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真田十勇士

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巻ノ百十九 大坂騒乱その二

「お話されてきました」
「その三つ全てを飲めというのか」
「さすれば何もなしとです」
「幕府は言うのか」
「豊臣家に対して」
 まさにというのだ。
「そうすればよいと」
「何を命じておるのじゃ」
 茶々は眉を顰めさせそうして返した。
「幕府は」
「それは」
「天下人は誰じゃ」
 茶々は怒りで顔を真っ赤にさせて言った、その長い黒髪も今にも逆立ちそうで形相も変わっている。
「一体誰じゃ」
「そのことは」
「豊臣家であろう」
 こう片桐にも周りにも言った。
「それで何を命じておる」
「切支丹、そして国替えと江戸入りと」
「大御所殿に言われる筋合いはないわ」
 強い言葉で言うのだった。
「全くな」
「ではこの三つのことは」
「聞かぬ」
 絶対にという返事だった。
「聞く筈がないわ」
「左様ですか」
「幕府にもそう伝えよ」
 茶々は激しい剣幕のままこうも言った。
「切支丹はそのままでじゃ」
「国替えも江戸入りも」
「聞かぬわ」
 そのどれもというのだ。
「そう伝えい、修理よ」
「はい」
「お主はどう思うか」
 自らが絶対の股肱と頼む大野にだ、茶々はここで問うた。
「一体」
「茶々様の言われることなので」
 これが大野の返事だった、どうしても茶々の言うことには従ってしまう彼はこう答えるだけだった。
「よいかと」
「そうか、お主はどう思う」
 今度は若々しい精悍な顔立ちの者に聞いた、木村重成という。
「一体」
「若し幕府がそう言うのなら」
 木村はあくまで強い声でだ、茶々に答えた。
「天下人としてです」
「相応しい振る舞いをしてじゃな」
「応じましょう」
「ではじゃ」
 茶々は二人の言葉を受けてだ、己の意を決めて言った。
「その様にする」
「左様ですか」
「幕府に伝えよ」
 茶々は戸惑う片桐にさらに言った。
「その様にな」
「どうしてもですか」
「そうせよ、よいな」
 もう有無は言わせない口調だった、こうなってはもう片桐ではどうしようもなく彼に近い考えの者達もだ。
 黙るしかなかった、そして。
 この時は黙っていた大蔵局は片桐達が下がってからだ、茶々も己の部屋に戻ったところでだった。
 彼女の部屋に彼女だけで入ってだ、こう話したのだった。
「先程のお話ですが」
「何があった」
「はい、片桐殿のお話ですが」 
 このことを話すのだった。
「わらわは大御所殿にそうしたことは」
「言われていなかったか」
「方広寺の話が済んでからは宴だけと申し上げましたが」
「その通りだったか」
「はい、何か言われたと思いますが」
 家康も言うことは言っていた、やんわりとであるが。 
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