魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第5章:幽世と魔導師
第140話「覚妖怪」
前書き
まずはなのは達から。
タイトルからわかる通り、覚妖怪が出ます。
…どこぞの幻想郷みたいな覚妖怪とちょっと共通点があるかも?
=なのはside=
それは、“孤独”だった。
寒くて、冷たくて、何もなくて。
―――………り………だ……
途轍もない、“寂しい”と言った感情が、私を蝕んでいた。
「(……違う…)」
これは、私だ。
この“孤独”は、私のものだ。
お父さんが事故に遭って、皆が忙しくなって。
誰にも相手してもらえなくて、それで寂しくて…。
―――し……り…て……い!……た…共…!
声が聞こえる。
誰の声だろうか?誰かが、私を呼んでる?
―――「…我慢しなくていいの」
―――「“寂しい”とか、自分の気持ちをしっかり打ち明けたら、」
―――「きっと寂しい思いなんかしなくなるわ」
―――「…最後に、我慢をするな」
―――「辛い気持ちがあれば、家族や親しい人にしっかり打ち明けろ」
―――「そうすれば、そういった思いはしなくなる」
―――「……決して一人で抱え込むな」
「っ……!」
そこで、二人の言葉を思い出す。
幼い頃、寂しくしていた私に声を掛けてくれた、優しい人。
そして、その人と同じような事を言ってくれた、心が強い人。
―――しっかりしてください!
「ぁ…!リニス、さん…!」
その言葉を思い出して、声もはっきり聞こえた。
同時に、目を覚ますように、意識がはっきりとする。
「っ、レイジングハート!」
〈All right, my master.〉
レイジングハートに呼びかけ、すぐさまその場から飛び退いた。
…すると、寸前までいた場所を、何かが薙ぎ払った。
「フェイトちゃん!」
「っ、ぁ…!」
すぐさま、飛び込むようにフェイトちゃんを抱きかかえる。
そして、その場から離れ、守護者からの攻撃を躱した。
「お二人共、目を覚ましましたか…!」
「リニス…?さっきのは……」
「幻覚か何かを、お二人に見せていたのだと思います」
フェイトちゃんは、私が呼びかけるまで虚ろな目のままだった。
多分、私も同じだったのかもしれない。
「―――まずは孤独の記憶…。どうだったかしら?」
「っ…!」
浸透するかのような声に、私は振り向く。
そこには、着物を着た女性の妖がいた。
目がある場所には、ハチマキのように布が巻かれていて見えなかった。
「このっ…!ぐぅっ…!」
「アルフ!」
「フェイト!何とか戻ってこれたのかい!?」
ずっと相手をしていたアルフが吹き飛ばされてくる。
…もしかして、私達が囚われている間、時間稼ぎしてくれたのかな?
「…厄介な相手です。相手の“見たくない記憶”を見せてくるなんて…」
…そう。私達は、幽世の門を見つけて、守護者と戦っていた。
ユーノ君がまだ追いついていないけど、ユーノ君はどうやら他の妖を戦っているようだった。念話で確認してみれば、負ける事はなさそうだったけど…。
とにかく、私達だけでも抑え込もうと、結界で隔離して、戦闘を開始した。
でも、守護者は私達の心を読んで、それで…。
「……っ……」
確かに、あの時は寂しかった。
でも、実際はそこまで孤独ではなかったはず。
……多分、幼い頃の私自身が、それほどの孤独感を覚えていたからだろう。
記憶の持ち主の、当時の感じ方によって、その脅威は増すって事?
「……一言言わせてもらうとしたら、とんでもなく、悪趣味ですね!!」
―――“サンダーレイジ”
仕返しなのか、リニスさんが砲撃魔法を放つ。
しかし、それはひらりと躱されてしまう。
「っ…?」
「フェイトとなのはに酷い事をした責任、取ってもらうよ!」
けど、すぐにアルフがチェーンバインドで捕える。
さらにリニスさんがバインドを追加して身動きを取れないようにする。
「―――人々に被害が出たのね」
―――“大樹の記憶”
「なっ…!?」
「これは…!」
守護者の体がまるで木が急成長するかのように膨れ上がる。
瞬く間に大きくなり、バインドは引きちぎられてしまう。
「……嘘、これって…」
「なのは、見覚えが…?」
「……ジュエルシードの、暴走体…」
巨大な木を見て、私はジュエルシードの暴走体を思い出した。
そう。これは、本当なら気づいていたのに、気のせいと思って街に被害を出してしまった、あのジュエルシードの暴走体だ。
「嫌…また街に被害を出したくない…!」
「なのは…!?っ、この…!!」
結界が張ってあるとはいえ、それが“絶対”とは限らない。
あの時の後悔を思い出してしまい、私はその場に蹲ってしまう。
「なのはさん!しっかり!」
「っ……!」
気配を感じ、咄嗟に飛び退く。
間一髪、私を狙っていた木の根を躱す事に成功する。
〈Master.I understand your feelings, but please concentrate on battle now〉
「う、うん…!」
…そうだ。結局はこれは偽物。
私が後悔したからこそ、見せてくるんだ。
……だったら、それを乗り越えなきゃ…!
〈Come!〉
「っ…!」
振るわれるいくつもの木の根。
…かつての時は、こんな攻撃はしてこなかった。
やっぱり、妖が見せている偽物だからちょっと違うのかな?
それとも、私が“見たくない”と思った事から、脅威が増しているのかな?
「これぐらい…!シュート!」
レイジングハートで木の根を逸らし、その反動で私は浮き上がる。
弾かれるように空中へと逃げつつ、魔力弾を放つ。
もちろん、それで倒せる訳じゃないけど、牽制にはなった。
「フェイト!アルフ!しっかり攻撃を見ればそこまで脅威ではありません!」
「っ……!」
「そのようだね…!」
確かに、リニスさんの言う通り、そこまで脅威がある訳じゃない。
ただ、規模が大きいため、結界外に被害が出るかもしれないというだけ。
だから、フェイトちゃんの素早さなら躱せるし、アルフさんも対処できる。
「バスター!!」
攻撃の合間を縫って、私は砲撃魔法を中心部に放つ。
以前も中心が弱点だったし、今回も守護者が中心にいるはずだからだ。
「っ、さすがに、防がれる…!」
でも、それは木の根が連なる事で、防がれてしまった。
おそらく、私には良く分からないけど、全体的に霊力が込められているから、以前の時のように簡単には突破できなくなっているんだと思う。
「なら…!『フェイトちゃん!』」
「っ!『リニス、アルフ!援護!』」
『了解!』
『わかりました!』
遠距離がダメなら、近距離で。
そう考えた私は、念話でフェイトちゃんに呼びかける。
すぐに意図を汲んでくれて、私達は中心部へと向かう。
ちなみに、この前アリシアちゃんに指摘されたから、指示を念話で行っている。……なんでも、声に出すと動きが読まれるんだって。優輝さん達の受け売りで言ってたけど、考えてみれば確かにその通りだよね…。声に出すとしても、合図だけにしておくべきだって教わった。
「レイジングハート、新モード、行ける?」
〈Of course〉
木の根を躱し、その根を伝うように駆ける。
同時に、レイジングハートに一つ尋ね、返事を聞くと同時に飛ぶ。
「よし、じゃあ行くよ!」
〈“Sword mode”〉
強くなるために鍛えるにあたって、私は体力だけを強化した訳じゃない。
お兄ちゃん達から刀の扱い方の基礎を教えてもらって、レイジングハートにそのモードを加えてもらった。
「(まだ使い慣れていないから、一撃だけ。これで突破口を開く!)」
手に現れるのは、メカメカしい一振りの刀。サイズは小太刀ぐらい。
もう一振りあるけど、二刀はまだ扱いきれないので鞘に収まっている。
「フェイトちゃん!」
「はぁっ!」
迫りくる木の根。それを私とフェイトちゃんで切り開く。
新モードのレイジングハートが展開する刃からは、魔力の斬撃が飛ぶ。
フェイトちゃんは元々飛ばせるため、二つの斬撃が一気に切り裂いていく。
「今!」
「いっけぇええ!!」
リニスさん、アルフができるだけ木の根の動きを止め、フェイトちゃんが斬撃で切り開いた道を閉じないように魔力弾で牽制。
そこへ、私が突貫する。
〈“Divine slash”〉
「ぁぁああああああああ!?」
魔力をしっかりと込め、斬撃を飛ばす。
元々砲撃系の魔法が得意だった私が、近接系の魔法を扱うにおいて、私は砲撃魔法に使う魔力を圧縮する事にしていた。
だから、見た目のシンプルさと違って、その威力は相当なものになっている。
「っ!……」
魔法が決まって、叫び声をあげる守護者。
追撃としてフェイトちゃんが攻めようとして……すぐに飛び退く。
寸前までいた場所を、霊術が薙ぎ払った。
私もすぐに間合いを取る。
「……なるほど…。過去の記憶を乗り越えるのね…」
「………」
守護者の姿は、少し直視しづらい状態になっていた。
さっきの魔法は直撃した訳じゃなく、腕を切り裂くように当たっていた。
だから、守護者は肩口からばっさりと斬られ、片腕が千切れそうな状態でダラリと垂れていた。…血も多く出ている。
「なら……!」
「っ、お二人共!」
「くっ…!」
何かをしようとして、リニスさんが声を上げる。
同時に、私達はさらに飛び退いて間合いを取った。
すると、守護者は私達を近づけさせまいと霊術を張り巡らせた。
「っ、これじゃあ、近づけないね…!」
「なら、撃ち抜いて…!」
「―――この記憶は、どうかしら?」
―――“星光の記憶”
その瞬間、桜色の光が集束し始めた。
「っ……!?」
「嘘!?あれって…!」
―――“Divine Buster”
「くっ!」
〈“Protection”〉
放たれた砲撃に対し、咄嗟に私が防御魔法で防ぐ。
……でも。
「(嘘!?破られる!?)」
「なのは!」
防御魔法はあっさりと破られ、辛うじてフェイトちゃんに助けられる。
……そっか、霊力だから、魔法を打ち破りやすいんだ。
「よりによって、あの時のなのはの魔法を…!」
「霊力なので魔法で生半可な防御では…!」
「……だったら…!」
このままだと、ほぼ確実に結界が破られてしまう。
防御ができないならと、私も魔力を集束させる。
キィン!
「っ!?」
「えっ!?」
「これは…」
「バインド!?」
その瞬間、私達全員がバインドのような霊術で拘束されてしまう。
「何も、ここまで再現しなくても…!」
「牽制の砲撃から拘束まで……容赦なさすぎるよ…!」
「…いや、それなのはがやった事だからね?」
「……あ」
……そういえば、そうだったなぁ…。
あれ?もしかして、これって私がフェイトちゃんにこんな事したから起きてるの?
「(それはそうと、本当にまずい…!このままだと…!)」
すぐにでもバインドを破壊しないといけないのに、それが出来ない。
フェイトちゃんの思い出補正でも掛かっているようで、凄く丈夫だった。
『皆!無事!?』
「『っ、ユーノ君!』」
その時、ユーノ君から念話が来た。
「『ユーノ君!今、どこに…!』」
『すぐ近く!状況は理解できたよ。……任せて!』
その瞬間、鎖がしなる音と共に大木や大岩が守護者に向けて飛んでいく。
同時に、チェーンバインドが私達を守るように周囲に現れる。
『ちょっと荒っぽいけど、我慢してね!』
「っ!?」
パキィイン!!
飛ばした大木と大岩で目暗ましをしている間に、ユーノ君が現れる。
そして、あろうことかユーノ君は、掠めるようにバインドだけを殴った。
それで瞬時にバインドを解いた。
「ユーノ君、いつの間にこんな事を!?」
「僕なりに強くなろうと思った結果さ!それよりも、アレに対抗するためになのはも魔力を集めて!」
凄い芸当をできるようになっていた事に私は驚く。
それに簡潔に答えたユーノ君は、そう言ってフェイトちゃん達の方にもいく。
……私を最初に解放したのは、ユーノ君も守護者のアレがまずいと判断したからだろう。……闇の書の時は、拡散型になってたけど、こっちはオリジナルそのままで集束型のままだからね。
「(攻撃は最大の防御…なんて、聞いた事あるけど、それを実践する事になるとは思わなかったよ…)」
霊力と魔法の相性から、完全に相殺と言う訳にはいかないだろう。
例え相殺できても、余波がある。
これは、同じ魔法で“対抗”するんじゃなくて、“防御”するんだから。
「ふぅー……」
魔力を集束させ、照準を守護者の方の桜色の光に合わせる。
すると、バインドが解き終わったのか、皆が傍に来る。
「……余波は僕とアルフで防ごう。フェイトとリニスさんは、下から砲撃魔法を撃って、何とかして上に逸らしてほしい」
「…あの砲撃の脅威を空へと逃がす事で、凌ぐ訳ですね。……相殺や防御よりは現実的ですね…」
ユーノ君の言葉に、リニスさんは納得する。
「来る!」
「っ……!」
集束が終わったのか、ついに守護者から砲撃が放たれようとしていた。
そして、私もそれは同じだった。
「“スターライト……!」
ガシャンガシャンガシャン!
「ブレイカー”!!!」
カートリッジが一気にロードされ、私の渾身の魔法が放たれた。
そして、魔力と霊力の違いはあれど、同じ魔法がぶつかり合う。
「っ、くぅううううううう……!!」
集束砲撃と集束砲撃がせめぎ合う。
だけど、明らかにこっちが押されている。
当然と言えば当然だよね。こっちは溜めが短かったし、何より相性がある。
「ちょ、ちょっとぉ!?わかってたけど、余波だけでとんでもないよ!?」
「何とか堪えるんだ!っ……!」
私やフェイトちゃん達を余波から庇うユーノ君達も、随分と苦しそうだ。
……あの時、すずかちゃんとアリサちゃんを庇っていた司さんも同じだったのかな?
「フェイト!」
「うん……!」
砲撃同士がぶつかり合い、魔力が吹き荒れる中、リニスさんの声が響く。
あまりの激しさに関係ない事を考えていた私の意識も目の前に引き戻される。
「雷光一閃!!」
〈“Plasma Zamber Breaker”〉
「“プラズマセイバー”!!」
何とか持ちこたえている所へ、下から持ち上げるように砲撃が放たれる。
どちらも全力で放ったのだろう。守護者のスターライトブレイカーは僅かに上に逸れ、そのまま大空へと消えていった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
「な、何とかなったのかい…?」
「……おそらくね」
……ここまでやって、ようやく“逸らせた”。
正直、私もほぼ限界だった。それほどまでに、霊力による私の魔法は驚異的だった。
「……あら、凌がれたわね。なら、もう一度…」
「させないよ」
脅威を凌いだ事で、油断していた。
守護者はまだ普通にいる。そして、またあの砲撃を放つ事ができる。
けど、それはユーノ君のバインドで防がれた。
「周囲に霊術…厄介だけど、僕のバインドとは相性が悪いようだね」
「っ……!」
ユーノ君は落ち着いた様子で守護者の周囲に設置されていた霊術の罠を、あろうことかチェーンバインドを複数放って包囲する事で全て相殺した。
「―――…ふふ、暴走した闇が世界を呑み込もうとしたのね…!」
「っ、これは…!?」
―――“闇の記憶”
だけど、その瞬間に守護者は変貌した。
……私達全員で倒した、あの防衛プログラムに。
「……ふふ、ふフふフフ、あははハハはh■■!」
「ちょ、やばいよこれ!?」
「っ、人数が足りないけど、あの時と同じように!」
「うん!」
さすがにロストロギアである闇の書の力を、そのまま再現はできないと考え、私達は一気に行動に出る。
「“ケイジングサークル”!!」
「(まずは、邪魔な触手を撃ち落とす!)」
ユーノ君がバインドでその場から動けないようにする。
すかさず私が魔力弾を放ち、触手で攻撃されないように撃ち落とす。
「でりゃぁあああ!!」
触手の攻撃の心配がなくなった所へ、アルフが攻撃に向かう。
同時に、援護射撃をリニスさんとフェイトちゃんに任せ、私も駆ける。
「せぇええい!!」
〈“Divine slash”〉
四層の障壁も再現しているらしく、アルフの攻撃は受け止められた。
でも、すかさず放った私の斬撃で、まず一層目が破壊される。
「“サンダーレイジ”!」
さらに、リニスさんが砲撃魔法を放ち、二層目を破壊する。
そこで、私達は本来の防衛プログラムよりも障壁が弱い事に気づく。
「やっぱり、本物には及ばないねぇ!!」
「ぁァあああアアアああああアアああアアアアア!?」
「一発でダメなら……何発でもぶちこんでやるよぉ!!」
三層目は、アルフの追撃が何回も決まった事で破壊される。
「はぁああああ!」
〈“Jet Zamber”〉
「ラスト!」
〈“Divine Buster”〉
そして、私とフェイトちゃんで最後の障壁を破壊する。
ユーノ君が動きを抑え、交代しながら援護射撃で妨害をしたことで、あっさりと障壁を破壊しつくす事ができた。
「動きは私が止めます!今の内に魔力を溜めて下さい!」
「リニス!」
優輝さんから貰ってあった魔力結晶を携え、リニスさんが突貫する。
構えるは三つの魔法陣。放たれるのは三つの雷。
三つの魔法を一気に叩き込むリニスさん最大の魔法だ。
「“三雷必殺”!!」
「ぉォぉぉォおおおおオオあああああアアアアあ!?」
「今だよなのは!フェイト!」
三つの魔法が叩き込まれて、守護者は雷に焼き尽くされる。
同時に、ユーノ君とアルフがバインドで身動きを封じる。
「本日二発目!……行けるよね?」
「うん…!」
「せーの!」
―――“Starlight Breaker”
―――“Plasma Zamber Breaker”
私達の渾身の魔法が叩き込まれる。
あの時よりも、遥かに威力は劣るけど、これで……!
「っ……?待って!何か様子がおかしい!」
「え……?」
ユーノ君が何かに気づき、慌てる。
警戒しようと、私達は注意を向けたその瞬間……。
「……!?こ、これこれコココレレレ!?」
―――“全ての負の記憶”
“闇”が溢れ出し、私達の魔法を押し退けてきた。
その衝撃波に私達は吹き飛ばされてしまう。
「か……はっ……!?」
近くにあった木に叩きつけられ、息が無理矢理吐き出される。
一体、何が……!?
「嘘!?あれは……!」
忘れられない、いや、人がいる限り忘れてはならない存在。
生き物の“負”の感情、エネルギー全ての、集合体。
文字通りの、この世全ての悪……!
「アンラ・マンユ……!?」
再現だというのは、わかる。
でも、あれは司さんでも全力でやって勝てるか分からないロストロギア。
あの場にいた全員の力を振り絞って、ようやく勝利を掴み取った存在。
……そんなのが、再現されたら…!
「っ!」
とにかく、同じ場所に留まっていたらダメだと思い、空へと飛ぶ。
同じように、皆も飛んできた。
「あれすらも、再現するって言うのかい…!?」
「……いや、あれは再現とは言えない。明らかに、自滅している…!」
「あまりにも強大な力に、自身が耐えきれない訳ですね。…憐れな」
一度大きく広がった“闇”は、段々と小さくなっていく。
多分、自滅して行ってるからだと思う。
「…でも」
「っ!」
けど、だからと言ってそのまま終わる訳ではない。
自滅すると言っても、半分暴走しているようなもの。
本物より圧倒的に劣っているとは思えない程の、“負”のエネルギーが私達を襲う。
「『防御魔法で防げると思わないで!射撃、砲撃魔法で逸らす事を意識しつつ、回避に専念!絶対に被弾は避けて!』」
「『う、うん!わかった!』」
ユーノ君から、指示を出される。
アンラ・マンユと違って、こっちは霊力混じり。
だから、全力の防御魔法でもすぐ破られるかもしれない。
「くっ……!」
空中で身を捻らし、何とか“負”のエネルギーによる触手を躱す。
姿勢制御が追いつかないと悟った私は、地面で躱す事にする。
「(自滅すると言っても、こっちからも攻撃して怯ませた方が…)」
躱すだけと言うのは、ちょっと厳しいものがある。
砲撃魔法や射撃魔法ならともかく、触手のようにうねる攻撃を躱し続けるのは非常に難しい。…現に、フェイトちゃん以外は躱すのが厳しそうだ。
「(それに、攻撃した方が、早く倒せる…!)」
自滅するにしてもしないにしても、そうした方がエネルギーを削れる。
そう判断した私は、魔力弾を用意して放つ。
〈Master!!〉
「っ!」
そこで、迂闊な真似をしたことに気づく。
確かに守護者に命中はした。だけど、そのせいで攻撃が私に集中する事になる。
「なのは!?」
「しまった……!」
地面、木々を蹴って何とか攻撃を躱し続ける。
けど、さっきよりも激しくなった攻撃を、躱し続ける事は無理だ。
「“ディバインバスター”!!」
バチィイッ!
躱しきれなくなった所で、砲撃魔法を放つ。
触手とぶつかり合うけど、押されてしまう。
…それに、私を狙う触手はそれだけじゃない。
「っ……!」
「させない…!」
「させるもんか!」
咄嗟に駆け付けれたフェイトちゃんが砲撃魔法で、ユーノ君がバインドと防御魔法を併用して凌ぐ。
「あ、ありがとう!」
「持ち堪えて…!後、少し…!」
でも、それも長続きしない。
守護者を包む“闇”も、ごく僅かだけど、どっちが先に力尽きるか…。
「(……ううん、こんな所で、立ち止まってたらダメ!もっと…前に!!)」
ガシャンガシャン!
カートリッジを二つロードして、拮抗しているのを抑え込む。
同時に、守護者も力が衰えて出力が弱まる。
「凌ぎ……切った!」
「っ、はぁっ、はぁっ、はぁっ…!」
何とか攻撃を凌ぎきり、守護者の最期を見届ける。
リニスさんとアルフも攻撃を躱しきったのか、無傷でこっちに来た。
「……ぁ……ァ……」
「…まだ、何かに変異しようって言うのかい!?」
「もう死に体だ。例え何に変わったとしても、終わりのはず…」
守護者は、最後の最後に何かに変わろうとする。
でも、ユーノ君の言う通り、今更何に変わった所で、もう終わり……。
「…………ぇ………?」
そう思った瞬間、頭を打ったかのような衝撃に襲われた。
自滅する寸前、守護者の姿が変わる。
それは……。
「……ナに、こ……レ…」
―――“■■の記憶”
………まるで、“天使”のようだった。
「―――ァ―――」
……その瞬間、守護者は力尽きて消えてしまった。
「……終わったみたいだね」
「一体、最後に何に変わろうとしたんだろう?」
「さあねぇ。変わる前に消えたんだから、考えても仕方ないよ」
「(……え?)」
ユーノ君達の言葉に、耳を疑った。
……まるで、あの“天使”の姿が見えていなかったかのようだった。
「…どうしたのなのは?」
「え、あ、その……最後、“天使”みたいな姿にならなかった?」
「……?ううん、そうは見えなかったけど…」
「………」
心配してきたフェイトちゃんに聞くけど、見えなかったらしい。
他の皆も同じみたいで、やっぱり私だけにしか見えていなかった。
「(……どう言う事…?)」
まるで幽霊を見たような気分。
あの“天使”のような姿には、一体どんな意味が…。
それに、私にしか見えなかったのは一体…。
「っ、待って!幽世の門が…!」
「瘴気が止まらない…!?」
思考を遮るように、ユーノ君が何かに気づく。
そこには、幽世の門の瘴気が止まらずに溢れてきていた。
「もしかして、守護者が自滅するような事になったから…!?」
「じゃ、じゃあ、閉じないと!でも、どうやって……!」
「“妖捕結界”!」
咄嗟に、ユーノ君が結界を門の周りに張る。
「それは…!?」
「妖の生態を調べてね…!これなら、霊力の類でも結界内に取り込める。……でも、これでもダメみたいだ…!」
霊力の類…つまり、門から溢れる瘴気も取り込める。
それを利用して押し留めてるけど…長続きはしないみたいだった。
「どうすれば…!」
瘴気を祓う方法を、私達は持ち合わせていない。
途方に暮れたその時……。
「後ろから、失礼します…!」
―――“刀奥義・一閃”
背後から誰かが駆け抜け、門へ向けて刀が振るわれた。
「……はっ!」
刀の一撃で瘴気が切り裂かれ、門へ向けてその人は霊術らしきものを放つ。
そして、門は閉じられた。
「貴女は確か……」
「小烏丸蓮と名乗っています。アリシアとは仮契約している身です」
「あの、傷は……」
そうだ。この人は何者かに斬られて、瀕死だった人……。
傷自体は治ったってアリシアちゃんが言ってたけど…。
「傷ならご心配なく。体も全快とはいきませんが、門を閉じるぐらいならこの通り」
「…そうですか。…ありがとうございます」
何はともあれ、私達は助けてもらえたみたい。
その事で、リニスさんがお礼を言う。
「いえ、私も式姫の一人。……このような事態に、じっと回復を待つだけというのは、我慢できません」
「…とにかく、一旦アースラに戻りましょう。フェイト達には仮眠も必要ですし、何より今回の戦闘で消耗が大きすぎます」
「……そのようですね」
私達の様子を見て、蓮さんも同意する。
とりあえずは、一旦帰還するようだ。
―――……結局、あの“天使”の姿は、なんだったんだろう……?
後書き
覚妖怪…美濃(岐阜県)にあった城跡の門の守護者。相手の心を読み、トラウマや記憶などからそれを再現する。ただし、自身の力を大きく超えた存在を映しだすと、自滅する。かくりよの門でも主人公自身も知らない妖(八岐大蛇)を映しだし、自滅した。(一応自滅前に倒す事ができる)
孤独の記憶…なのはの幼い頃の寂しさを表した記憶。孤独を知らない人(今回はリニスとアルフ)には効かないが、効く場合は途轍もない孤独感に襲われる。
大樹の記憶…アニメ三話のジュエルシード。油断して街に被害が出てしまった事から、なのはが“二度と見たくない”と思っているため、それを映しだした。
Sword mode…レイハさんの新形態。原作よりも強くなりたいと、基礎体力及び御神流を鍛える事にしたなのはに合わせて増えた形態。小太刀二刀を展開する、近接戦用の形態。一刀にも変化させる事ができ、基本的にこちらを扱う。
Divine slash…ソードモードで放てる近接魔法。一見、威力はそこまでないように思えるが、実はディバインバスターを圧縮して斬撃として放っているようなものなので、その威力は侮れない。
星光の記憶…皆大好きSLB()。その記憶。フェイトが初めて受けた際の記憶なため、トラウマ刺激&絶望感が強い。しかも牽制のディバインバスターとバインド付き。
闇の記憶…闇の書の暴走体の記憶。再現しきれていないが、その力は凄まじい。
全ての負の記憶…アンラ・マンユの記憶。当然再現できない。かくりよの門での覚と同じように、時間が経てば自滅する。
■■の記憶…覚が最後に変わった姿。なのはが見た通り、まるで天使の少女ような姿をしていた。…が、すぐに力尽きたため、どう言った記憶かは不明。
容赦のない精神攻撃の連続。それが覚妖怪です。
なお、なのは達は終ぞ守護者が覚妖怪だとは気づかなかった模様。
ユーノが行ったバインドブレイクは、以前優輝に教えてもらった魔法運用の応用です。術式を破壊するように魔力を徹している感じです。
ページ上へ戻る