真田十勇士
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巻ノ百十八 方広寺の裏その十一
「有り得まするぞ」
「やはりそうですか」
「何とかしなければ」
「わかっていますが」
「何となればです」
崇伝も戦を避けたく申し出た。
「拙僧がです」
「大坂にですか」
「参りますが」
「それがしもです」
正純も身を乗り出す様にして申し出た。
「戦を避けるべしというのは大御所様のお考え」
「だからこそです」
「何ならです」
「大坂に参上しますが」
「いえ、その様なことをされては」
片桐は申し出た二人を両手を前に出して慌てた顔で止めて述べた。
「お二人がです」
「危うい」
「そう言われますか」
「はい、急に何者かにです」
幕府を快く思っていない者達がというのだ、大坂の中でも特に。
「襲われるやも知れませぬ」
「そうなれば」
「全くですな」
正純も崇電もその場合はどうなるか、切れ者達であるが故にすぐにわかってそうして応えた。
「終わりですな」
「それこそ戦になってしまいます」
「幕府と大坂が」
「その時点で」
「ですからそれはです」
どうしうてもというのだ。
「無理かと」
「では、ですな」
「ここはですな」
「片桐殿がですか」
「何とかされますか」
「正直に申し上げて自信はありませぬ」
茶々を説得すること、それはというのだ。
「しかしです」
「それでもですな」
「何とかされるおつもりですか」
「切支丹のことは」
「絶対に」
「そのことご期待下さい」
こう正純と崇伝に言った、しかし。
ここでだ、その片桐の顔を見て崇伝はあることに気付いた、そのうえで片桐本人にいぶかしむ顔で問うた。
「片桐殿、まさか」
「何でしょうか」
「貴殿病を得ておられませぬか」
こう聞いたのだった。
「それもかなり危うい」
「それは」
「表には出ておりませぬが」
「そういえば」
ここで正純も気付いた、それで彼も言った。
「貴殿何か弱っている感じですな」
「これまでは畏まってと思っておりましたが」
「どうにも」
「それは」
「正直に申されよ」
これまでとはうって変わってだ、崇伝は片桐に穏やかな声で言った。
「このことは」
「正直にですか」
「拙僧とて坊主、こうしたことは誰にも言いませぬ」
「それがしもです」
正純も約束してきた。
「誰にも言いませぬぞ」
「そうですか」
「天に誓って」
正純は嘘を言っていなかった、謀は確かに使うが今は実際に心から約束していた。片桐もそれを見てだった。
暫し考えたが二人に意を決した顔で言った。
「どうも腎虚らしく」
「では加藤殿、浅井殿と同じく」
「花柳からですか」
「どうやら、その病で」
この死に至る病の為にというのだ。
「身体も辛く」
「今もですか」
「そうでしたか」
「大坂では誰にも言っておりませぬ」
片桐は二人に言った。
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