魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~
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StrikerS編
114話:決着のとき
前書き
みなさん、お久しぶりです。1年とちょっとぶりですね。
遅くなってしまい、申し訳ありません。リアルの方で大変時間が取れなかったこともそうですが、本当は書く意欲とかがとんと出てこなくて、かなり長い間放置することになりました。ちょくちょくというか、少しずつ書いてはいたのですが、すぐにやめちゃったりしていて、長続きしなかったんですよね。
しかし仮面ライダーはゴーストからエグゼイド、さらにはビルドへと時代が進んでいき、なのはも劇場版が放映(筆者は未視聴)と、色々な作品を見ていって、ようやくこう…書きたいなぁ、と思うようになりまして。
とりあえず数回分を読み直し、書き途中のものも読み直して、書き直して。ようやく公開できるところまで書きました。まぁ構想では最後にもうちょっと書こうかと思ってたんですが、締まらなかったのでカットしました。見苦しくなければ、最後までお楽しみください。
「ガアあアぁあアぁあァァぁあアアァァぁぁぁッ!!」
響き渡る獣のような咆哮、それは破壊したいという衝動から発せられるものか、それともただ単なる本能からくるものか。
しかしそれを間近で聞いている士には、悲痛な叫びにしか感じられなかった。
「くッ…スカリエッティの奴…!」
既に捕まっているらしいが、そんな状態でも邪魔をしてくるとは。とんだはた迷惑な野郎だ。
そんな悪態を心の中でつくが、それで今の状況が覆る訳でもなく。吹き荒れる衝撃に身構えながら、ディエンドへの警戒を怠らずにいた。
―――しかし…ッ
「な…ッ!?」
次の瞬間にはその衝撃が一瞬なくなり、ディエンドがすぐ近くまでやってきていた。
すぐさま剣で迎撃を始める士、ディエンドが繰り出してくる攻撃は―――先程より格段に鋭く尖った両手の爪。
逆手に持った剣で受け流し、また腕や手でも弾き防ごうとする。―――が、一瞬の一撃がディケイドの仮面を掠め、火花を散らす。
咄嗟にバックステップで距離を取る。巨大に、そして禍々しく変化したディエンドの姿を見て、掠めた頬の部分に触れながら冷や汗を流す。
「このッ!」
慣れ親しんだ動きで素早く剣を銃へと変形、照準をディエンドに向ける。左手を添えながら引き金を引き、マゼンタの弾丸が複数飛び出す。
まっすぐに進んだ弾丸は、見事にディエンドの体に見事全弾命中。一瞬ばかり笑みを浮かべるが、それもすぐに消えた。
確かに弾丸は命中した。しかしそれは彼の体に小さな煙を作るに止まったのだ。
「装甲まで化け物かよ、くそ…ッ!」
簡単にはいきそうにない、そう思わせるその光景に再び悪態をつく。
ディエンドは両手を広げ叫びながら、ディケイドに迫り始めた。対し再び弾丸を発射するが、火花が上がるだけでその動きは止まることはない。
振るわれる鋭利な爪、それを掻い潜るように避けると、振り返ってきたディエンドの腹部に足を突き出す。
少しよろけたところで距離を詰め、反撃の一撃を受け止め裏拳を放つ。見事に顔面へと命中したが、身じろぐどころか気にも留めない様子だった。
その様子に驚いた隙を見逃す筈もなく、ディエンドは強化された剛力で無理矢理ディケイドの体勢を崩し、蹴りを繰り出す。
「ガッ…!?」と腹にあった空気が吐き出され、ディケイドの体が大きく吹き飛ばされる。何度か地面を跳ね、廃ビルの壁に衝突した。
「ガハッ…! …こ、のぉ…こちとら、病み上がりなんだから、少しは手加減して欲しいんだが…」
「ガあぁアアッ!」
「してくれる訳ないよなッ!」
突き出してきた爪を、咄嗟に腕で受け流して避ける。火花を散らす鋭利な爪と腕の装甲、更なる追撃を飛び込むように避け体勢を立て直す。
そしてほぼ同時に構えられる二丁の拳銃、火を噴く弾丸は互いを穿ち火花を散らす。だが威力に差があり過ぎたか、吹き飛ばされたのはディケイドのみだった。
「ぐはッ…!ガ…ハッ…」
「グゥぁぁ…」
地面を転がるディケイド、見上げるように見返すがディエンドは気にも留めない様子で佇んでいた。
全身に力を籠め、なんとか立ち上がる。足元は少し覚束ないが、それでもまっすぐディエンドを見据え、拳を握る。
「―――ハッ!」
「ガァあッ!」
元より銃を使った遠距離戦では分が悪かった、それはディエンドの姿が変わったところで変わることはない。
ならば接近戦、そう思って仕掛ける。―――が。
「ぐッ、この!」
「ウガァ!」
「うぉ…ッ!?」
分厚くそして強固となった装甲が、ディエンドへのダメージを防ぐ。それは同時にディケイドの拳に少しずつ痛みを返し、ディケイドの次の行動へと移る意識を削いでいく。
接近戦における攻防でも、強化されまさしく凶暴となったディエンドの体が、ディケイドを徐々に追い詰めていく。次第に体に当たり始める拳や爪で、ダメージが蓄積されていく。
遠距離でも近距離でも敵わない、その事実を突きつけるような戦いに、しかしディケイドは臆することなく拳を突き出す。
「ガァアッ!」
「らぁッ!」
遠距離を基本とするミッドの魔導士にとっても、スバル達のような近代ベルカの魔導士にとっても、二人の攻防は身の毛のよだつ光景だった。
一瞬でも気を抜けば……そんな想像が身を怯ませかねない状況でありながら、ディケイドは怯まずに戦い続けている。よっぽどの強心臓なのか、それとも恐怖を感じないバカなのか……
次の瞬間、互いの拳がぶつかり合いはじけ飛ぶ。とはいえパワーの違いからか、大きく吹き飛んだのはディケイドの方だったが。
ディエンドは数歩下がる程度、対し後転するかのように転がるディケイドはすぐに立ち上がり距離を取る。
「―――……なぁ、そんなもんじゃないだろッ」
「?……ガァアアッ!」
肩で息をしながら言う士の言葉を理解してないのか、一瞬首を捻るディエンド。しかしディケイドが一歩ずつ近づいてきていることに気付いたのか、すぐさま反撃に爪を突き出す。
それを掻い潜り反撃、ボクサーさながらのリバーブローを繰り出すが……
「―――グッ…!?」
「……ァあ?」
鈍い音だけが響き、ディケイドは仮面の下で苦悶する。対してディエンドも衝撃が少なかったのか、首を傾げるだけで微動だにしなかった。
そしてそのまま手首を掴み、ディケイドを投げ飛ばした。思い切り背中から落ちた所為か、少し息が詰まりそうになる。
「ゲホッ…そんなもんじゃないだろ、エクストラ!」
すぐに立ち上がるディケイドが吠える、迫ってきたディエンドに対し巴投げの要領で投げ飛ばす。
「テメェが悔しいって思ってたもんは、燻っていた思いは! あんな根暗野郎の欲望なんかに、自分の破壊衝動に飲み込まれちまうもんだったのか!? ―――違うだろうがッ!」
「ウガァアッ!」
「決断したんだろ、変わろうって! 未来を変えようって、そう決めたんだろ! だったら抗え、もがけ!」
投げ飛ばされたがすぐに立ち上がり、拳を構えるディエンド。ディケイドは起き上がりながら振り返り、正面に彼を見据える。
振り下ろされる拳を受け流し、再び腹部へ攻撃。その後ドロップキックで大きくディエンドの上体を動かし、同時に距離を取る。
「諦めるな! 俺はまだ…ここにいるぞ!」
拳を握り、駆けだす。ディエンドもすぐさま拳を握り、振りかぶる。
「ガアアァァァ!」
「おぉああぁぁぁぁッ!」
互いに振り抜いた拳は互いの胸部へ命中、大きな火花を上げてディケイドが吹き飛んだ。
「手を、伸ばせ! お前のその手を掴むまで、俺は諦めねぇぞ!」
だから、そう続けながら必死に立ち上がろうとするディケイドだったが、近くまでやってきたディエンドによって胸倉を掴まれる。
そこからゆっくりと持ち上げられる。先程の攻撃でも少しも怯んでいない様子のディエンドは、持ち上げたディケイドの脇腹を強く蹴り上げる。
「がふ…ッ!!」
あまりの衝撃にディケイドの体が一瞬宙に浮く、呼吸すらままならない。
蹴られた脇腹を抑えたたらを踏むディケイドに、ディエンドは容赦なく掴みかかる。
首元を掴み上げるディエンド。更に呼吸がし辛い状況で、しかし士はディエンドの手首を掴みながら声を荒げる。
「負けるな…エク、ストラ…ッ!」
ディエンドが少し唸るような声を上げるが、すぐに平常を取り戻したかのように、ディケイドの腹を再び蹴り上げる。
カハッ、と体内の空気が吐き出され、息が詰まる。体が折れ曲がったところで、ディエンドは振り上げた左足を戻し―――勢いよくディケイドの頭部と自身の膝をぶつけ合った。
「が…ッ!?」
「士くん!」
その強烈な一撃にディケイドの仮面が一部割れ落ち、士の素顔が露わになった。
思わず声を荒げるなのは、見ていた他の面々も呼びかけるが、頭部への衝撃の所為でたたらを踏む彼には聞こえていない様子。
そこをディエンドが見逃す筈もなく、すぐさまディケイドの懐に入り胸倉を掴む。
未だ意識が定かではないディケイドを大きく持ち上げ、背中を下に勢いよく地面へと叩きつけた。
「カ…ハ…ッ!?」
とてつもない衝撃で地面が陥没し、後頭部をぶつけた衝撃でディケイドの仮面が完全に割れて消失した。
完全に大の字になって倒れた士、身に纏う鎧も既にボロボロ。ピクリともしない様子に周りの面々は絶望を、ディエンドは勝利の確信を感じていた。
ゆっくりと手を放し、次なる標的を目指そうとして……
「まだ…だぁ…ッ!」
「―――!?」
突然放した手が掴まれた、先程倒した筈のディケイドに。
「まだ、そこにいるんだろ…まだ、消えてねぇだろ!」
素顔が露わになったまま、必死に呼びかける士。声が荒々しくなるにつれて、ディエンドの手首を掴む力が強くなる。
「救われたいと思ったお前には、まだある筈だ……救われる未来を望む、希望の光が…ッ!」
それはもはや瀕死に近い人間の力、今のディエンドにしてみれば容易く振りほどける筈のもの。
「まだ、その光が消えていないなら…微かでも、見えているのなら…ッ!」
だが、いくらやっても振りほどけない。目の前の人間はもう、ボロボロの状態の筈なのに……
「手を伸ばせ…希望に、未来に! 手を、伸ばし続けろッ!」
何故振りほどけない、何故こんな瀕死の男の目から強い意思を感じる…ッ?
「必ず、その手を取ってみせる……―――だから!」
この体の内側から溢れ出るようなものは、一体何なんだッ!!
「諦めるな―――エクストラぁぁぁッ!」
「―――アアアぁアアァァぁアアァあぁぁあァァァァッ!?」
士の言葉によってか、ディエンドはもう片方の手で頭を抑え始めた。
断末魔のような叫びが戦場に響き渡り、見ていた誰もが思わず耳を塞いでしまうようなその声の中、士は「今だッ」と確信した。
咄嗟にディエンドの手を放し、腹部へと蹴りを食らわせる。ディエンドが頭を抱えながら後退する中、士は必死に立ち上がり距離を取る。
「こいつで決める…ッ!」
〈 FINAL ATTACK RIDE・de de de DECADE ! 〉
ライドブッカーからカードを取り出し、バックルへと滑り込ませる。
音声と共に銃へと組み換え、銃口をディエンドへと向ける。バックルの赤い宝石から飛び出た16枚のホログラム状のカードは、士とディエンドの間に並び立つ。
しかし、さしものディエンドもただ頭を抱えているだけではなかった。
「ガァあアぁあぁアアァァぁ…ッ!」
〈 FINAL ATTACK RIDE・de de de D-END ! 〉
ディエンドも士と同じく、カードを取り出し、自らの銃へと装填。前にスライドさせ発動する。
無数にも広がるホログラム状のカード。銃口を中心に円状に並び、何層にも重なる。時を刻むように回転しながら、放たれる瞬間を待ちわびていた。
―――そしてッ!
「届けえええぇぇぇぇぇッ!」
〈 Dimention blast !! 〉
「ガあぁアアァあぁアァァッ!」
〈 Dimention shoot !! 〉
ほぼ同時に放たれた砲撃、一つは目の前のカードを穿ちつつ大きくなり、もう一つは周りのカードを巻き込みながら突き進んでいく。
二つの砲撃は何事もなく正面から衝突し合い、その衝撃は周囲のビルに影響を及ぼした。元より廃ビルだったそれらに大きなヒビを与え、残っていたガラス窓も残らず粉砕する程の破壊力。見ている者達は思わず顔を腕で覆う様に守った。
しかし衝突したはいいが、そこで終わる訳ではなかった。
衝突した二つの砲撃は、初めこそ拮抗していたが、徐々にディエンドが放った砲撃の方が押し始めたのだ。
「ぐッ…ぎぎ、ぎ…ッ!」
その勢いに気圧されるかのように、士の足が一歩下がった。ディエンドの砲撃が、段々と迫ってきている。このままでは……負けてしまう。
―――だが、士の目はまだ……
「あき、らめ…るかぁぁッ!」
敗北に絶望する者の目ではなかった。
「届かせる…絶対にッ!!」
後ずさりしかけた足を、再び前へ踏み出す。
それと同時に彼の瞳の色が、黒から変色し始める。
「絶対に…ッ―――諦めるもんかァァァァァァァァッ!!」
その掛け声と共に、銃口から放たれる砲撃が、より一層強く、太く、激しく。ディエンドへと向けて駆け抜ける。
威力を増した士の砲撃は、ディエンドのそれを押し返し始め……
―――ついに!
「いっ…けぇええぇぇえぇぇぇぇッ!!」
「ガァあアぁあぁアアぁァぁアアァぁあァぁァァァぁぁァぁァッッ!!」
ディエンドの砲撃を飲み込み、そしてディエンドさえも飲み込んだ!
そして砲撃がディエンドを貫き通した瞬間、大きな爆発がディエンドの姿を包み込んだ。
「やった、か…?」
爆炎と煙を見据えながら、片膝をつき、荒い呼吸でそういう士。ここまでの戦闘で受けたダメージは甚大、先日の機動六課襲撃の際の傷もまだ癒えていない状態。満身創痍であることは至極当然のこと。
変身はすでに解けており、六課の制服はボロボロ。無意識のうちに手で胸を抑えながら、大きな煙の向こうへ視線を向け続ける。
ここまでの激闘、最後の爆発。これで終わった筈だと、誰もが思っていた。
―――だが…
「なん…ッ!?」
煙の中から現れた影、それは確かに両足で立っているではないか。あんなでたらめな攻撃でも、倒せなかったのか?
「―――いや、何か可笑しいぞ…?」
最初に気づいたのは、ゲンヤだった。確かに見える影、だがそれに一切の動きが見られないのだ。
そのことに士も、周りの者達も気づき始める。そして煙が晴れたそこには、確かにディエンドが立っていたが……
立ち尽くすように、顔を俯かせて、腕をだらりと下げて。ただそこにいるだけのような姿で、彼は立っていた。
「エク、ストラ…?」
静かに呼びかける士、しかし何も反応を示さない。もしや何かあったのか? それを確かめるべく立ち上がろうとする。
―――その、瞬間だった。ディエンドの胸部から、再び〝レリックの光〟がこぼれ始めたのは。
「ガ、ガぁア…ッ!」
誰もがその光景に驚いたが、それと同時にディエンドが呻き声を上げた。
下がっていた両手が持ち上がり、自身の胸部へ。
「ガァ…アァあ…ァあッ!?」
だが彼は何回も呻き声を上げ、両手で胸部をかきむしる様に、自らに爪を立ててひっかき始めた。
それはなんだか苦しそうで、その光にもがいているようにも見えた。
しかしその行動は段々と強く、苛立っているように激しくなっていき、しまいにはまたも大きな雄叫びを上げ、怒りを露わにし始める。
「ガァァァッ!」
雄叫びを上げ、ディエンドは腰の横にあるケースからいくつものカードを取り出す。
そしてそれを宙に放り投げたと思ったら、それを撃ち抜いたではないか。
見ている全員が驚く中、放られたカードは嫌な光を放ちながら空中に止まった。
ディエンドが同じ行動をもう一度行った後、再び雄叫びを上げると、宙のカード達は眩い光を放ち始めた。
そしてその光が晴れた時には……
「―――なんだ、あれ…!?」
見ていた誰かが零した言葉。それもその筈、ディエンドの周りには今、多くの異形な者達が立ち並んでいたのだから。
グロンギにアンノウン、オルフェノクやファンガイア。ドーパント、ヤミー、ゾディアーツ、ファントム。
更にはモールイマジンやクズヤミー、グールの群れ。巨大な魔化魍までも。
多くの英雄達を苦しめてきた怪人達が、目の前の人間達を襲う時を今か今かと待ち構えていた。
「こんなの…」
「どうしろっていうんだ…!?」
突如目の前に現れた見たこともない光景に、見ていた者全員がたじろぐ。あまりにも悍ましく、これ程恐怖を感じる光景があるだろうか。
だが、全員がただ黙ってたじろいでいる訳ではなかった。
「―――大丈夫、心配あらへん」
「うん、だって……」
信じている人がいるから、自分達にとって最高の英雄がいるのだから。
「―――まだだ…まだそこにいるんだろ、負けてんじゃねぇ! てめぇが伸ばした手を、こちとらまだ掴んじゃいねぇんだ!」
そう叫びながら地面に手をつけ、体全体に力を込める士。完全に砕かれた仮面、晒された顔には血が流れ落ちていた。
《だが今は奴自身、不安定な状態だ、救える確立はそう高くない。―――それでも本当に救えると…?》
「あいつがそこで必死に助けを求めているっていうのに、その手を掴まないまま諦めてたまるかよ!」
叫びながら、争いながら。変身が解けてしまったボロボロな体で、立ち上がり叫ぶ。
「絶対に、助けるッ! そう誓ったんだ!」
《馬鹿かお前は、本気で救えると? それに救ったとして、その後どうする? 奴は敵だった男だぞ?》
「っるせぇ、だからってあいつを放っておけるか! 後のことは後で考える! 今は黙って手ぇ貸せ!」
《乱暴な奴だな…いいだろう、付き合ってやる》
「一々上から目線でむかつくな!」
乱暴な言葉を吐き捨てながら、士はライドブッカーからカードを取り出し、バックルへと装填する。
〈 FORM RIDE 〉
「変身ッ!」
〈 W FANG JOKER 〉
音声と同時に吹き荒れる風、白と黒の旋風がその身にまとわりつく。まるで砕けたガラス片が逆再生するかのように、下から上へと姿が変わっていく。
砕けた仮面は新たなものへと変わり、大きな赤い双眸が輝く。体の各所にある意匠は自身の名の通り、牙のように鋭く尖ったものへと変化する。
「おおおおおぉぉぉぉぉッ!」
野獣のような雄叫びをあげる二色の戦士―――〝仮面ライダーW・ファングジョーカー〟。
大きなその叫び声に、周りの空気が、大気がビリビリと揺れる。
そしてその声に触発されたか、ディエンドの周りにいる怪人達もまた、それぞれ声を上げ存在を主張する。
その様子に、そして揺れる大気を感じ、見ている者達は慄いた。
人が多く集まるスポーツのスタジアムなどでも、大気が揺れるなどということは滅多に起こらない。それが今現実に起きているのだ。
そして一旦雄叫びをやめたWが、怪人の群れへと、再び雄叫びを上げながら走り出した。
同時に怪人達も走り出し、Wと怪人達の戦いが始まった。
「ラァッ!」
勢いをそのままに飛び上がったWは、向かってくる怪人の一体に飛びつき、その顔を鷲掴みにし地面へと叩きつけた。
そしてそのまま正面から新たに迫る怪人の拳を掴み、爪で引っ掻くように顔面を殴り倒した。
「ガァアッ!」
「ッ!」
今度は先程飛び越えてきた怪人が後ろから迫ってきた。しかしそれを確認せずに、後ろ回し蹴りで地面に叩きつけ、次の標的へと視線を向ける。
迫る拳を躱し腹部へ一撃、顔面へ裏拳、勢いがついたところへ左足の回し蹴りと、素早い連続攻撃で退かせる。
怪人を倒し、次へと意識を向ける一瞬の間。
一瞬だが何かに反射した光が、視界の端に見えた。
「―――ッ!」
すぐさま、本能的に体を振り向かせその場を飛び退いた。
先程まで自分がいた場所を切り裂いたのは、怪しく光る白刃。グールの持つ槍が、士へと迫ったのだ。
そしてグールは質より量、一体だけでなく、複数体のグールが士に攻撃しようと迫ってきていた。
〈 ATTACK RIDE・ARM FANG 〉
グールの槍が士へ振り下ろされようとしているとき、その音声が流れた。
右上腕から出現した刃―――〝アームファング〟。それを使って槍を受け止め、跳ね除けた後一緒に迫っていた数体のグールを巻き込みながら切り裂いた。
更に別方向から迫っていた蟹を模した怪人―――クラブファンガイアの鋏を受け止め肘鉄。少し仰け反ったところへ回転しながらアームファングて切り裂いた。
クラブファンガイアは火花を散らしながら倒れるが、その後ろから新たな怪人がWに迫っていた。
しかしその怪人の攻撃をしゃがんで避け、そのまま更に足払い。前のめりに倒れたその背中に、強烈な踵落としがめり込む。
一瞬踏みつけられた怪人の呻き声が聞こえたが、それもすぐにWの雄叫びに掻き消され、見ていた者達の耳には届かなかった。
「―――す、凄い…」
誰が零したその言葉に、どれ程の人間が同意したことか。
魔法戦とはかけ離れた命のやり取り。襲いかかってくる、明らかに普通でない生物と、それらに臆することなく挑み続けている一人の戦士の姿。
そんな光景に、誰もが魅入られていた。
いや、その場の全員がそうかと言えば、そうではなかった。
「グッ、ぅああッ!」
「―――ッ!」
立ち上がったのは、先程巨大な怪物との戦いを繰り広げていた二人―――アスカとガイラであった。
未だ武装状態を解いていなかった二人は、身体中を駆け巡る痛みに耐えながら立ち上がったのだ。
それを近くで見ていたゲンヤは、ギョッと目を見開いた。
「お、おい二人共! そんな怪我で何を…!」
「何をって、決まってるだろ…戦うんだよ」
「戦うって…そんな身体でか!? 無茶をするな! 今は彼奴が戦ってくれている、だから―――」
「休んでていいってか? 冗談はよしてくれ」
ゲンヤの言葉を遮り、更には鼻で笑ってみせたのは肩を抑えるアスカだった。
「あそこに怪人がいる、それだけて特策隊の戦う理由がつく。こんなところでへばっている暇はないんだ」
「しかし…!」
「それに、俺達には目指す目標がある。こんなところでただ見ている訳にもいかないんです」
止めようとするゲンヤだったが、アスカの言葉に続くようにガイラも反論を述べた。
しかしそれでも止めるべきだ、その怪我で戦える訳がない。そう言い返そうとするも、それよりも早く二人は戦場に向かって走り出してしまった。
『―――大丈夫ですよ、ナカジマ三佐』
「ッ、八神…」
二人の背中を追いつつも呆然とするゲンヤ、そんな彼に通信を繋いだのは、上空でヘリに乗るはやてだった。
『あの子らは多分強い、何せ士くんの教え子ですから。それに言っても無駄でしょう、男の子があぁなったら止まらないのは、わかってますから』
「だ、だがあの傷だとどこまでやれるか…」
『心配ありません、なにせ…』
『―――私も、出ますから』
〈 ATACK RIDE・SHOULDER FANG 〉
再び戦場へと目を向けると、Wは新たなカードを切っていた。
腕の刃が消える代わりと言わんばかり、右肩に生える牙。それを抜き取ると一瞬溜めてから、怪人の群れへと投げつけた。
回転する白い牙―――〝ショルダーファング〟は向かってくる怪人達を、まるで生きているかのような軌道を描きながら切り裂いていく。
その間に襲いかかってきた怪人を足技で退け、変えかってきたショルダーファングを受け止めるとそれをナイフのように扱って切りつけ、再び投げつける。
字面にすれば中距離の攻撃でうまく戦っているように見えなくもないが、Wからすれば苦戦を強いられている状況だった。
確かにうまく戦えているものの、実際数を減らせているのはクズヤミーやグールといった、群れをなしている怪人達だけ。
個々の能力の高い怪人は、ダメージは与えられているもののその殆どが倒すまでには至っていなかった。
更に言えば数を減らせている群れる怪人達も、ディエンドが雄叫びを上げながら定期的にカードを使って生産し続けている。
相対的には減ってきているのかもしれないが、Wからしてみれば周りの状況が目に見える程変わっておらず、不満を募らせるばかりであった。
(せめてディエンドの場所まで行ければ…!)
ディエンドと交戦すれば少なからず怪人の増加を抑えられるのではないか。そう考えるのだが……
そこへ突如として、巨大な鋏がWに襲いかかった。
「おわぁッ!?」
咄嗟に横へと飛び、なんとか回避に成功する。
慌てて見上げるとそこには建物二、三階分の高さはあろうという巨大な蟹、でありながらその背中に羽を持つ魔化魍―――アミキリがいた。
息つく間もなく鋏を振るい、襲いかかるアミキリ。Wは再び躱すが、周りにいた怪人達さえ巻き込んでいくその光景に息を飲んだ。
「見境なしかッ!」
他の怪人を巻き込んだのは嬉しい誤算だったが、流石にこんな巨大なやつを相手にしていられない。
そう判断したWはショルダーファングを投げやり、アミキリの足を数本切断する。
嫌な悲鳴を上げ、アミキリは口から泡を吹いた。
よし、これなら。と再びショルダーファングを構えたが、そこへ別の怪人―――カマキリヤミーが襲いかかり追撃が阻止されてしまう。
それを蹴りで退けるも、視線戻すとそこにはアミキリの姿はなく、大きな羽音が上の方から聞こえていた。
見上げるとやはりアミキリの姿が、しかもこちらに向かってきているではないか。
「突っ込んでくる気か!?」
今から避けてもあの巨体だ、巻き込まれかねない。迎撃も間に合うかどうか。
急ぎ腰のライドブッカーに手を伸ばす。アミキリの巨体はすぐ目の前まで迫り……
「だぁらぁぁぁぁぁッ!」
「はああぁぁぁッ!」
荒れ狂う炎と光を纏った蹴りが、アミキリと衝突した。
再びアミキリの叫び声が響き、Wよりも大分手前の場所に落下した。
落下の余波でできた風や砂埃に、Wは思わず顔を隠す。その間にアミキリを蹴り落とした張本人―――アスカとガイラがWの側に着地した。
「お前ら、怪我は!?」
「あんたに比べれば、どうということはない」
「それより行ってください、ここは俺達に任せて」
ため息混じりのガイラと、拳を構えながら言うアスカ。
だが先程ゲンヤも心配していた通り、二人の怪我は軽いものではない。士としても安心して任せられる状況ではないのだが……
「大丈夫ですって。―――それに、俺達は二人だけじゃないんで」
「え…?」
「『―――クラウ・ソラス!』」
アスカが言い終えるや否や、三人を取り囲んでいた怪人達に、白い閃光が降り注がれた。
閃光は怪人達の足元に降り注がれ、衝撃波へと変わる。巻き込まれた複数の怪人達が、大きく吹き飛ばされていった。
それは士も何度か見たことのある、直射型の砲撃魔法。後ろを見上げると、そこにはやはり見知った顔が杖を握っていた。
「はやて! お前…ッ!」
「ふふん、どうや? うちかて、まだ余力あるんやで?」
リィンフォースIIとユニゾンしている影響で変わった白い髪を揺らし、はやては笑みを浮かべる。
なのはがヴィヴィオと相対していたり、フェイトがスカリエッティを逮捕していた間、はやてはゆりかご外部の指揮とガジェットの殲滅に尽力していた。
最後にはヴィータやなのはを救援すべく内部へと向かったが、彼女は元より他とは比べ物にならない程の魔力を内包している。先の戦いで、その全てを出し切っていた訳ではなかったのだ。
「出てくるな、なんて言わせへんよ? 副部隊長が頑張っとるんや、ここで部隊長として見せ場の1つぐらい、作らなあかんやろ!」
そう言うと、はやては杖を横へ薙ぎ払った。すると彼女の周囲に魔力刃を展開、その全てがほぼ同時に怪人達へとその切っ先を向けた。
「『バルムンク!』」
一斉に飛びかかって来た魔力刃は、アスカやガイラの戦いをフォローするかのように、的確に怪人達へと襲いかかっていた。
「行って士くん! あそこにいるライダーは、士くんしか相手にできひんのやろ!?」
「そうだが…この戦力差じゃ…!」
「―――撃てぇぇぇッ!」
ドヤ顔のはやて、それに反論しようとする士だったが、その瞬間無数の魔力弾が飛び交う。
それらは怪人達を傷つけられはしなかったが、その衝撃と煙によって動きを制限していた。
「弾幕を張り続けろ! 間違っても前線の奴らに当てるなよ!」
腕を振るい、檄を飛ばすゲンヤ。その号令に合わせるかのように、後ろに控えていた魔導師達が杖を構え、魔力弾を撃ち放っていく。
「門寺、さっさと行け! あれを止められるのは、お前しかいないんだろ!?」
「ゲンヤさん…!」
「ここは俺達と嬢ちゃんと…お前の部下に任せろ!」
「そういうことだ」
「道は作るんで、後は頼みます!」
そういうとガイラは銃を取り出し、ベルトに装填されていたUSBのような機械をその銃へと滑り込ませる。
その隣に並ぶアスカは、目の前で円を描くように手を動かし、魔法陣を展開。轟々と燃え盛る赤い魔力スフィアを形成し、拳を構えた。
〈 Extreme, Maximum Drive ! 〉
「―――〝エクストリームバースト〟…ッ!」
「焔崩しッ!」
煌々と光る白と、轟々と燃える赤の砲撃が、怪人達の群れを突き破る。
砲撃が終わったところには、怪人達の姿はなく、ディエンドまでの一直線な道が出来上がっていた。
「―――ありがとうな、皆!」
そう言うと士は駆け出す。もちろんその行き先は、叫び声を上げているディエンドだ。
強化された脚力で勢いよく飛び出したWだったが、その前をディエンドの叫び声に応えるかのように、また別の怪人達が立ち塞がろうとしていた。
すぐさまはやてが砲撃を準備しようとしたが、それよりも早くWが動いた。
「退けッ―――そこは彼奴らが作った道だ!」
ライドブッカーからカードを取り出す。縁が金色で、中央には同じく金色のWの紋章が描かれたもの。
〈 FINAL ATACK RIDE 〉
「通させてもらうぞ!」
〈 da da da W !! 〉
カードを装填し発動、するとWの右足に新しい牙が生える。
それと同時にWは空高く飛び上がり、右足を振るう。青白い光を纏いながら回転し、怪人達の群れへと向かっていく。
「おおおおぉぉぉぉぉッ!」
〈 Fang Strizer 〉
「ファング―――ストライザァァァッ!!」
青白い光はまるで牙を持った恐竜のような形となり、怪人達を文字通り噛み砕いた。
その衝撃に耐えられなかった怪人達は爆散し、Wはその数メートル先に滑りながら着地した。
「ようやく辿り着いたぞ…エクストラッ!」
「………」
立ち上がり、叫ぶW。対してディエンドは落ち着いてきたのか、肩を上下させながらしっかりとWを見据えていた。
「こっからは一対一だ、他の奴らに邪魔はさせねぇ…―――全力で、お前を救い出す!」
そういうとWの変身を解き、新たなカードを手に取る。バックルを開き、そのカードを滑り込ませる。
〈 DEN-O WING 〉
音声と共に再び体が変化し、姿形が変わっていく。
それは以前も一度成ったことのあるプラットフォーム、しかし以前とは違い黒ではなく白と金色を基本としたもの。
空中から現れたオーラアーマーはまさに純白、その汚れなき鎧が装着されると一瞬背中に大きな翼が広がる。
仮面のレールを走り現れた白鳥のような電仮面は、首を折りたたむように変形し、水色の翼は複眼へと変わる。
白鳥の鳴き声のような音が鳴る中、周りには白い羽毛が舞う。
スラリとまっすぐに立ち、片手で天を指差す姿は……まさに高貴の一言。
〝電王・ウイングフォーム〟。それが今ここに降り立った者の名前だ。
「降臨、満を持してッ!」
天に掲げた指先は、次に目の前の相手を指し示す。それが開戦の合図でもあった。
ガァァッ、と何度目かの雄叫びを上げて、ディエンドは走り出す。目指す先は勿論、敵と見定めた電王。
〈 ATACK RIDE・DENGASHER 〉
ディエンドが迫ってくる間に電王は別のカードを使い、4つのパーツを手に取る。
そのうち2つを上へと放り投げ、残った2つを連結―――ハンドアックスモードを作る。
目の前までやってきたディエンド、振るわれた腕を両手で辛うじて防ぐと、ハンドアックスで斬りつける。
そして返す刀で二撃目、少し距離ができたところで二度回し蹴りを繰り出す。
強力かつ素早い攻撃に、ディエンドは遂に一、二歩後退。その隙に落ちてきた残りの二つのパーツをキャッチし連結―――ブーメランモードを作り上げる。
「うらぁあッ!」
そこからはウイングフォームの持ち味である、電王のフォーム中1、2を誇るスピードを生かした、怒涛の連続攻撃が始まった。
残像を映しつつ、ディエンドの体を切り裂いていく。反撃として繰り出される攻撃さえも避け、避けきれない攻撃はその勢いを利用してのカウンターを繰り出す。
「―――…いけ…ッ!」
「いけぇぇぇッ!」
今までにない光景に、その後ろで戦い続ける魔導士達が声を上げる。彼に繋いだ希望が、ようやく実を結び始めたのだ。
次第に湧き上がっていく歓声、ディケイドの―――士の勝利を願った応援。希望を見出したことによる熱が、戦況を大きく傾かせていく。
声援が電王の背中を後押しする、電王が振るう剣技は更に速く、もっと鋭く。
しかし今のディエンドはそれだけではまだ止まらない。電王がハンドアックスを持つ左手を受け止めると、その腹部に銃口を突きつけ引き金を引く。
「ぐがぁッ!?」
流石の電王も火花を散らしながら後退、腹部を抑えていたがすぐに襲ってきたディエンドの攻撃を掻い潜る。
避けたところへすかさず振り下ろされるディエンドの両手を二つのデンガッシャーで受け止める。一瞬拮抗した後受け流し、膝立ちから立ち上がる勢いを利用して、逆に腹部を斬りつける。
〈 FINAL ATACK RIDE・de de de DEN-O 〉
〈 Full charge 〉
お互いに背を向け合い、お互いに痛みに耐えたその一瞬。ほぼ同時に振り向き、互いに仕掛ける。電王は黄金に光るカードを使用、そしてディエンドは両手に不気味な光を纏わせる。
勝負は一瞬。互いに振り向きざまの勢いを利用して、攻撃を繰り出す。しかし行動の手順の多さからか、電王が一瞬だけが出遅れる。
不気味な光を纏いながら電王に迫りくるディエンドの右手、咄嗟の判断で潜りながらギリギリで避ける。
それでもまだ終わらない、今度はディエンドの左手が迫る。だが電王は自らのスピードを生かし、右足を振り上げる。
衝突するディエンドの左手と電王の右足、反発し合う力によってほぼ同時に弾き飛ばされる。
「―――これ、なら…ッ!」
その時だ、電王が持つハンドアックスとブーメランに、魔力から変換したフリーエネルギーが充填されたのは。
弾かれた勢いを利用、その場で一回転した後二振りの武器を振り抜いた。斬りつける場所は―――ディエンドの胸部。
「どうだぁぁぁぁぁッ!!」
フルチャージを終えた二つの武器での連続攻撃。先程と同じ―――否、それ以上の速度と威力を持って放たれるそれは、ディエンドの胸部の装甲へと向かい、火花を散らしながら切り裂いていく。
一撃一撃に籠められた威力と、ディエンドの反撃さえも許さない程の連撃。白い残像を残しながら放つその姿は、まるで舞っているかのようにも見えてくる。
「おおぉぉぉッ、らぁああああッ!!」
そして最後の一撃、二振りの武器による振り下ろし。胸部を切り裂いたその一撃に、遂にディエンドは地面を滑るように吹き飛ばした。
広がった二人の距離、電王は声を荒げて地面に膝をついた。無理もない、激戦が続き、疲労がピークに達しているのだ。
その様子を見て笑みを浮かべるディエンド。先程の攻撃さえ聞いていなかったのか、少しずつ電王へと近づいて来る。
―――だが、
「ぐ、がぁぁ…ッ!?」
その途中、急に苦しみ出し、よろめきながら後退。両手で胸部を抑え、その奥から今までで一番強い光が漏れ始める。
胸元が次第にひび割れていき、派手な音と共に砕け散り、更によろめく。光はより一層眩しく、この場の全てを照らさんとする。
「見えた…ッ!」
《ここが、勝機ッ!》
執拗にディエンドの胸部を狙っていたのは、この為だった。
ディエンドが暴走を始めたのは、彼自身の意思からではない。ジェイル・スカリエッティの保険として埋め込まれたレリックの所為であり、彼の悪意にも似た研究者としての性の所為だ。
だからこそ、その原因を断つ為の布石。全てはディエンドを…エクストラを救う為の一手、それを作り上げる為の布石!
〈 FINAL ATTACK RIDE・de de de DECADE !! 〉
電王からディケイドへ。破壊された仮面は元に戻ってはいたが、士本人は既にボロボロ。しかしだからこそ、ここで決めると決心する。
剣を取り出し、最後のカードを切る。バックルにある赤い宝石から放たれる15枚のホログラム状のカード。ディケイドの周りで旋回した後、切っ先高く掲げられた剣へと突き刺さっていく。
〈 Dimension break !! 〉
「はああぁぁぁぁぁ……ッ」
仮面の額部分にあるポインターが、黄色から紫へ。
それと同時に剣に突き刺さっていた15のカードは、まるで吸い込まれるように剣へと内包されていき、眩しいほどに光り輝く剣が出来上がる。
全ての準備は整った。ディケイドは残った魔力の殆どを込めた剣を構え、ディエンドへと駆けて行く。
「ガあぁアアァァッ!」
「《おおおぉぉぉぉぉッ!!》」
ディエンドの最後の抵抗―――振りかぶられた右手の一撃も放たれ、二人の姿が交錯する。
お互いに背中を向け合った一瞬の後、先に膝をついたのは……ディケイドだった。
「ぐッ……!?」
「……―――ガ…ッ」
明らかな隙、しかしディエンドは振り向くことなく、両手はだらりと落ちる。
胸部からの光はより一層眩しくなっていき―――そして、
「―――ガァあアぁあぁアアぁァぁアアァぁあァぁァァァぁぁァぁァッッ!!」
ディエンドの悲鳴と共に、視界が光で真っ白に染められていき……
―――何かが砕けた音がした。
後書き
今回の話でStrikerS本編は終了。できるかぎり熱い展開を目指したんですが…いかがだったでしょうか?
残りはエピローグとなるんですが…またどれだけかかることやら…(他人事
士「久々に投稿したと思ったらこれだよ」
いやほんとごめんな。どちらかというと、この先のオリジナルストーリーの方が構想を進めてたりしてたりするから、ほんと困るんだよな~…
士「まったく…早く書き上げてくれよ。また1年後とかにならないようにな」
それは約束できない。申し訳ないとは思うが、これが本当。
実はまたリアルの方が忙しくなると思うんですよ。意外と大学生って遊んでばっかりじゃいられないんですね…
しかしできる限り早く書き上げるつもりです。また長く待たせることになるかもしれませんが、どうかよろしくお願いします。
それではまた次回、お会いしましょう! (^^)ノシ
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