レーヴァティン
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第三十七話 極寒の地その八
「吹雪は勘弁して欲しいな」
「ずっとテントに篭りっきりでござるからな」
「俺ああいうのは苦手なんだよ」
一つの場所に長い間いることはというのだ。
「どうしてもな」
「三日は長かったでござるな」
「だからな」
それでというのだ。
「身体の訛るし退屈だったしな」
「そのうえで薄暗い部屋にいるとね」
淳二も苦笑いで言ってきた。
「どうしてもストレス溜まるね」
「風呂もないしな」
「食べて寝るだけで」
「喋られて酒もあるだけずっとましだけれどな」
そうしたことでストレス解消は幾分でも出来るがというのだ。
「三日の間ずっとだよな」
「嫌になるよね」
「実際なったよ」
「けれどこの辺りじゃそうしたこともあるから」
「ああ、けれどな」
それでもとだ、久志は淳二にもこう返した。
「俺としてはな」
「出来る限りっていうんだね」
「もういいさ」
「気が滅入ったね」
「相当にな、けれどまたああしたことが起こるってか」
「思っているべきだよ」
そうしたことが起こる場所にいるからだというのだ。
「それは仕方ないよ」
「だよな、道理でここまでくると殆ど民家がない筈だぜ」
コペンハーゲン周辺よりも遥かに少なくなっている、今も見渡す限り雪原とツンドラばかりだ。白い世界だけがある。
「こんなところだとな」
「それこそね」
「ああ、人が住むには辛い場所だな」
「人だけじゃねえしな」
正も周りを見ている、だが生物すら見えなかった。
「今ここにいるのは俺達だけだぜ」
「獣もいねえな、確かに」
「ああ、森の方にはいるだろうけれどな」
そのツンドラの方を見つつだ、正は言った。
「トナカイなりヘラジカなりがな」
「そうした生きものはいるか」
「あと海の方に行ったらな」
そこに行くと、とも話した。
「アザラシとかセイウチとかオオウミガラスとかな」
「オオウミガラス?」
「こっちの島にはいるらしいぜ」
彼等の世界では絶滅しているがというのだ。
「あとステラーカイギュウとかベーリングシマウもな」
「そういう生きものもいるんだな、こっちには」
「そういうのは調べてなかったか?」
「細かい生態系まではな」
久志は右手を少し横に振って否定の仕草をして正に話した。
「そこまではな」
「そうか、けれどな」
「そうした生きものもここにはいるんだな」
「そうなんだよ」
「どっちも知ってるぜ、俺でもな」
ステラーカイギュウもベーリングシマウもというのだ。
「北極海、アラスカとシベリアの間の方にいたんだよな」
「ああ、あそこにな」
「すげえ珍しい生きものだったな」
「そこにしかいないな」
「それで人間に見付かって絶滅したんだよな」
乱獲によってだ、どちらも瞬く間に絶滅してしまった。ステラーカイギュウの発見されてから二十七年での絶滅は驚異的だったとさえ言われている。
「そうだよな」
「まだいるって噂もあるけれどな」
目撃例は度々伝えられている。
「実際はどうかわからないぜ」
「広くて人口も少ない場所だからな」
北極海である、人が住める場所ではおおよそない。イヌイットにしてもそこまでいくと行く者すら稀である。
「だからな」
「それでだよな」
「そんな噂がまだあるにはあるけれどな」
「公式には絶滅か」
「けれどこの島にはいるんだよ」
「オオウミガラスもか」
「ああ、ただ本当にそうした生きものはいてもな」
それでもというのだ。
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