儚き想い、されど永遠の想い
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1部分:前奏曲その一
前奏曲その一
儚き想い、されど永遠の想い
前奏曲
その時僕は。ただ招かれただけだった。
招かれた場所は洋館だった。その街の海辺にはよくある、古い洋館だった。
その洋館は白い壁に黒い屋根、それに煙突がある。かなり古いらしく壁は今にもヒビが入りそうな感じだった。
窓も欧風でそこから見える海はどれだけ美しいだろうと思った。柵には薔薇が絡まりそれが尚更欧風の雰囲気を醸し出していた。
その玄関くぐると左右対称の庭があった。緑の木々は奇麗に切り揃えられそこには黄色い、僕の知らない種類の花々があった。その黄色と緑の対比もまた僕の目と心にやけに印象に残った。
そうしたものを見ながら濃茶色のその扉を開けるとだ。若い紳士が出て来た。
ダークブルーのスーツにスカーレッドのネクタイ、この人も対比だった。黒髪を端整に後ろに撫で付けており彫刻を思わせる整った顔立ちをしている。
姿勢が立派だ。背筋が立っている。それが長身をさらに際立たせている。
その紳士はだ。僕の顔を見るとまず笑顔になった。モデルのそれを思わせる端整な笑顔だ。
その笑顔でだ。僕にこう言ってくれた。
「ようこそ」
「はい、遅れて申し訳ありません」
実はここに来るまでにいささか道に迷っていた。僕は方向音痴だ。車でここまで来たのだがそれでも迷ってしまったのだ。
それで謝罪した。だが紳士はその笑顔で僕にこう言ってくれた。
「いえ、時間通りです」
「そうであればいいのですが」
「はい。ですからご心配なく」
こう僕に言ってくれた。そしてだ。
僕を洋館の中に入れてくれた。その洋館の中は。
吹き抜けになっていて二階までよく見える。中に入るとすぐに螺旋状になっている茶色の木造の階段が見える。その階段もかなりの年季が感じられた。
床には絨毯がある。ビロードの、カーディナルレッドとパープル、それにマリンブルーの三色の絨毯だ。アラベスク模様になっている。
壁はダークブラウンで樫の木のそれだ。部屋の扉もだ。落ち着いた、イギリスというよりはドイツのそれに近いのではと思わせる内装だった。
その内装の屋敷の中を通りながら。僕はある部屋に案内された。
そこは応接間だった。ロココ調の見事なソファーが二つ、そしてその間には黒檀のテーブルが一つ。それが置かれていた。
その部屋に入るとだ。紳士は僕に話してくれた。
「それではです」
「はい、ここでですね」
「御茶でも飲みながら」
紳士は微笑んで僕にこう言ってきた。
「御話をしましょう」
「あのお話をですね」
「そうです。前に私がお話した」
「その一つの恋のお話ですが」
僕は紳士に対して言った。言いながらその勧められた席に座る。紳士も僕に合わせて向かい側の席に座る。程なくして白いエプロンにカチューシャ、黒い服とスカートの若いメイドの人が来てだ。僕達に尋ねてきた。
「何にされますか?」
まずは僕に尋ねてきた。お客を立ててらしい。
「そうですね。それでは」
「はい」
「紅茶を御願いします」
僕はそれだと答えた。
「葉はお任せします。ロイヤルミルクティーを」
「ロイヤルですね」
「はい、それを御願いします」
ドイツ調の洋館でイギリスは少しないかな、と思った。だがそれでもだ。今はそのロイヤルミルクティーを飲みたい気持ちだった。だからそれにした。
メイドの娘はそれを聞いてだ。僕に笑顔で述べてくれた。
「畏まりました、それでは」
「はい、それでは」
僕の話はこれで終わった。そしてだった。
彼女はだ。次は紳士に顔を向けてだ。まずはこう呼んだのだった。
「では旦那様」
「はい」
紳士は使用人であろう彼女にもだ。礼儀正しく返していた。それが僕にはこの紳士は本当の意味で礼儀を知る人物だと思わせるのだった。
「僕も同じものを」
「ロイヤルミルクティーをですね」
「御願いします」
「畏まりました」
彼女は紳士にも笑顔で応えてだ。そうしてだった。
一礼してから退室して。すぐにそのロイヤルミルクティーを持って来てくれた。僕達はそれを飲みながらだ。あらためて話に入った。
「そのお話ですが」
「何時頃のお話ですか?」
その話のことは僕はまだ何も聞いていなかった。僕があるパーティーの場で今の恋人のことをいささか自慢げに話しているとだ。この紳士が来てだ。僕に挨拶してきたのだ。
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