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とある3年4組の卑怯者

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97 戦時中(あのとき)

 
前書き
 戦時中の各務田家と永沢家の関係は「はだしのゲン」の中岡家と鮫島家の敵対関係を一部参考としています。 

 
 藤木達は御殿場に到着し、予約していた旅館に着いた。
(絶対に皆をギャフンと言わせてやるぞ!)
「父さん、母さん、早速だけど、スケート場を見に行っていいかい?」
「さすがヤル気満々だね、茂」
「よし、道に迷わないためにも道を確認するつもりでも行くか!」
 藤木家は早速旅館を出てスケート場へ向かった。

 永沢の家族は家を出た。しかし、逃げると言っても行くあてもなかった。
「クソっ、どこに逃げるか・・・」
 その時、一人の男が遠くから叫んだ。
「おい、いたぞ、あれが永沢じゃないのか!?」
 他の男二人が駆け付けた。
「よし、捕まえて各務田さんに差し出せ!」
「くそ、見つかった!お前達、あっちへ行くぞ!!」
 永沢の父が男達の方角とは反対の方向へ皆を走らせた。
(なんで、こんな目に遭うんだ!!)
 永沢はなぜこんな事になったのか全くわからなかった。自分は何も悪い事をした覚えはない。なら、奴らはなぜ自分達を狙うのか。そしてその目的は・・・。
「あ~ん、あ~ん!!」
 太郎が泣き出した。これでは太郎の声で相手に場所が分かってしまう。
「ああ、太郎、泣くんじゃないよ!」
 永沢の母は太郎を落ち着かせようとするも、太郎は泣き止む気配がない。
「おい、こっちだ!」
 その時、別の男が三名、永沢達の前に相対した。
「くそ、別の奴もいたのか!」
 永沢の父は絶望を感じた。その時、一台の車がこちらへ向かい、止まった。
「Hey、永沢クン、どうしたんだい?」
「あっ、花輪クン!!」
 花輪が車の窓を開けて呼び掛けた。
「今、変な奴に終われてるんだ!」
「な、何だって!?わかった。車に乗りたまえ!」
 花輪はドアを開けて、永沢とその母と太郎を後部座席に、永沢の父を助手席に乗せて、ヒデじいは車を発進させた。
「少しスピードを出しますよ!」
 ヒデじいは車の速度を上げた。永沢を追う男達は驚いて車からよけた。
「くそ、車を使われたか!!」
「各務田さんに連絡だ!!」
 男達は公衆電話を探した。

「永沢クン、誰に追われていたんだい?」
 花輪が聞いた。
「ええと、わからないんだ。父さんの友達とか言う人から電話が来て、それで急に父さんが逃げろって言って・・・」
「私らを追っているのは各務田出吉(かかみたいできち)という奴だ」
 永沢の父が息子の説明の途中で答えた。
「各務田出吉ですと・・・!?昔町内会長をやっていた各務田会蔵(かかみたあいぞう)の息子ですか!」
 ヒデじいは驚いた。
「ヒデじい、知っているのかい?」
 花輪が聞いた。そして、ヒデじいは当時の事を語りだす。
「ええ、私が若い頃、戦争が激しくなりました時、どこの街も戦争の色に染まっていました。日本は必ず戦争に勝つためにはいつでも死ぬ事という事が義務でした。当時ここで町内会長を務めておりました各務田会蔵は戦争を肯定する発言をし、戦争に反対する者、および日本が負けるなどと言ったものは厳しく罰しました。時には息子の出吉も利用して戦争を反対する家族は徹底的に差別し、虐待を行いました」
「そうだ、私も子供の頃、戦争を反対したからと相当な事をされた。非国民という理由で何かと殴られたり、家に石や泥を投げつけられた!」
 永沢の父は昔の苦悩を思い出した。
「そうですか。永沢さんもあの時のように・・・。私の娘も私が出征すると知って泣いていた時に、出吉に臆病者だの非国民だのと言われて殴りつけられた事がありました。私も戦争は正直嫌でした。あの時の旦那様、つまり坊ちゃまのお爺様は戦争を反対するような発言は控えるよう言われましたので、私は我慢してきたのですが・・・。戦争が終わりますと、各務田は別の街に移り、戦争の反対を貫き通してきた愛と平和の戦士などと偽り、各地の町内会長や商店会会長の座を狙おうとしましたが、戦時中に非国民と罵られた人が事実を報告した事で阻まれたのです」
「実は、私の父も、その実態を暴こうとした事があるんだ」
「ええ、そうなのかい!」
 永沢は自分の祖父が元町内会長を懲らしめたという事実に驚いた。なら、息子の出吉が復讐をするのも筋が通るかもしれないと思った。
「その後暴力団と関係を持ち、賭博などでお金を稼ごうとしていたようで幾度か逮捕されたようです。その後の消息は私にも判っておりませんが、死亡説も耳にしております」
「あんた、大丈夫なのかい?あんなのに追われて!これからどうするの!?」
 永沢の母が心配した。
「そうだ、どこに逃げよう・・・!!」
「そうだ、ヒデじい、当分の間、永沢クン達を僕の家に泊めてもいいかな?Guest用の部屋を貸してあげよう」
「え?はあ、坊ちゃまがそう仰るなら構いませんが・・・」
 ヒデじいは別なる心配を抱えていた。
「いいんですか!?ありがとうございます・・・。お兄ちゃん、あんたいい友達持ったねえ・・・」
 永沢の母は泣きながら花輪に礼を言った。
「おい、母さん・・・」

 藤木達は大会の開催地である、御殿場市内のスケート場を訪れていた。
「ここか・・・」
 リンクに入ると既に幾人か練習を始めていた。藤木はおそらく彼らもこの大会の出場者の一人に違いないと考え、和島だけでなく、彼らに打ち勝たなければという熱意と緊張で溢れた。
「じゃあ、父さん、母さん、練習してくるよ」
 藤木は両親にそう告げると、練習を始めた。

 とある空き家。この家の居住者は亡くなっており、誰も手を付けず、家の中は埃が少し溜まっていた。そこに一人の男がその幾人の暴力団の人間と共に隠れ家(アジト)として使用していた。その男の名は各務田出吉。彼は自分の父を堕落させた人間達を抹殺する事を画策していた。電話が鳴り、各務田は応答した。
「何だ」
『永沢を逃がしました』
「は?ふざけんじゃねえ!このクズが!」
『ただ、途中で黒い高級車に乗せられました』
「ナンバーは確認したのか!?」
『は、はい・・・』
「じゃあ、その車を探せ!見つけたら何がなんでも止めろ!」
『はい!』
 部下は電話を切った。
(車に乗せられたという事はおそらく奴の知り合いか誰かの車か・・・。高級車って事はまさかあの金持ちの家の車か?)
 各務田も清水一の富豪であった花輪家の事はよく知っていた。何しろあの家の使用人も幾人かは徴兵されていた為である。そして当時花輪家の使用人の娘が父と別れて寂しいと泣いていた所を非国民として制裁のために殴り、蹴りつけた事があった。
(花輪家か、そういや奴の息子も今いるガキとダチだったっけな・・・。よし、押しかけてやるか!)
 各務田は動いた。
(永沢よお、あの時は火事で焼き殺そうと思ったけど、やっぱり直に殺した方が効率が良かったか・・・)
 各務田は家に待機している部下と共に外へ出た。 
 

 
後書き
次回:「決戦前」
 藤木は大会出場の前祝で両親と共に旅館の食事を楽しむ。一方、花輪家に向かおうとしている事を各務田に突き止められた永沢家は花輪、ヒデじいと再び逃げる事に・・・。

 一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!! 
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