儚き想い、されど永遠の想い
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116部分:第十話 映画館の中でその六
第十話 映画館の中でその六
「それが彼なのです」
「そうですか。その曲をなのですね」
「お聴きになられますか?」
「はい」
笑顔で頷く真理だった。
「そうさせてもらいます」
「わかりました。それではです」
「この音楽を聴きながらのお話になりますね」
「音楽と共にならです」
それならばだとだ。義正は珈琲が入っているカップを片手にだ。真理に話すのだった。そのモーツァルトの音楽を聴きながらだ。
「心が落ち着き。沈んだものもなくなりますので」
「だからこそいいのですね」
「いいと思います。それでなのですが」
「そのお話のことですね」
「はい、私は思うのですが」
こう前置きしてからだ。義正は話す。その話すことは。
「私達は誰にも私達のことを話してきませんでした」
「そうですね。本当に誰にも」
「しかしです」
義正はここで一旦言葉を止めた。そしてだ。
一呼吸置いてからだ。そのうえでだ。
真理にだ。あのことを話したのである。
「この前の森の帰りですが」
「あの時のですか」
「はい、あの時のことです」
そのだ。二人で森に行った時に何があったのか。それを真理に話すのだった。
「家の者に見つかってしまいました」
「左様ですか」
「はい、そうです」
また話す彼だった。
「偶然ですが」
「偶然ですが、ですか」
「そうです。それで考えたのですが」
そのうえでだとだ。話を続けていく。
「私達のこの関係は秘密にしておいてはならないのではないでしょうか」
「では公にするのですか?」
「そうしてはどうでしょうか」
真理に対して話す。
「そうしようと思うのですが」
「では。お父様にも」
「はい、私の両親にもです」
この場合公にするとはだ。そういうことだった。
そうしてはどうかとだ。真理に提案するのだった。
話したうえで真理の顔を見る。するとだ。
そこには強張りだ。今にも割れてしまいそうな彼女の顔があった。悩みそのうえで逡巡しているだ。その顔があった。そしてであった。
彼女はだ。ここでこう言うのだった。
「そうですね」
「どうされますか?」
「少なくともこのままではです」
「どうにもなりませんね」
「はい、このまままた誰かに見つかりです」
「同じことの繰り返しですね」
「その家の者ですが」
佐藤のことだ。彼のこともここで話すのだった。
「幸いにして私のよく知る者で話してわかってくれましたが」
「それでもですか」
「やはりこのままでは袋小路です」
そうなるとだ。義正は言った。
「幸せにもなれないでしょう」
「そうですね。私達はこのままでは」
「だからどうするかです」
義正は真理の顔を見ながら問うた。
「これからは」
「若し私達のことを私達の両親にお話すれば」
「間違いなくです」
「はい、確実にですね」
「反対されるでしょう」
そうなることは目に見えていた。二人の家は根深い対立関係にある。そのお互いの家にいる彼等の仲を話せばどうなるか。火を見るより明らかだった。
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