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フルメタル・アクションヒーローズ

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第222話 空戦拳舞

 鎧を通し、スーツを通し、伝わる殺気。
 そこからどのような攻撃が飛んで来るのかはわからないが――受け手に徹しているばかりでは、状況は動かない。

「二段着鎧の真髄――」
『――篤とご覧あれ』

 まずはこちらから仕掛けて、手の内を引きずり出すッ!

「ホワチャアアアッ!」
『ホワチャアアアッ!』

 俺と鮎子の怪鳥音が重なると――地を蹴って飛び出す身体に、小型ジェットの加速が乗った。俺の思考と身体の動作を、彼女は確実に読み取っている。

「……ッ!」

 鎧に取り付けられた小型ジェットは蒼い炎を噴き出し、俺の飛び蹴りに猛烈な推進力を加えていた。
 それを目の当たりにしたラドロイバーは、一瞬だけ目を見開くと――後方に飛び上がり、回避行動に出る。

 今まではどこからどんな攻撃が来ても、彼女は微動だにせず受け止めてきた。その彼女が、自ら動いて避けることに専念している。
 つまり――このパワーでぶつかる攻撃は、受けきれないということだ。それを自分で理解しているから、彼女は防御より回避を選んだ。

 ならば、この勢いを確実に命中するところまで持って行けば……!

「トォアアァアアアァッ!」
『トォアアァアアアァッ!』

 俺は飛び蹴りを中断し――蹴りのために突き出した脚をその勢いのまま、地面に振り下ろす。
 そして、グラウンドに触れた俺の足でつんのめるように、身体全体が前傾姿勢になり――倒れ込む瞬間。

 もう片方の脚で大地を踏み潰すように、踏ん張りを入れる。次いで、その脚をバネに再び地面を蹴り――俺達は勢いを殺すことなく、ラドロイバーを追うように飛び上がった。

「く……!」

 さすがに予想を超えた動きだったらしく、ラドロイバーは険しい表情でこちらを睨みつける。――どうやら、一杯食わせられそうなところまで、来てるらしいなッ!
 彼女は万策尽きたのか、それ以上の動きは見せず、そのまま滞空している。これ以上の回避は無理と見た……!

「ヤァアァァアッ!」
『ヤァアァァアッ!』

 この機を逃す手はない。俺は拳を振り上げ、ラドロイバーの土手っ腹目掛けて正拳を放つ。その鉄拳に、肘の部分に付いていた小型ジェットが加勢した。
 今までとは比較にならない推力と硬度で打ち込む拳。当たれば、いくらラドロイバーでもッ――

「ん……!」
「うッ!?」

 ――とは、行かなかった。さすがに、そう簡単に決めさせてはくれないらしい。

 彼女は俺の拳を食らう直前、空中で体を捻るように回転させ――まるで新体操のような挙動で頭上を越え、俺の背後へ移動していたのだ。
 ただ高くジャンプできるというだけでは、空中でこんな芸当は出来ない。……しかし、呑気に後ろを振り返って、その実態を眺めている暇はないだろう。
 ――赤い閃光が、背後から俺を狙っている以上は。

「鮎子ッ!」
『わかってる!』

 俺が叫ぶより早く、鮎子は鎧全体の小型ジェットを停止させる。つまり、失速させたのだ。
 全ての推力を失い、重力に引かれて行く俺の頭上を、真紅のレーザーが閃いて行く。判断が僅かでも遅れていたら、今頃は後ろから頭を貫かれていただろう。
 向こうは、俺を殺すことに躊躇などないのだから。

「くっ!」
『先輩、あれ!』
「……!?」

 一際大きな轟音と共に、俺はグラウンドの上に着地する。そのGの大きさに苦悶する暇もなく、俺は鮎子に促され頭上を見上げた。

 そこには――足の裏から赤い炎を噴き出し、空中で仁王立ちを披露しているラドロイバーの姿があった。

「ま、まさか……!」
「アイツも、飛べるってのかよ……!?」
「りゅ、龍太達だけやなかったんか……!」

 その光景に、救芽井達は驚きを隠せず――この場を包囲している全隊員も、どよめきを広げていた。

 ――なるほどな。あの時、燃え盛る船から逃げおおせたのはそういうことだったのか。
 別におかしいことじゃない。十一年前、鮎美先生を動かしていた彼女が、先生と同じものを作れないはずがないものな。

 いや……むしろ、その上位互換って可能性もある。少なくともこっちは鮎子の操作が要となっているが、向こうのシステムがラドロイバー本人だけで機能してる場合――人力に頼ってるこっちの方が不利になるかも知れない。
 いくらコンピュータより優秀な頭脳って言ったって、鮎子自身は人間だ。プログラムされたコンピュータのように、いつまでも働けるわけじゃない。集中力の限界というものがある。

 それに彼女はここまで来る道中、ずっと「超機龍の鉄馬」の運転に回っていた。数時間、休まずにだ。
 もしこの先、鎧の小型ジェットと並行して「超機龍の鉄馬」の制御まで、なんてことになったら――その負担は、さらに大きなものとなるだろう。
 「救済の重殻龍」の強さは、鮎子の並外れた頭脳と集中力に支えられている。その力が尽きる前に、決着を付けなくてはならない!

『先輩……』
「――最速でケリを付ける。もう少しだけ力を借りるぞ、鮎子」
『……うん!』

 俺の宣言に、彼女は強く頷き返す。この元気が続いているうちに、勝負を決めねば。

「テァアッ!」
『テァアッ!』

 今度は両足で地面を蹴り、先刻以上の推力でラドロイバーに突進していく。

「……!」

 彼女はそれに対し、レーザーで迎撃――ではなく、再び身体を捻って回避行動に入ろうとしていた。
 ――どうやらあの光線、むやみやたらに連発出来る代物でもないらしい。照射している時間も長くはないし、恐らくはエネルギー消費が激しい武装なのだろう。
 ならば、付け込む余地はある!

「取ったァ!」
「……ッ!?」

 紙一重で突進をかわされる瞬間。
 回避する方向を分析していた鮎子は、ラドロイバーを追うように小型ジェットの軌道を変え――俺はその流れに従いながら、ラドロイバーの右脚を右腕で、右腕を左腕で捕まえる。
 そして土手っ腹に首裏を当て、持ち上げるような姿勢に入り――その勢いで激しく回転しながら、グラウンド目掛けて急降下。

肩車(かたぐるま)ァァッ!」
「ぐッ……!」

 刹那。
 地面に墜落していく俺の右腕が、ラドロイバーの右脚から離れ――遠心力と重力に流された彼女の身体は、硬いグラウンドの上に叩きつけられたのだった。

「や、やったぁ!」
「決まった! これで決まりやっ!」

 一瞬の中で繰り出された強烈な一撃を目の当たりにして、矢村とダウゥ姫が歓声を上げる。他の隊員達も、声を綻ばせていた。

「……」

 しかし、ラドロイバーの恐ろしさを肌で知っている救芽井に、その気配はない。
 一方、当のラドロイバーは苦悶の表情で唇を噛み締め、全身を痙攣させている。このまま取り押さえに行くのも手だが――そろそろレーザーの充填が終わってもおかしくない頃だ。
 勝負を急がなければならないのは事実だが、深追いして致命傷を負うようなことになっては元も子もない。俺はその場から飛び退き、残心で様子を見ることを選ぶ。

「……」

 そして。

 ラドロイバーは僅かな間を置き……何事もなかったかのように立ち上がった。
 ……着鎧甲冑を着ていても、二週間は昏倒しかねない威力なんだけどな。どんな耐久力してんだ、あのコートの下にある実態は。
 いや……それを言うならあのコートそのもの……だよな。古我知さん。

「……正直、感服致しました。これほどの性能を発揮し、かつ今の段階でそこまで使いこなせているとは。四郷鮎美につきましては、以前から見込みがあると買っていましたが……あなた方の力も十分、人智を超えていると言って良いでしょう」
「……俺達としてはそんなお世辞より、そのままノビててくれてた方が嬉しかったんだがな」
「世辞などではありません。そんな下らない方便など、あなた方には無用でしょう。――四郷鮎美に匹敵する頭脳を、遠隔操作の擬似コンピュータとして転用する。いい着眼点ですね」

 ラドロイバーは口元を不敵に緩め――再び、足裏のジェットで空中に舞い上がる。その瞳は、さらに鋭く――俺達を狙っていた。

「その性能――『救済の超機龍』と二段着鎧とやらのポテンシャルは、まだまだその程度ではないでしょう。ですが、こんな残骸だらけの場所ではあなた方の全力など出るはずがありません。あなた方がよりベストを尽くせる、いい場所を見つけておりますので――ご案内します」
「……どういうつもりだ。敵に塩を送るようなものだろう」

 場所を変える――か。どうやら、その必要が出てくるほどの大暴れをやらかすつもりらしいな。あるいは、俺達にそれをさせるつもりか。
 いずれにせよ、彼女がどこかに逃げるというなら、俺達は追うまでだ。

「あなたを殺す前に、確かめておきたいのです。救芽井エレクトロニクスが造る最高のスーツが、どこまで戦闘行為に順応出来るのか」
「……いいぜ、乗ってやる。勢い余って、お前をぶちのめしてしまうかも知れんがな」
「――いえ、ご心配なく。あなたならいつでも殺せますので」

 抑揚のない口調で、淡々と言い切った後――彼女は両足のバーニアを吹かせ、グラウンドの外へ飛び去って行く。

『先輩……』
「……心配すんな。俺のしぶとさ、知ってんだろ」

 その姿を見送った後。鮎子の不安を掻き消すように、俺は拳を握り締め――踵を返して「超機龍の鉄馬」の方へ向かう。
 こちらを案ずるように見つめる仲間達を、視界に映しながら。

 ――これから行く舞台に立つ頭数は、俺と彼女の二人だけだ。
 だけど、これは一騎打ちじゃない。

 俺はもう――たった一人の「救済の超機龍」じゃないから。
 
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