ラピス、母よりも強く愛して
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11 テンカワ家爆破、アキト分岐ルート
監視小屋
「邪魔者が一人消えました、次は歴史通り「アキトの両親を除去」します」
ラピス(母)から次の指令が出された。これはアキトの願いとは違ったが、両親がいなくなった後、色々な人物と出会わせ、当時と同じ人格を形成しつつ、コックを目指すようになる為には、必要不可欠な出来事だった。
「ネルガルの仕掛けた爆発物の状況を確認。点火後、アキトの両親、実行犯、ネルガル関係者を処分、誰一人逃がさないように」
今回、アキトの両親は、自分で管理している木星に連れて行き、邪魔者のいなくなった所で、アキトを引き取る事にしていた。
(もうすぐアキト君とのバラ色の生活が始まるのよ、ジュルジュル、おおっといけねえ涎がでちまったぁ、デヘッデヘッ)
また壊れて、良からぬ妄想を始めるラピス(母)。このオリジナルに近いラピスも、正しいジャンプの影響でギャグキャラへと崩壊を始めていた。
ラピス(母)妄想中。
夜中にラピスの寝室を訪れるアキト君8歳。
「あの、お、おばさん……」
「どうしたのアキト君、また怖い夢でも見たの?」
両親が事故にあった光景が忘れられず、毎夜のように怖い夢を見ている(予定の)アキト。
「うん」
「じゃあいらっしゃい、一緒に「寝て」あげる」
「うん、おばさん」
「違うわよ、私は貴方のお母さんにはなれないけど「ママ」にはなれるかも知れない、これからはそう呼んでみて」
「えっ? ま、ママ(ポッ)」
「そうそう、その調子、じゃあ… おっぱいも吸っていいのよ」
妄想中断
「うひょ~~~~っ、クックックッ、ママだってぇ、もうアキト君にママなんて言われたら、食べちゃう~~」
そこには妄想しながら転げまわって喜んでいる最低の痴女がいた。
『点火1500秒前』
恒例のオモイカネのカウントダウンが進む中、鬼のような表情でウィンドウに映るアカツキ一族や、実行犯を見ているラピス達。
(今度もアキトの両親を狙うとは。これからアキトが味わった苦痛を、何千倍にもして返してやる、まず生爪を剥がして、指を一本づつ挽肉器で(以後自粛))
とても、お茶の間にはお届けできないような、強烈な拷問を想像しているラピス。
この時、幸いにもゴートやプロスペクターは参加していなかったが、もし関わっていれば、ありえない苦痛を味わいながら永遠に生かされて「アーブが作った地獄」みたいな処置をされていた。
「捕虜は必要ない、ネルガルシークレットサービスは全員、体を乗っ取ってやれ」
今後ネルガルは、「アキト君が活躍するためにだけ」存在する組織として再編され、人員は脳を放り出されて体を奪われ、哀れな奴隷として扱われる。
「ごめんなさい、アキト君、でもこのままじゃあ貴方は「成績優秀で、スポーツもできて、顔良し、スタイル良し、両親は学者で家も裕福」で何不自由無く育つと、とても嫌なヒトになってしまうの、だからせめて一人だけは、元のままの貴方でいて」
大勢のアキト達も、ここまでの記憶は共通になり、今後も少なくとも一人は、オリジナルと同じ人格になるらしい。
『1200秒前』
空港
その頃、見送りを済ませ、シャトルを見ていた三人。
「すご~い、おっきいね、おにいちゃん」
「うん、すごいや」
(後、20分しか無いのよ)
無邪気な二人を見ながら、カウントダウンを聞いているラピス。
「アキト、ユリカさんがいなくなって寂しい?」
いつものように、決まった答えを強要する、縋るようなような目付きでは無く、本当に寂しそうな表情で問い掛ける。
「いいや、ラピスやアイちゃん、おばさんもいるから、さびしくないよ」
まだ子供なのに、健気に嘘をつき、笑顔を作るアキト。
「そう」
ここで「じゃあ、お父さんや、お母さんがいなくなっても寂しくない?」と聞きたかったが、余りにもタイミングを合わせた質問をすれば、アキトとて疑うに違いない。
(これで、本当にこれでいいの? これはアキトの願いとは違う、確かにアキトの両親を殺させたりはしない、でも離れ離れになれば同じ事、両親がいなくなった苦痛を繰り返す事になる、私にそんな権利は無い……)
何度も他のラピスやオモイカネ達とも話し合って決めた事だが、例え一瞬でもアキトを苦しませる、それも自分が知っていながら見過ごすなど、許せない行為だった。
「もう帰りましょうか」
CCを出し、人気のいない場所へ、二人を連れて行こうとするラピス。
「ええ~、もうちょっとシャトルみる~」
『ラピス29号がリンクから離脱、予定を変更しアキトを帰宅させる模様、CCを準備しテンカワ家をイメージ中』
「予定通り…… ね」
既に思考を読まれ、計画の一部とされているのを知らないラピス29号。
「いい? 行くわよ」
「「うん」」
いつに無く切迫した表情をしているラピス。他人が見れば無表情に見えたが、慣れれば飼い犬やヘビの表情でも分かる物なので、長年一緒にいるアキトには、ラピスの焦りがすぐに分かった。
「ジャンプ」
テンカワ家の裏庭を目指してジャンプしたラピスだったが、3人は近所の丘の上にジャンプアウトした。
「あれ? いえじゃない?」
「どうしたの? 何かあった?」
「アキトの家は、もうブロックされてる、直接ジャンプはできなかった。叔父様と叔母様が危ない、急ぎましょう、アイちゃんはここに居てっ」
2人は丘を駆け下り、家に向かおうとしたが、爆心地にアキトを連れて行くのはためらわれた。
「いやっ、わたしもいっしょにいくっ!」
「アキトッ! アキトもアイちゃんと一緒にここにいてっ!」
少し考えれば、アキトとアイちゃんを残し、空港から一人でジャンプすれば良かった事に気付く。
それはもう自分が冷静さを欠いている証拠だったが、何があってもアキトから離れず、ずっと守り続ける基本行動が仇となった。
(最後に一目でも会わせようと思ったのが間違いだった。相手はこの私、機体性能も全然違う)
もうジャンプをブロックされた時点で勝敗は決まっていたが、起動兵器も戦闘艦も持っていない自分と違い、他のラピス達は個体でも恐ろしい戦闘能力を持っていた。
「予定を早める、点火」
『点火開始、格員は戦闘員を始動、ネルガル関係者を全員拘束、テンカワ夫妻を救出せよ』
丘を駆け下りるラピス達の前で、テンカワ家が爆破された。
「かあさんっ、とうさんっ!」
「くっ」
予定が早められ「邪魔なアキトの両親の排除」が行われた。
複数いるアキトも、ここまでの記憶は共通になって、以降は生活場所や環境によって分岐する。
子供のラピスや母親ラピスと共に暮らし、火星やこの世を救う救世主として育つアキト。
親戚をたらい回しにされ、両親の資産、預金を奪われた上で施設に放逐。温かい料理と温かい施設のスタッフに出会い、苦痛を知りながらも優しい人物として育てられるが、腐った役人、クズのクラスメイト、サディスト達によるイジメ、迫害、詐欺、あらゆる闇勢力や悪い友人からの勧誘、学歴の低さや両親がいないことで保証人もなく、住む場所すらないので飲食店での住み込み程度のド底辺生活をして、日々最底辺の暮らしに追われて「この世界なんか終わってしまえば良い」と考えさせられるアキト。
その後、親戚から金で売られてしまい数奇な運命を辿るが、治安の悪い地域で暴力女と出会って拳で語り合ったりするスバル・アキト。
両親の資産を取り戻してポニーの丘で乗馬したりバグパイプを吹いていると、そばかすだらけの少女と出会ったり、少女が貧しい時は「あしながおじさん」として援助したり、芸能界で苦しい時は「紫のバラの人」として花を送ったり、危険な時は「タキシード仮面様」として現れたりするアキト・レイナード。
複数の強化人間の養育を任されて、ミルクを人肌にして飲ませたり、オムツまで交換して入浴させたり、夜泣きすれば抱っこして可愛がって我が子のように愛する星野アキト。
どこかの財閥に拾われて、家族を全て殺された誰かのご学友になったり、教育課程で似たような境遇の女とネルガル学園で主席の座を争ったりするアカツキ・アキトとアキト・キンジョウ。
一緒に稼いで生活していても、「ラピス、貴方の本当のお父さんはアキトくんと同じ、私はアキトくんのお父さんの愛人だったの! だから実の兄弟であるアキトくんとは結婚できないのよっ!」「い、いやあああっ!」という小芝居を見せられ、自分こそがアキトの運命の恋人だと思い込まされた女が、旧テンカワ家で隣の援助を受けながら、両親がいない者同士、中学生頃から同棲を始めて「寂しいの、家族を沢山作りましょう」みたいな感じで毎日毎日ドーブツのように交わって、金髪の天才少女と新婚生活をするアキト・フレサンジュ。
料理人として働き始めたばかりの女のボロアペートの隣に、いつもお腹を空かせている男の子として住んでいるアキト・ホウメイ。
ちょっとアイドルに憧れてオーディションに書類を送ったものの、最終選考までには落とされたり、得意な料理で手に職を付けて頑張ろうとする少女達の前に、いつも適切な助言をする少年として現れるアキト数人。
人生に飽きて、やさぐれている女の前に癒やしになる男の娘がいて「この子、絶対あたしが育てなくちゃ」と思わされる、母性本能強めの女の所に現れるハルカ・アキト。
木連に移送され、両親も救出されて同居もするが「地球人」「火星人」と罵られ、迫害を受けても、逆境を跳ね除けて軍に入り、ジャンパーであることからも優人部隊に選抜され、同期の同僚の妹に出会って、親同士が決めた婚約者としてピカチュウみたいな声の女の前に現れる白鳥アキト。兄の方もイケル口かも知れない。
木連では女神の生まれ変わりの現人神、生き神様として崇められるラピスの側近として、近衛兵となり、生き神様直々に騎士としての指名を受けて、地球壊滅、人類抹殺計画の中心、全ての人類に死を与える黒い堕天使「ブラックアキト」としての人生を始め、ブラックサレナ、ブラックゲキガンガーに搭乗して、黒いユーチャリスと共に死を振りまく悪魔となるアキト。
全てのアキトの人生は、これからの人類を生かすか殺すかを決定する材料となり、全てはアキトの今後の選択に託された。
「かあさんっ」
以前のようにテンカワ家までは爆破炎上させられなかったが、帰宅時にドアが吹き飛び、サブリミナル画像で一瞬だけ見えた写真と同じように、家の前で手を繋いで倒れている両親。
そのタヒ体を助け起こして泣き続けるアキトと、以前の歴史には存在しなかった、ラピス、アイちゃんがいた。
「アキトくんっ、逃げてっ、早くっ」
駆け付けたラピスの母に抱き起こされ、硝煙の臭いがする場所からアキトだけ連れ出される。
ラピスには停止コードが入力され、指一本も動かせなかった。
「まって、とうさんとかあさんがっ」
「もう助からないっ、諦めてっ、今は貴方だけでもっ、ジャンプ!」
何も出来ないまま、母にアキトまで攫われてしまい、アンドロイドや人間モドキに包囲される。
アイちゃんはテイザーで失神させられ、すぐに搬出された。
「ラピス29号、聞きたいことがある」
今日の日に合わせて、戦闘指揮官であるラピス(木星)まで現れて陣頭指揮を取っていた。そのままアキトのコピーを木連まで連れ帰るつもりらしい。
「これはアキトの意志じゃないっ、あの時アキトはこう言った、「ネルガルに父さんも母さんも殺させない」って、これはアキトが望んだ世界じゃないっ!」
「黙れ、これもアキトの意志なのだ。アキトの思考回路をシュミレータが計算し、こう問いかけた。「もし両親が殺されたり、誘拐されたらどうしたいか、どこに行きたいか」をな。答えは決まっているだろう? 「ラピスと一緒に暮らしたい」だ! 私は、私たちは選ばれたのだ! 両親よりも大切な友達として、女として、一生の伴侶として、子供を産ませて自分の亜種を複数製造したい生物として、数十億のメスの中からっ、私がっ、お前が選ばれたんだっ! 喜べっ、祝えっ、この幸せを噛み締めろっ! あはははははははははははっ!!」
狂ったように笑い続け、それを子供ラピスにも強要する戦闘指揮官。
今後複数のアキトは、それぞれ改変されて「運命の少女」を伴侶として選ぶように、女達も運命と人生と存在の全てを捻じ曲げられ、アキトだけを愛する生物として書き換えられる。
しかし、オリジナルのアキトの思考はラピスを選んだ。両親よりも、アイちゃんよりも、ラピス母よりも、世界の全てよりも自分を選んでくれた。
ラピスの中では、自分がこの結果を作ってしまった張本人であり、アキトに辛い選択をさせて両親を捨てさせた元凶でもある自分を呪いながらも、アキトに選ばれた存在である自分を抱き、その喜びと幸せを噛み締めている自分の感情にも嫌悪した。
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