レーヴァティン
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第三十七話 極寒の地その十一
「そこまででかいのは稀だろ」
「そうでござるよ」
「そんなでかいとな」
「しかも哺乳類は魚類より遥かに体重があるでござる」
同じ全長でもだ、骨や筋肉の関係でだ。
「それで、でござる」
「狩って岸部まで引きずっていくのは無理か」
「そうだったでござる」
当時の技術ではだ、ボートでそうしたことが出来るにはどうしても人力では無理で機械が必要であろう。
「それで、でござる」
「銛刺して出血多量で死なせてか」
「岸辺に流れ着いたものだけを食べていたでござる」
「そんな無茶苦茶なやり方でないとか」
「無理だったでござるよ」
当時の技術ではというのだ。
「ステラーカイギュウは海岸沿いにいて昆布を食べて生きていたでござるがな」
「それでもか」
「岸辺まで持って行けなかったでござる」
そのあまりもの巨体故にというのだ。
「そしてステラーカイギュウでも食べないとでござる」
「生きられなかったか」
「そうだったでござるよ」
ベーリング海近辺、つまり北極圏ではだ。
「それで狩られてでござる」
「絶滅したんだな」
「そうなったでござる」
「そうか、何かあらゆる意味で嫌な話だな」
「そうなるでござるな」
「当時の人に環境保護とか動物愛護の精神なんてな」
「倫理観としてはなかったでござる」
少なくとも一般的ではなかったのは間違いない。
「倫理観も余裕が作る一面があるでござる」
「衣食住足りて、か」
久志は論語のこの言葉も思い出した。
「そういうことか」
「まさにその通りでござる」
「とんでもない場所に出て生きるか死ぬかで目の前に野菜みたいに獲り放題の生きものがいたらそれこそな」
「しかも環境保護や動物愛護の考えは倫理観として定着していないでござる」
「人間の業の問題か」
「そういうことでござるよ」
進太も寂しい言葉で久志に語った、そうしたことも話しつつ一行は北へ北へと進んでいった。極寒のその地を。
第三十七話 完
2017・10・8
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