世界をめぐる、銀白の翼
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第七章 C.D.の計略
動き出す魔人
時は巻戻る。
アギト・津上翔一のもとに、氷川誠が倒れされたと連絡が入ったその日にまで。
すでに季節は梅雨を終え夏になりつつある頃。
今年も暑くなりそうな予感を感じさせながら、今日も太陽が真上から照らしてる。
太陽の熱は、舗装されたアスファルトに反射して足首あたりをゆらりと歪めた。
炎天下とは言えずとも、気怠くなるような暑さを抱えた地方都市・綾女ヶ丘に、一人の青年がやってきていた。
「なぁ渡ぅ・・・どっかよ、涼しいとこ行こうぜ・・・」
「まって。なんかこの辺にあるかも・・・・・」
街中をきょろきょろと見回しながら撃とうと進むこの青年は紅渡。
言わずと知れた「キバの鎧」の継承者であり、ファンガイア族当代の王である。
その近くをパタパタ飛びまわるのは、彼の従者的存在であるキバットバットⅢ世なのだが、いつも元気に飛び回る彼でも、この猛暑の下ではややバテ気味だ。
とはいっても、渡の足もフラフラとしていておぼつかない。
何せ朝からこの綾女ヶ丘にきて、バイオリンのよりよい光沢と色彩のための素材を探しているのだから。
ちなみに時刻はもう午後の四時。
休みなしのノンストップでの捜索は、いかに彼でも脳みそに限界が来る。
そんな状態な彼の頭の中は
(ブラッディローズの色・・・ブラッディローズのいーろ、いーろ・・・・・ぶらっでぃろーずのいーろ・・・・)
みたいなことになっている。
どうしてこんなになるまで放っておいたんだ。
「キバット!!これどう!?」
「バカ野郎ォォオオオオ!!そんなペンギン村にしかないような棒付の~~・・ッアン、なんて持ってくんじゃねェェェエエエエ!!」
ホント、どうしてこうなった。
ともあれ、キバットだってもう限界。
今日はもうやめにして、どこかで休まないと渡の身体だって危険だ。
明日の朝の朝刊で「ファンガイアの王、脱水症状で倒れる」なんて見出しが出た日には、友人知り合いからいい笑いの種だ。
脱水症状ってホント怖いからな。
喉が乾いたって時点でもうすでにそれは危険信号だから。
みんなも夏のイベントとかでトイレ行くと列抜けるなんてことになるから、最初から何も飲まないとか考えちゃだめだぞ?
ど真ん中で倒れた時の車椅子の搬入とかマジで大変なんだからな!!
気持ちはわかるけど、そこまでして命かけるなよ!?
「うゆ?渡さん?」
と、ふらつく渡に声をかけたのは、ここ綾女ヶ丘市在住の水奈瀬ゆかである。
幾度か「EARTH」の作戦に参加したことのある彼女だ。あまりかかわりが深いわけでもないが、渡の姿はどこかで見たことがあったのだろう。
「ん?あれ、ゆかちゃん」
と、渡はその声に反応してクルリと反転する。
ココだけなら普通の遭遇シーンだが、まあ今の渡は前述通りの状態なわけで
どうも、なんてゆかが手をひらひらさせた瞬間、明日がもつれてその場にクラリと揺れて、そのままバタリと倒れてしまった。
「きゃー!?わ、渡さーん!?」
「やっべ、これやっべ。おい嬢ちゃん、どっかここらで休める場所あるか?」
「あ、はい!えっと・・・・じゃあ・・・・」
キバットの問いに、即答するも言葉を詰まらせるゆか。
最終的には渡を連れて、彼女はなじみの店へと足を運んだ。
彼女のバイト先でもある、ツィベリアダへ。
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「で、今に至ると」
「うん、今お店大丈夫だったかな?駆くん」
ところ変わってツィベリアダ。
そのボックス席で顔を上に上げてぐでっとしている渡を横目に、カウンター席でそんなことを話すゆいの相手は皐月駆。
予知能力を持ち、その未来を手繰る魔眼を持つ少年だ。
今日は彼だけバイトの日らしく、オーナーも店を任せてどこかに出てしまっている。
実質貸し切り状態だ。
「まあ「EARTH」のほうに連絡入れたから、たぶん誰か迎えに来るよ」
「おう、たすかったぜ~。俺一人じゃ家まで渡連れてけないし」
「でもゆか、よくあの人ごみの中で渡さん見つけたな」
「うーん、正直蝙蝠さん居なかったらわかんなかったよ?」
「「え」」
彼女は気づいていない。
裏を返せば「渡個人だとよくわかんなかった」ということに。
「ていうか、「EARTH」の人たちってほかが濃すぎて・・・・」
「ああ・・・・」
否に納得してしまう二人。
確かに「EARTH」、しかもライダー勢は個性的な人が多すぎる。しかも強烈なほどに。
だがこの少女、そんな渡をキバットと協力してズルズルとここまで引き摺ってきたのだ。
よく誰にも声かけられなかったな。というかあまりにもシュールな絵である。
「ふう、じゃあそろそろ店締めるか」
「あれ、今日は早め?」
「黒田さんがいないから、今日は早引きなんだ。先帰ってるか?」
「うぅん。待ってるよ」
そんなことを言いながら、夕焼けに沈んでいく外の光の中で店じまいの片づけを進める二人。
そして、最後のほうになって
「あー」
「あぅー」
渡のことを思い出した。
よほど疲れたのか、ぐっすり眠っている。
外はいまだに夕焼けで赤いが、多分すぐに暗くなるだろう。
「どうしよっか?」
「とりあえず起こすか」
あっさりと結論を出して、渡の身体を揺する駆。
すると、その瞬間かれの目に何かのビジョンが飛び込んできた。
襲い掛かる獣のような怪物と、立ちはだかるようにして構えるキバの背中。
真っ赤な背景の中、あまりにも膨大なエネルギーを蓄えた怪物が、キバの身体を吹き飛ばす―――――
「ッッ!?」
「え?駆くん!?」
「ん?どした?」
あまりにも衝撃的な光景に思わず手を放す駆。
その様子を心配そうに見るゆかと、肥を駆けるキバット。
ともあれ、今の光景は彼の魔眼――劫の目によるものだろう。
ということは、あれは未来の光景。その可能性のうちの一つということ。
しかも自分の目がそれを見たということは、かなり高確率で起こりうる光景だということだ。
「ハァ・・・ハァ・・・・ッく」
いきなり飛び込んできた情報を頭で整理し、ひとまず彼らに説明しようと口を開く駆。
だがそれは、いきなりやってきた来客によって阻まれる。
カランカラァン、という、喫茶店という空間においてはあまりにも日常的な入り口ドア開閉の音。
だが駆はその音に強い不快感を感じた。
駆の耳にその音は、まるで無理やり「日常」というものをねじ込んできたかのような違和感しか感じられないのだ。
「ふむ。外の看板には閉店は7時だとあるが?」
「あ、ごめんなさい。今日はオーナーがおやすみで閉店速くて――――」
来店してきた男―――Gパンに半そでシャツ、そして両手に指だしのグローブを嵌めた男は、あまりにもこの空間に似つかわなかった。
たとえどんな時間帯でも、一人でこんな店に来店するような輩ではない。
そんな男にててて、と近づき謝罪を述べるゆか。
そのゆかを駆は
「下がれッッ!!」
「え?」
「おしい」
ゆかの胸が裂けていた。
正確には、ゆかの服の胸の部分が、だ。
瞬時にその肩を引いた駆によって、男の爪は彼女の身体を抉ることなく空を切り、その服を裂いたにとどまったのだ。
「え?え?」
状況が呑み込めないゆか。
突如として沸いてきた、切迫するこの状況に呼吸が荒くなる駆。
見ると、男の指先は揃い、鋭く尖っていた。
ビキビキと変質するそれは、彼の正体が人間ではないことを容易に想像させる。
「いや、惜しい」
「お前・・・いったい何のつもりだ!!!」
「・・・お前も魔石持ちか」
「なに?」
男の顔には、特別表情というモノはない。
それは彼が無感情だからではなく、彼ら人間に対して持ち合わせる感情がないからだ。
たった今ゆかへの攻撃を失敗したことに対しても「買い物中、品物に手を伸ばしたけどうまく取れなかった」程度弐しか思っていない。
「うーむ、お前ひとりからでもいいが、やはり数が多いに越したことはない、か」
「おまえ・・・何言ってるんだ?」
「まあいい。俺の言葉はわかるな?人間。その魔石、取るぞ」
まるで当然のごとく言い放つ。
自分にそれができないはずがないと。
それは自惚れでもなんでもなく、彼の確固たる自信によるもの。
そして、おそらくそれは実現するだろう。
もしも、彼がいなかったら。
ガキン!!
「む・・・・なんだ貴様」
「へっ!!何のつもりか知らねーけどな、暴れるってんなら相手になるぜ!!」
「キバット族・・・・」
キバットのアタックに、小さな火花を散らして男の手がぶれる。
その姿を見ての男の発言からして、彼は何らかの魔族なのだろう。
「では、まさかここに?」
そしてこの発言。
それを裏付けるかのように、一人の青年が告げた。
「その子たちは僕の友達だ」
「ガブッ!!」
「何のつもりか知らないけど、傷つけるなら相手になる」
青年の手にキバットが噛み付き、その身体に皇魔力が注がれる。
周囲になるのは、笛のような高音。
彼がその従者を手にし、そこに止めつけ叫ぶと
「変身!!」
「キバ・・・ファンガイアの王か!!!」
ファンガイア王族のためにあつらわれし、王位継承の鎧・キバ。
その装甲を纏った渡が、男の前に立ちふさがる。
「一体何が目的なんですか?」
「そんなことは決まっている」
キバの問いに、男が猛る。
静かに踏み込み、牙を剥き出し、爪を立たせて
「我ら一族、レジェンドルガの繁栄のために、消えてもらうぞファンガイア!!!」
標的を変え、キバに襲い掛かる男。
店の外は、真っ赤に染まっていた。
to be continued
後書き
ということで今回はキバ編!!
渡
「次回、謎の男の正体とはいったい!?」
ではまた次回
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