世界に痛みを(嘘) ー修正中ー
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堕落した国王
"大丈夫、ナミ?"
"ケホッ!ケホッ!"
"あちゃー。また熱が上がったわね。"
─ それは過ぎ去りし、過去の記憶 ─
"しっかりしなさいよ、ナミ!"
"分かってるわよ、ノジコ。ケホッ!ケホッ!"
─ もう二度と手に入らないと分かりながらも幾度も夢見ずにはいられなかった光景 ─
"ナミ、あんたはもう寝なさい。"
"うーっ。分かった……"
─ そこには大好きな母であるベルメールと ─
"そんな顏しないの、ナミ。あんたが眠るまで手を握っておいてあげるから。"
"……うん。分かった、ノジコ"
─ 敬愛する姉が共に存在する世界 ─
"勿論私もよ、ナミ"
"えへへっ。ありがとう、ベルメールさん"
─ 何気ない日常、何気ないやり取りに溢れたナミの心象風景に残る宝物 ─
"ほらこれで安心して眠れるでしょ、ナミ?"
"うん。ありがとう、ベルメールさん、ノジコ"
─ ナミは心底嬉しそうに両手を母と姉の2人に伸ばし─
静まり返った船内でナミは1人意識を取り戻す。
時間帯は既に夜であり、船内は消灯されている。
辺りを見渡せば皆が各自適当な場所で寝転がっていた。
倦怠感が今なお体に残っており頭がクラクラする。
熱も体感的に先程よりも更に上がっているようだ。
このことから自身の症状が先程よりも悪化しているのは間違いないだろう。
「─」
頭を少し動かせば、額に置かれていたタオルがずれ落ちる。
傍には自身のベッドの上で腕を交差させる形でビビが疲れたように静かに寝息を立てている。
必死に自分の看病をしてくれたのだろう。
彼女には頭が上がらない。
そんな彼女の傍ではアキトが自分の左手を握り、眠っている。
外気に晒され少し寒いが、アキトの存在を強く感じることが出来るこの状況は今まさに死に直面し、心細いナミにとってとても心温まるものであった。
見ればアキトは器用に椅子の上で肩を僅かに上下させながら静かに眠っている。
普段は余り表情を変えないアキトの何気ない寝顔を見ることができ、ナミは少しばかりの充足感を覚える。
無防備に自分の前で眠るアキトの姿からは年相応な少年の可愛らしい寝顔に見えた。
ナミは自然と自身の頬が緩むのを感じる。
ナミは朦朧とする意識のなか何と無しに眼前のアキトの顔をじっと見つめる。
自分とは正反対の真黒な髪
きめ細かな長い睫毛に、端正に整った顔立ち。
今は閉じられているがまるで此方の全てを見透かすかの如き輝きを放つ真紅の瞳
美少年と呼ぶに相応しい容姿だ。
加えて、年に合わぬ達観性と、常に動じることなく物事を捉える冷静さを併せ持っている。
また、一般常識を兼ね備え、戦闘力も目を見張るものがある。
敵に対しても容赦が無く、仲間を助けるためならば不意打ちや奇襲も行う精神性を持つ。
正に生きるために妥協しない意志が窺えた。
それが目の前の少年、アキトに対するナミの印象だ。
「─」
意識が次第に薄れ、瞳が己の意思に反してゆっくりと閉じていく。
どうやら自身の体が少しでも眠ることで体調を回復させようとしているようだ。
しかし、ナミは決してアキトの手を離すことはなく、意識を手放すのだった。
船は着々とドラム王国へ向け舵を切る。
▽▲▽▲
無事、ルフィ達はドラム王国へと辿り着く。
しかし、歓迎を受けることはなく、銃を突きつけられ、明らかに歓迎ムードではなかった。
「去れ、海賊共!」
「この島から一刻も早く立ち去れ!」
「そうだ、そうだ!」
過剰なまでの反応を見せる島民達
このままでは発泡も厭わない雰囲気を醸し出している。
「待ってくれ!病人が此方にはいるんだ!」
「医者を呼んでほしいんだ!」
「そんな手には乗らんぞ、海賊共!」
「さっさと海に帰れ、海賊共!」
ルフィ達の必死の説得虚しく島の人達は此方に敵意を向ける。
「どうか、どうかお願いします!」
そんな中、ビビが必死の土下座を見せる。
それは彼女の誠心誠意の思いの表れであった。
ビビの決死の思いに彼らがたじろぐ様子を見せる。
それに畳み掛ける形で、一人、また一人とルフィ達はビビに続くように土下座する。
『どうかお願いします!!』
「……村へ案内しよう。頭を上げてくれ」
その後、ルフィ達はドルトンと呼ばれる男の案内のもと島へと招き入れられることになった。
「42度!?これ以上熱が上がると命に関わるぞ…!」
「そうなんです。数日前から熱が増す一方で……」
ナミの容態は悪化し、先日よりも熱が上がっていることが発覚する。
熱は驚異の42度にまで達していた。
現状、ルフィ達にナミに尽くせることは存在しない。
故に、一刻も早くナミを医者のもとに連れていかねばならないのだ。
「この島にいる医者は現在1人だけだ。彼女の名は"Dr.くれは"。そんな彼女が住んでいるのはこの部屋の窓から見える……」
しかし、Dr.くれはの別荘が見えることなく、雪だるまと恐竜が窓の外を覆い隠していた。
「""ハイパー雪だるさん"だ!!」
「"雪の怪物シロラー"だ!!」
「てめェらブッ飛ばすぞ!!」
「─」
アキトは冷徹な視線で話の節を折ったルフィとウソップを睨み付け、窓を淡々と開け、容赦なくルフィとウソップを吹き飛ばす。
ウソップは後に語る。
"あそこまで怒った様子のアキトは初めて見た"と
「あのルフィとウソップは放っておいて、ドルトンさん。話の続きをお願いします」
「……その医者であるDr.くれはなのだが、この部屋の窓から見えるあの"ドラムロッキー"に住んでいる」
「あのクソ高い山にか!?」
ウソップが驚きの声を上げる。
「加えて、残念なことに彼女との通信手段は現状存在しない」
「そんなっ!?じゃあ、どうすれば……」
通信手段が存在せず、彼女が住んでいるのはドラムロッキーの山頂だと言う。
通常の手段で向かえば多くの時間を有することは想像に難くなかった。
「そういうことでしたら、此方から彼女の下へ直ぐに向かいましょう」
しかし、ここには常識が通用しないアキトがいる。
件のDr.くれはの場所は知れた。
後はナミを彼女のもとへ連れて行くだけだ。
アキトはナミの膝と脇の下に手を回し、いわゆるお姫様抱っこの形でナミを抱えあげる。
その後、アキトは即座に部屋を飛び出し、外へと飛び出す。
「あの山頂に医者であるDr.クレハが住んでいるのですね、ドルトンさん?」
「ああ、そうだ」
視線を山頂へと向けるアキト
見据える"ドラムロッキー"は天高くそびえ立ち、かなりの標高を誇っている。
しかし、目で見える距離などアキトにとっては然程関係ない。
周囲に微風が吹き、アキトは宙に浮き上がる。
続けて、彼はさっそうとその場からナミを抱え、空を飛翔していった。
「何と、飛んだっ……。能力者であることは先程の光景から予想していたが、何という利便性の高い能力だっ……!」
「す、すごい」
ルフィ達は呆然とアキトの背中を見続けることしか出来なかった。
▽▲▽▲
「まっはっはっはっはっは!ついに辿り着いたぞ、我が国に!!」
島の沿岸にてこの国の王であるワポルが高笑いを上げる。
周囲には敗北した見張りの者達が倒れ伏していた。
ワポルの傍には側近であるチェスとクロマリーモが控える。
「大変です、ワポル様!先日出会ったあの海賊達の船が、あそこにっ!」
上機嫌なワポルへと部下の1人が声高らかに叫ぶ。
途端、顏に憤怒の表情を貼り付け、ワポルは青筋を浮かべた。
「あいつらが我が国にっ!許さん、許さんぞ!!俺様があの麦わらの野郎にどれだけの屈辱を味わされたと思ってやがる!!」
余りの怒り心頭な様子にたじろぐ部下達
そんなワポルに動じることなく口を挟む男が背後から現れた。
「まあまあ、落ち着けよ」
「あ…兄ちゃんっ!」
それはワポルの実の兄であるムッシュールであった。
ピンク色のおかっぱ頭が目立つ、長身の男だ。
サングラス越しに見える瞳は鋭く、佇まいも隙がない。
このことからムッシュールという男はかなりの強者であることが伺えた。
「このムッシュール様の能力の前には何もかも無力だ、ムッシッシ~!」
「そうだな、兄ちゃん!頼りにしてるぜ!」
「このカパ野郎が!お兄たまと呼べっつってんだろーが!」
「ご…ごめんよ、兄ちゃん!」
「分かればいいんだ、ムッシッシ~!」
「まっはっはっは!」
先程とは打って変りコントのようなやり取りを交わし、ワポルとムッシュールは笑い続けた。
一方、ドラムロッキーへと向かったアキト
「……」
一人寂しく城の外観を眺めていた。
現在、このロッキーマウンテン上にいるのはアキトとナミの2人だけだ。
無事、アキトはDr.くれはの居城へと辿り着いていたが、家主は外出中であった。
こうなっては仕方ない。
アキトはナミを抱え、城内に向け悠々と歩を進めた。
一方、アキトを見送ったルフィ達
「何!?ワポルが帰ってきただと!?」
「ああ、間違いない。しかもあのワポルの兄であるムッシュールも一緒に帰ってきている」
「ムッシュールもか……!?」
彼らはイッシー20、ワポルに従っていた医者達は決死の思いでワポル達の下から脱走してきたのだという。
彼らは今や、この島の危機を伝えるべくドルトンの下へと駆け付けていた。
彼らが語る内容は島民達を恐怖のどん底に陥れるには十分であった。
ワポルはこの島の国民達を一掃するべくムッシュールの猛毒を撒き散らすつもりらしい。
発射源はDr.くれはが住む城であり、事態は一刻の猶予もないことを告げられた。
「おいおい、かなりヤバい状況なんじゃねーか、これ!?」
「あの、ドルトンさん。これは一体どういうことでしょうか?」
状況の理解が追い付かないビビがドルトンに尋ねる。
「君達はまだこの島を取り巻く現状を知らなかったな。……良い機会だ。今、此処で君達にこの島の全てを話そう」
そして、重々し気にドルトンの口からこの国の現状が語られた。
─ 数ヶ月前にこの島は一度滅びていること ─
─ ある海賊達の手によって ─
─ その名を"黒ひげ" ─
─ そんな危機的状況で国王は誰よりも早く逃げ出したのだと ─
─ 国政は独裁政権であり、酷く、残酷であった ─
─ その名を"ワポル"。酷く独占的で残酷な王であった ─
─ 故に、誰もがワポルを恨み、憎んでいたのだと ─
「それが国を守るべき国王のすることなの!?」
ビビが声を荒げ、怒りを表す。
国を守り、民を愛するべき国王が愛すべき国民を見捨てた愚行が何よりも許せなかった。
「ああ、残念ながら事実だ。この国の王は腐っているっ!」
「そんな……」
ビビがドラム王国の腐敗した状況に衝撃を受け、悲し気な表情を浮かべる。
「だが、それ以上に厄介な奴がいる。ワポルの実の兄であるムッシュールだ」
「そんなにヤバい奴なのか?」
素朴な疑問を投げかけるウソップ
「ああ、奴はノコノコの実を食べた毒キノコ人間。体内から毒のキノコの胞子を生み出し、操ることが出来る。その能力の前では奴自身に触れることすら出来んっ!」
ドルトン自身悪魔の実の能力者であるが、奴とでは相性が悪過ぎた。
見れば彼の肩は震え、固く口を結んでいる。
自身の力の至らなさに歯噛みしているのだろう。
そんな中、ウソップは何処か落ち着いた様子で現状のことを冷静に分析していた。
「……いや、案外何とかなるかもしれないぞ」
「何……?それは本当かね、ウソップくん!?」
一抹の希望を見つけたとばかりにドルトンはウソップへと勢い良く詰め寄る。
「あ…ああ、俺達の仲間のアキトだったら、そのムッシュールて野郎も倒すことが出来ると思う……」
「アキト……?先程、空を飛んで行った少年か?」
「ああ、そのムッシュールも化け物らしいが、アキトはそれ以上の強さを持っているはずだ」
ウソップはどこか確信にも似た思いを抱く。
今でも思い出す。
一切の容赦もなく、圧倒的な強さで敵を殲滅するアキトの姿を
これまで遭対してきた敵もアキトの手によって瞬く間に倒されてきた。
真に恐ろしいことはこれまでウソップは彼の全力を見たことが一度たりとてないことだ。
あの様子だとまだまだ全力には程遠く、力の半分も出していないのではないだろうか。
「そんなに強い奴なのか!?それなら俺が戦うぞ!!」
「話を聞いていたか、ルフィ?相手は触れることすら出来ないんだ。ここは能力の相性を考えてアキトが適任だ。それにそのワポルって野郎は今、あの城に向かっているんだろ?だったら自然とアキトと戦うことになるだろうぜ」
「え~、でもよー」
サンジの言い分に納得できないとルフィが不満の声を漏らす。
サンジは静かに煙草に火をつける。
そんな彼ら2人の傍でドルトンはイッシー20から解毒薬を受け取っていた。
どうやらムッシュールの有する毒に対する解毒剤のようだ。
その後、ドルトン達はリフトに乗るべくその場から走り出した。
一方、件のDr.くれはとその助手であるトナカイは敏感にワポル達の臭いを嗅ぎ取っていた。
「ドクトリーヌ、この臭い……」
Dr.くれはとトナカイは己の住処である城へと帰るべく空を駆け上がっていた。
「どうしたんだい、チョッパー?」
Dr.くれははそりを引くトナカイ、チョッパーにその言葉の真意を尋ねる。
「ワポルが帰って来ているっ!」
「……そうかい」
ただ一言
対するチョッパーはどこか決意を宿した目で駆け上がる速度を上げた。
こうして各々の思惑と思いを胸に彼らは行動する。
─ ある者は過去に犯した罪を清算するため ─
─ ある者は己の野望と欲求を満たすべく ─
─ ある者は今は亡き大切な人が自分に託した宝を守るため ─
─ ある者は自身の信念を胸に悪を打ち破るべく ─
─ ある者は死に瀕する仲間の少女を救うべく ─
今此処で、過去と現在が繋がる。
こうなることは必然で、逃れられない運命であった。
誰もがこの腐敗した国でもがき、良き国にしようと奮闘してきた。
だが、この現状を招いた悪の元凶は常に自身の欲望を満たすべくこのドラム王国を牛耳ってきた。
しかし、それも遂に終わりの時を迎える。
悪と善は今此処で対峙し、衝突する。
─ 彼らの決着の時は近い ─
後書き
はい、というわけで映画キャラのムッシュールの登場です。変化球を入れてみました。
ナミの過去話は完全に私の造作です。こんな過去があったのだろうという作者の想像です。
うーむ、ムッシュールの口調ってこんな感じでしたっけ?
今作では雪崩は起きていない設定です。
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