真田十勇士
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巻ノ百十九 大坂騒乱その五
「時が来るのを待ちましょう」
「そうすべきか」
「拙者もそう思います」
「拙者もです」
他の者達も片桐に言ってきた。
「ここはです」
「この大坂を後にしましょう」
「そしてそのうえで」
「今はです」
「時を待つべきです」
「豊臣の家を守る時を」
「そうした時も来るでありましょう」
「天命がそう定めているのなら」
「そうか、しかしわしは」
片桐は己の病のことを言おうとした、だが。
信頼している彼等でもそれを話すのは危うい、そこまでのことと思ってだ。言うのを止めてだった。
そのうえでだ、彼等にこのことを隠して述べた。
「もうと時がな」
「ないとですか」
「そう思われますか」
「ここで茶々様を説得出来ねば」
「そうだというのですな」
「そうも思う」
どうにもというのだ。
「ここはな」
「左様ですか」
「しかしです」
「このままではどうなるかわかりませんぞ」
「片桐殿のご一族も」
「大野殿も木村殿もです」
よく強硬な意見を述べる彼等がというのだ。
「何時どうしてくるかわかりませぬぞ」
「片桐殿に対して」
「ご一族の方々にも」
「無論我等に対してもです」
彼等自身のことも話した。
「どうなるかわからなくなっております」
「そして我等の一族も」
「そうした状況です」
「ここで大坂を去らねば」
「最早」
「そうか、穏やかに言う者達は皆か」
片桐は大坂の空気がわかったことを認めざるを得なかった、それは大蔵局が茶々に自分のことを言ったせいだということはわかっていた。
しかしだ、まだ何とかなるせねばと思っていた。それだけにだった。
「そうした状況ではな」
「もうです」
「今の大坂に我等の居場所はありませぬ」
「ですからここは」
「去りましょうぞ」
「この大坂を」
周りの者達の言葉も切実だった、それでだった。
彼等は片桐に必死に語り続けた、そしてだった。
遂にだ、片桐は彼等に告げたのだった。
「わかった」
「では」
「これで、ですか」
「大坂を去られますか」
「そうされますか」
「致し方ない」
無念の顔での言葉だった。
「これではな」
「はい、それでは」
「すぐに大坂を後にする用意に入りましょう」
「その間周りの警護を固め」
「そのうえで」
「無論去る時も」
「そうするか、しかしな」
ここでまた言った片桐だった。
「わしとしてはな」
「どうしてもですな」
「茶々様にですな」
「納得して頂きたい」
「左様ですな」
「うむ」
その通りだとだ、彼等に返事をした。
「まだそう思っておる」
「しかしです」
「もう茶々様はあのご様子です」
「片桐殿も我等も近寄せませぬ」
「それも一切」
「それではです」
「どうにもなりませぬ」
話を聞く素振りすら見せない、全く聞く耳持たない状態ではというのだ。彼等も無念そうに言う。
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