儚き想い、されど永遠の想い
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109部分:第九話 知られたものその十五
第九話 知られたものその十五
あらためてだ。佐藤の方から話すのだった。
「あの家とだけはです」
「そうだね。今の僕達は」
「ロミオとジュリエットです」
義正がこれまで話してきた、である。あの二人だというのだ。
彼等が実在人物かどうかは今は本題ではなかった。本題は何かというとだ。彼等が辿った運命だ。佐藤はそれを頭に入れて話すのである。
「それではです」
「幸せにはなれない」
「そう思いますが」
「いや」
しかしだ。ここでだった。
義正は不意にだ。意を決した顔になってだ。
自分の向かい側にいる佐藤にだ。こう言うのだった。
「僕は前に言ったね」
「前にですか」
「うん、前にね」
こうだ。己の以前のことを話すのだった。
「ロミオとジュリエットは幸せになれたって」
「はい、確かに」
「それなら。僕達も」
こう言うのである。
「幸せになれるんだ」
「では何か御考えが」
「前に出るよ」
そうするというのである。
「僕はね」
「前にですか」
「うん、出るよ」
また言うのである。
「ここはね。前に出るよ」
「それはいいと思います」
主の今の言葉と考えをだ。佐藤はいいとした。
しかしだ。それだけではなくだ。怪訝な顔でだ。
彼はこう義正に問うのだった。
「ですがどうされてでしょうか」
「前に出るかどうかだね」
「一体どうされるのでしょうか」
「少し考えがあるんだ」
義正は強い目で話した。
「そうだったんだ。隠しているから駄目だったんだ」
「では。ここは」
「前に出れば弾丸も当たらない」
かえってだ。そうだというのだ。
「それなら」
「はい、それなら」
「前に出る。突撃するよ」
「また思い切られましたね」
「そう思うかな」
「今急にですから」
余計にだ。そう思えるというのだ。
「思います」
「そうだね。確かにね」
「ですがそれならです」
「それなら?」
「前に進まれるべきです」
佐藤の言葉は普遍なものになっていた。
「旦那様はそうされるべきです」
「ロミオとは違い」
「はい、ロミオではなくです」
別のだ。それは誰かというとだ。
「旦那様になられるべきです」
「僕自身になるべき」
「そう、そうなるべきです」
義正の目を見て話す。彼の澄んだその目をだ。
「八条義正様。その方になられるべきなのです」
「じゃあ僕は」
「前に進まれたいですね」
このことも再び彼に問うた。
「そうされたいですね」
「幸せになりたい」
義正はそのことをだ。こう表現してみせた。
「是非共ね」
「それならばです。旦那様になって下さい」
「じゃあここは」
「突き進まれるべきですが」
「ですが?それでもだね」
「旦那様は蛮勇ではありませんね」
義正の特徴とも言えることだった。彼は慎重で理知的な人物だ。それが彼を彼たらしめていた。紳士的で礼儀正しいその彼にである。
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