真田十勇士
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巻ノ百二十 手切れその六
「まさに」
「だからじゃ」
「幕府もですな」
「その様にする、法だけでなく徳も備えてな」
「まさにそれでこそ」
「盤石な天下と出来る」
「それ故に豊臣家も」
自分達がまだ天下人と思い幕府に従わないこの家もというのだ。
「約を違えることなく」
「滅ぼさずですな」
「取り込む」
「そして右大臣殿も」
「わしの孫の婿にもなっておるしな」
このこともあってというのだ。
「無暗なことはせぬものじゃ」
「あくまで律儀を通す」
「そうしていかれますか」
「律儀は幕府がある間守る」
家康だけでなくだ。
「それはわかるな」
「はい、何があろうとも」
「約束を破ってはなりませぬ」
「それをすればです」
「信をなくします」
「信なくば立たずじゃ」
家康は言い切った。
「それもわかるな」
「はい、誰も幕府を信用しなければ」
「それではです」
「もうそれこそです」
「天下は乱れます」
「治められるものではなくなります」
「法もあり徳もある」
信からもたらされるものだ、この場合の徳は。
「その両方を備えてな」
「天下は治まる」
「だから豊臣家に対してもですな」
「滅ぼさぬ」
「そこは徹底しますか」
「あと無駄な血もじゃ」
それもというのだ。
「流してはならぬぞ」
「ですな、そのことも」
「あの鎌倉幕府の様なこともです」
「そして室町の六代殿の様なことも」
「してはなりませぬな」
鎌倉幕府は頼朝が義経達を殺し北条家も多くの御家人を滅ぼしてきた、実に流れた血が多い幕府だった。室町の六代将軍義教はとかく残暴で関東の公方の家を幼い子達まで滅ぼし側近の者達にもすぐに刀を出した。
しかしだ、江戸の幕府はというのだ。
「決して」
「若し血を好む幕府なら」
「人の心が離れます」
「室町の六代殿の様にです」
「ああなってしまいかねません」
「暴君は最悪じゃ」
家康はその義教を念頭に話した。
「天下にとってな」
「はい、まさに」
「あってはなりませぬ」
「幸い本朝は暴君はこれまで出ておりませぬ」
「異朝の傑紂の様な者達は」
夏の傑王、殷の紂王だ。どちらも暴君の代名詞となっている。
「天下は法と徳により治めるもの」
「だからですな」
「律儀でもある」
「無暗な血も流してはなりませぬな」
「絶対にな、惨い刑罰もあらため」
そしてというのだ。
「死罪もな」
「減らしていきますな」
「出来るだけ」
「そうもしていきますか」
「そうじゃ、仁も忘れてはならぬ」
決してというのだ。
「政はな」
「そうですな、徳は仁からも生まれます」
「それ故にですな」
「仁を忘れず」
「そうしていきますな」
「うむ、では戦をするが」
しかしというのだ。
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