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龍が如く‐未来想う者たち‐

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井上 慶介
第一章 禁じられた領域
  第三話 信用と利用

謎のフードの人物に連れられ、逃げ込んだ先は何処かの廃ビルだった。
廃ビルとは言っても最近倒産したばかりの会社で、内装自体はとても綺麗である。
だが鍵が壊されており、中には誰でも入り放題だった。

「ここは俺の隠れ家だ。好きに使ってくれ」

コートの男はそう言いながら、上着を脱ぎだす。
流石に暑かったのだろう、コートの中は汗でビッショリだった。
シワだらけの顔に、右眼の傷。
温和そうな表情だが、気を抜けない緊張感を持っている。

「檜山だ。この界隈で、情報屋をやってる」

煙草を取り出した檜山は、何の断りも入れず吸い始めた。
特に煙草が苦手という訳ではなかったが、常識の無い態度に苛立ちを覚える。

「お前の名前は?」

ライターに火を点けながら、檜山が問いかける。
終始無言を貫こうとしたが、頭の中で少し引っかかる事があった。

「喜瀬って奴、知っとるんか?」

「名乗りもせず、情報仕入れよう言うんか。ふぅん……若いくせに度胸あんじゃねぇか」

檜山は近くに転がるパイプ椅子を引っ張り、井上の前に置いた。
自身の分も用意し座ると、つられて井上も椅子に腰掛ける。
立ち上る煙草の煙を見つめ、檜山は笑った。

「俺は昔、近江連合の直系組組長をやってた。その座を退いてから、あいつに会ったんだ」

あいつは、もちろん喜瀬を指していた。
極道者とは思えない、バンダナの男。
獣の様な、飢えた眼。
今更になって井上は、恐怖に身を包まれる。

「あいつは、武力で東城会をのし上がった男だ。まだペーペーなお前が対抗したって、命投げ捨てるだけだぞ」

「……うるせぇよ、じいさん」

虚勢を張っているのは、丸わかりだった。
井上の身体は恐怖に震え、声も少し上ずっている。
だが、東城会に復讐するその想いはそれでも消えなかった。

まだ3口程しか吸っていない煙草を足元に落とすと、檜山は力強く煙草を踏みつける。

「どうだ?俺と取引しないか?」

それは、突然の提案だった。
怪しい話に思わず睨みつける井上だが、檜山は表情を崩さない。

「お前にも有益な話だ。東城会崩壊の鍵が、手に入るかもしれねぇからな」

東城会崩壊の鍵。
井上にとって願っても無い話だが……

「どうして俺が、東城会崩壊させたい事を知ってるんや?」

檜山はまた、怪しく微笑む。
会って数十分しか経っていないのに、既に檜山の事が嫌いになりかけていた。

「隠してるのは、お前も同じだろう?さぁ、手を組むか組まないか……」

「決まっとるやんけ、アホ。俺は東城会破滅させるんやったら、何でもやるわ」

家族を奪った、東城会への復讐。
それは今の井上にとって、生きる価値のあるもの。
その言葉を聞いた檜山は立ち上がり、井上の肩を軽く叩く。

「これから、ある女に会いに行く」

「女?何やじいさんの彼女か?」

「アホ、こんな時に女紹介するか。会うのは、街1番の情報屋だ。俺はこの蒼天堀の情報しか持っていないが、彼女は日本全国の情報を何でも持ってやがるんだ」

胡散臭い。
井上の脳裏に、この言葉が浮かんだ。
大阪だけならともかく、日本中の情報を持つ人物なと規格外すぎる。
あまりにも現実と、かけ離れていた。

そう思う井上の答えも聞かず、檜山は歩き始める。

「この近くのバーだ。彼女の事を信じるなら、俺について来い」

俺のことを信じるなら……と口にしない檜山に、何処か共感が持てた。
檜山自身の事は、信用しなくていい。
人を信用しない井上の心境を見透かされているようで、悪寒が走る。
そんな井上も、檜山や情報屋を信じるつもりは毛頭なかった。
利用出来るものは、とことん利用する。
ただそのことだけを、胸に刻んでいた。
 
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