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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's~STS編
  第百九話 魔導師ランクの獲得

 クロノを倒した後、特に問題なく制限時間内にゴールを通過した士郎は試験結果の通知を待つため、控え室で窓から外を眺めて待っていた。

「失礼します」

 試験官を担当していたエイミィが控え室に入ってくる。
 その後ろからは意外な人物が少し疲れた顔をして入ってくる。

「士郎君、試験お疲れ様」
「試験、お疲れ様でした」
「ありがとうございます。
 あとご無沙汰しております、エステート三佐」

 エイミィが事務的ではなく普段の口調であったが、エステートが来る事は士郎にとって予想外の事なので、事務的な口調で挨拶をする事にしていた。

「普段の口調でいいですよ。
 ここには私達だけですから」
「わかりました。
 そういうことでしたら他に覗いている人は無視します」

 一瞬、エステートの背後に視線を向けて放たれた言葉に空気が揺れるもそれがわかるのは士郎のみ。

 隠れている者達はただのブラフだと反応するのも一瞬で直ぐに息を潜める。

「それにしてもエステートさんがわざわざに来るとは思いもしませんでしたが」
「私が来たのは評価理由の説明と少し質問があったので、先に試験結果の通知からしましょうか」

 エステートの言葉に頷くようにエイミィが端末を士郎に差し出す。

「はい、というわけで無事に魔導師ランクの取得完了です。
 といっても士郎君の事だから魔導師ランクは取得できるのはわかっていたと思うけど」
「ええ、今回の試験はあくまで俺の戦闘能力の把握目的。
 戦闘規模ランクを測れれば、途中脱落でも魔導師ランクは与えるつもりだったと予測してます」
「士郎君の考え、大当たり」

 差し出された端末に表示される士郎の試験結果は

「魔導師ランクは陸戦B、戦闘規模ランクは陸戦S+ですか」

 喜ぶでもなく淡々と受け入れる士郎。

 魔導師ランクは魔力量がB以上A未満程度といわれていたので士郎自身予測していた通りである。

 戦闘規模ランクの評価内容はエステートが補足するように説明を始めた。

「今回の試験ですが、士郎君の予想通り、陸戦Bランクではクリアできない難易度でした。
 故にある程度の戦闘能力が確認できればゴールできなくても魔導師ランクを与えるつもりでした。
 もっともこちらの予想を裏切ってクリアされてしまいましたが」

 士郎のことを過小評価した管理局の問題なので、士郎は苦笑で返す。

「戦闘規模ランクの評価として一対一の戦闘、一対多の戦闘、空戦・陸戦魔導師を問わない戦術及び戦闘技能。
 何より部隊相手でも被弾無しが一番の+評価です。
 後は空戦魔導師との戦闘も屋内に追い込んでの戦闘の為、陸戦のみの評価です。
 こちらの予定としては空戦能力も見て、総合ランクとして評価したかったのですが、戦闘内容の指示がなかったので、こちらの落ち度ですね。
 何か疑問点や評価内容についてありますか?」
「いえ、特にありません」

 士郎が使用した魔導は実体弾型の魔力弾に魔力を纏った近接戦闘。
 弓の弾幕は目を惹くがやっている事はそれほど魔導師として特別な技ではない。 

 今回士郎と戦った魔導師達も十分に扱えるし、クロノや隊長クラスの魔導師に鳴ると士郎には扱えない魔法を使いこなす。

 だが結果は士郎の完勝。
 対人戦闘能力の格の違いを見せ付けた形だ。

「ならこちらから良いですか?」
「ええ、どうぞ」

 それ故に評価内容に対する受講者側からの質問ではなく、試験官側から戦術の質問。

「空戦魔導師と陸戦魔導師との戦闘試験の際、なぜあの戦い方を選んだのですか?」
「両部隊共に杖からミッドタイプの遠距離魔導師であることはわかっていましたので相手の射程外からの狙撃又は近接戦闘にするつもりでした。
 そして、両部隊共に一対多の状況で正面から撃ち合う気はないので近接戦闘では個別撃破。
 空戦魔導師は空での高機動が持ち味ですので屋内に下ろしてしまえばそれだけで機動力は激減します。
 陸戦魔導師は固定機銃のような役割なので視界を奪う事で同士討ちの危険を起こし撃たせない状況を作ればこちらのものです」

 その質問に対して一切の淀みの無い回答。
 相手の装備から戦闘スタイルの予測、相手の人数からの戦術選択、相手の苦手な状況に持ち込む技術。

 士郎の一番警戒しなければならないのは魔導でも、魔術でもなくこの戦闘判断能力である事を管理局に知らしめた形であった。

「ちなみに視界が悪い中での正確な相手の把握は魔術ですか?」
「いえ、魔術でもなんでもない単純な気配察知の技術です」
「気配察知?」
「ええ、そこに居る相手の気配を感じ取る魔術でもなんでもないものです」

 魔術でも魔導でもなく相手の気配を察知する。
 武術などで聞いた事はあれどこうして実際に教えられるとエステートとエイミィも驚くしかない。

 そして、それはエステートの背後からこの部屋を覗いている者達も同じである。

「魔術でもなんでもないことに驚いたみたいですね。
 隣の部屋の方も」

 最初に「そういうことでしたら他に覗いている人は無視します」と言っていたのがブラフではなく、気配を察知しはじめからばれていたとは思ってもいなかった者達からすれば驚愕でしかない。

「……よくわかりました。
 改めて魔導師ランクと戦闘評価ランクの取得おめでとうございます。
 本日の試験はこれで完了です。
 本格的に共に働ける事を嬉しく思います」
「ええ、こちらこそわざわざありがとうございます」
「エイミィさんも試験官お疲れ様」
「いえいえ、とんでもないです」
「私は残ってもう少し話す事があるから先にあがって頂戴」
「は、はい、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」

 エステートに見送られ控え室を後にするエイミィと士郎。



 退出した二人を見送りエステートが疲れたようなため息を吐くと共にエステートの背後の壁が無くなり、隣の部屋と一体となる。

「これで満足ですか?」

 エステートの視線の先にはリンディ、レティ、グレアム、リーゼ姉妹、そして士郎と面識の無い二人の管理局員。
 その二人の階級章にはそれぞれエステートと同じ三佐と二尉を示すものがあった。

 この二人、魔術師に対してタカ派の者達である。

 タカ派とハト派共に様子見のこの状況で交友があるのは嘱託になる前から直接面識のある者達か、派閥を気にしない現場の局員達ぐらいである。

 そして、嘱託前から交友がある者達はハト派であり、士郎の意思を尊重する。
 そんな中で士郎とのパイプが出来れば派閥の中でも発言力が増す。

 そういった思惑もあり、士郎の試験結果を伝える場で士郎の不満や脇のあまい所を見極め、接触の切っ掛けを見つけようとしたのだ。
 ちなみにリンディ達はいきなり隠れている壁をなくすなどの行動がないか監視も兼ねて同席していた。
 そして、結果は

「そちらが何を目的に態々このような事をしたのか問いはしません。
 ですが、衛宮士郎嘱託魔導師が管理局に不信感は感じたでしょう。
 そのあたりの事を改めて意識いただくよう重ねて依頼いたします」
「……了解した。
 此度の件はこちらの不手際だ。
 失礼する」

 士郎に初めから存在がばれて、士郎に警戒感を抱かせるような状況である。
 無論、士郎からすればこの程度で警戒度を上げるようなことではないが、管理局からすれば互いの派閥の不手際を指摘する材料になる。

 内心で歯を食いしばり不手際と認めることだけが残された行動であった。



 退出した士郎とエイミィはというと

「えっと、改めてランク取得おめでとう」
「ありがとうございます。
 最後、予想外のことがありましたが、無事に取得できてよかったです」
「あはは、私達からすればアレだけの戦いをしながらまだ余裕がある士郎君が怖いぐらいなんだけどね」

 士郎の戦いぶりに苦笑を返すしかないエイミィ。

 そんな二人の前に待っていたのだろう一人の大柄の男性が姿を見せる。
 男性の正体を知っているのだろう。
 エイミィの表情が僅かに歪む。

 そして、士郎も男性には見覚えがあった。

「先ほどは試験を担当頂きありがとうございました。
 希少技術管理部魔術技術課、衛宮士郎嘱託魔導師です」

 正規の局員と遜色ない敬礼をする士郎にあわせて、エイミィも敬礼をし

「地上本部陸戦隊、ブラム・ファーゴ二等陸尉だ。
 二人とも私の部下というわけではない楽にしてもらいたい」

 答礼を返すブラムに敬礼を止め、自然体に戻る士郎とエイミィ。

 嘱託という正規の局員ではない士郎が気を使う必要がないといえばないのだが、気を利かせたのだ。

「それでファーゴ二尉は私達を待っていたようですが、何か御用でしょうか?」

 試験の際に士郎に一方的にやられた陸戦隊のしかも隊長が出てきたのだ。
 警戒するなという方が無理がある。

「エイミィ・リミエッタ執務官補佐にでなく、衛宮士郎殿に用がある。
 時間をいただけるかな?」

 士郎のみの個別指名にエイミィが更に警戒度を上げるが

「かまいません」

 平然と返す士郎にエイミィが視線を向ける。
 だが、士郎はエイミィの心配を知って尚、受けているようで静かに頷いてみせる。

 どうするべきかと僅かに悩むエイミィだが

「別に二人きりにして貰いたいわけではない。
 エイミィ・リミエッタ執務官補佐にも立会いいただいて構わないし、少し確認だ。
 すぐに済む」

 ブラムの言葉に納得したように数歩下がるエイミィ。

「時間を無駄に使わせるわけにいかぬ故、単刀直入にお聞きする。
 衛宮殿に陸戦隊の近接戦闘の教導をお願いしたいのだが可能か?」
「「はい?」」

 あまりに予想外の質問に士郎もエイミィも目を丸くしてしまうのだった。 
 

 
後書き
本当にご無沙汰しております。

前回の更新から八ヶ月も経ってるんですね。
……長すぎだよ、私

ゆっくり休暇取れたので、久々に執筆できました。
内容的にはほとんど進んでおりませんが・・・

会いも変わらずぼちぼちやっていきますので、宜しくお願いします。

ではでは 
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