傍まで来て気遣うように述べ、ネジは若干申し訳なくなったがヒナタに微笑を向ける。
「……ありがとう、ございます。今は……その気持ちだけで十分です」
もし、いつの日か呪印制度が廃止され、分家も宗家も関係なく、対等になれたなら──心から笑い合える未来を、ネジはそっと願わずにはいられなかった。
《終》
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