普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
219 〝魔法ケイドロ〟
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
始めての≪プロメテウス≫の会合から約二週間。今はクィディッチ・シーズンなので、タイミングこそまちまちであったが──それでも、≪プロメテウス≫のメンバーに幾つかの呪文を授けることが出来た。
≪プロメテウス≫の基本方針は、基本として5つの呪文〝武装解除術〟〝全身金縛り術〟〝妨害呪文〟〝麻痺呪文〟〝盾の呪文〟さえきちんと使える様になれば、それからは好きな呪文を覚えていっていいと云う方針であり、全員それらの呪文を修めたので俺とアニーが攻撃的な呪文やその反対呪文を、ハーマイオニーとネビルが利便性の高い呪文を教える──みたいな塩梅となっている。
……まぁ皆は〝守護霊の呪文〟に興味津々らしいので最初はほとんどのメンバーが俺とアニーに集まっているが…。
閑話休題。
メンバー全員が基本方針の呪文を修めた今、出来る事が増えた。
「さぁ〝魔法ケイドロ〟を始めようか」
「おうよっ」
「やりぃ」
俺の指示にフレッドやジョージ、リーなどの──いわゆる〝リア充系〟のメンバーが歓喜の声を上げる。
〝魔法ケイドロ〟またの名を〝魔法ドロケイ〟。その実態はその字面から判るかもしれないが魔法ありのケイドロで、〝遊興性を求めつつ体力が付き、魔法の手腕を磨ける〟と、アニーが発案してきて俺が細かいルールを調整したレクリエーションである。
「いつもと同様、ルールの変更点は無し。赤く塗ってあるくじを引いたやつが〝鬼〟だ。……さて、くじは行き渡ったな?」
5回目ともなれば慣れたものなのか、質疑も無く頷く≪プロメテウス≫の銘々。
〝魔法ケイドロ〟の大まかな流れとして、まずは〝鬼決め〟があり、〝鬼〟はくじで決まる。
〝鬼〟の人数の割合は、≪プロメテウス≫のメンバーの総数の三分の一であり、残りが泥棒となる。
……尚、特殊ルールとして俺、アニー、ハーマイオニー、ネビルの4人は先にくじを引き、それぞれのチームに二人ずつと云った感じで別れる事になっている。……やはり、ある程度公平性を求める必要もあった。
この〝魔法ケイドロ〟の制限時間は90分で、範囲は泥棒を捕まえておくために設置した〝檻エリア〟の中心部から半径3キロの円形フィールドで。そこには内外を分ける様に線が引いて在る。
そこから先へは出られない──事も無いが、一歩でも外に出ようとすれば、大きな警報が鳴り響き、予め地面に敷いておいた魔法陣に四方から〝全身金縛り呪文〟が発射されて上空に花火が上がる仕組みだ。……云わば、刑事ドラマとかでよくある捜査網の様なものだ。
このゲームの勝敗は、〝泥棒の総数〟〝終了時に〝檻エリア〟に居る泥棒の人数〟〝警察の人数〟の、以上3つの要因が関係していて、単純に〝〝檻エリア〟の泥棒の人数〟と〝警察の人数〟を足して、それを〝泥棒の総数〟から差っ引いた数値で勝敗が決まる。
その結果、マイナスの数値が出たら、半数以上の泥棒を捕まえた事になるので警察側の勝利だ。プラスの数値なら泥棒の勝利と云う塩梅。……そして、まず無いことだが〝0〟の場合は警察側の負けとなる。
尚、当然ではあるが、泥棒が全員捕まったらそこでゲームセット──警察の勝ちだ。……これもまた可能性としてはほとんど無いことだが…。
「……よし、チームは別れたな?」
≪プロメテウス≫のメンバーは【ホッグズ・ヘッド】の顔合わせから十人以上も増えていて、今や43人とかなりの大所帯となっているので、〝鬼〟は14人だ。
先にくじを引いた四人の内、俺とハーマイオニーは〝鬼チーム〟になり、そして大まか作戦を決めるために自チームの14人を見渡す。
(……ハーマイオニー、フレッド、デニスにザカリアス──割合としては可もなく不可もなく。……メンバーとしてはまずまず、と云ったところか…?)
4年生以上を〝上級生〟としての上下級生の割合を見て、一旦そう寸評を下す。
メンバーの顔触れとしては、男女比もそうだが──たまに一杯食わされるフレッドとジョージが敵側に並んでないので、俺としてはそれだけでも充分だった。
……大多数のメンバーからすれば俺とアニーが〝鬼〟側に並んでいる方が惨澹たる結果になるそうだが…。
閑話休題。
そんなこんなでチームメンバーの確認が済んだところで…
「さぁ、始めようか」
――“闇よ(オブスクーロ)”“耳塞ぎ(マフリアート)”
「……よしっ、まずは作戦タイムだな」
俺は〝目隠し呪文〟で黒い煙を出して、その黒煙で〝鬼〟の全員をドーム状に覆い、こちらの作戦が彼方側に洩れないように〝防聴呪文〟を掛ける。
これは俺が口にした様に〝作戦タイム〟の他に、鬼の逃げる時間を確保すると云う側面もあった。〝目〟を潰すのは〝泥棒〟チームの逃走ルートを見れない様にする為──と、もちろん〝警察〟側の采配を見せないと云う思惑もある。
……と、そこで、作戦を思い付いたのだろう、ハーマイオニーが挙手する。
「ハーマイオニー」
「とりあえずの人数割りは二人一組を7つな感じで、ある程度──そうね、5人くらい〝泥棒〟を捕まえたら2つのグループが〝檻エリア〟の周りを哨戒、残りが起動隊という塩梅で良いかしら?」
「悪くないな」
そう呟き、ハーマイオニーに賛成するテリー・ブート。俺もハーマイオニーの意見に賛成だったので便乗する様に首肯しておく。他の〝鬼〟のメンバーからしてもハーマイオニーの案に異論は無いらしい。
……もしここで敵側にフレッドとジョージが揃っていたら気をもんだかもしれないが、今回はそうではない。ハーマイオニーの案でおおよそ大丈夫だろう。
ついでに5人目の〝泥棒〟を捕まえて〝檻〟にぶちこんだグループが合図として花火を上げる事になり──それからあれよあれよのうちに、グループ決めが終わる。テキトーに近く居たもの同士で組む、と云った仕儀だったので流れる様に決まった。俺の相棒はフレッドだ。
「じゃあ哨戒するグループを決めましょう」
「俺とハーマイオニーが居るグループで良いだろう」
哨戒グループの役どころは、ぶっちゃければ〝看守〟なので腕利きの方が良い。……皆もそれを理解しているのか特にこれといった反対意見は上がらない。
「もう二分だ。そろそろ〝目〟を開けよう」
作戦会議も煮詰まってきた事を悟り、そう提案すれば、一斉に首肯が返ってくる。俺は杖を振り〝目隠し〟を終わらせた。
……当然のことだが、〝泥棒〟は全員消えている。
「よし──散開!」
………。
……。
…。
「おい、ロン、あいつら…」
「ああ。コリンとセドリックだな」
フレッドと四方山話をしながらジャングルを歩いていると、ふと前方に二つの人影を捕捉する。漸く〝泥棒〟を捕捉したのは開始から約12分──つまりは実質10分ほどのことだ。
どうやらその人影の正体はセドリックとコリンだったようで、二人はこちらに背を向けながら周囲を確認しつつ移動している。……どうやら俺とフレッドには気付いていないらしい。
〝警察〟の存在を察知したら、〝泥棒〟は大体逃げるしかない。〝泥棒〟は〝警察〟に対して先制的に攻撃出来ないルールになっているのだ。
フレッドと共に杖を準備をして息を殺しながら、セドリックとコリンの背中に30メートル…25メートル…20メートルと迫っていき、15メートル地点に差し迫った時、セドリックが、違和感でも感じたのかこちらを向くが…。
(……遅いっ!)
――“石になれ(ペトリフィカス・トタルス)”
「“石になれ(ペトリフィカス・トタルス)”!」
俺とフレッドから同時に放たれた〝全身金縛り呪文〟がセドリックに炸裂。呪詛を食らったセドリックはその場に倒れる。コリンは既に5メートルは先に逃げていた。コリンの〝逃走〟と云う選択肢を取るまでの早さから鑑みるに前以て話し合いは済ませておいたのだろう。
「コリンは──もう無理だな」
「セドリックを捕れただけでも良しとしよう」
フレッドはコリンに追い討ちをかけようとするが、直ぐに杖を下げた。さっきまで俺とフレッドの〝追跡〟に味方していたこの地形は、今度はコリンの〝逃走〟に味方する。
……しかし、だ。
セドリック・ディゴリーと云う青年は、〝正史〟に於いて〝三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)〟に選出されるほどの手腕がある。それを考慮すれば、寧ろ金星と云ってもいい。
だから、無理して二兎を追う必要も無いのだ。
……ただ、それでも、セドリックが捕まった事は〝泥棒チーム〟に広まった事は理解しておかなければならないだろう。
「さぁ、フレッド。セドリックを〝檻エリア〟まで〝護送〟しようか」
「はいよ」
………。
……。
…。
最初にセドリックを〝檻〟にぶち込んでから20分──つまりはゲームの開始から三分の一が過ぎた頃、〝檻エリア〟の在る方角から小気味良い破裂音と共に赤色の光が俺達とフレッドを照らす。
偶然出会したアーニー・マクミランとマイケル・コーナーを〝護送〟している最中だったので、正にグッドタイミングだった。
ゲームとしての進捗状況も悪くないと云える。
……ちなみに脱獄やら気にしていない。〝檻〟は専用の鍵でしか開かない様になっているし、その鍵自体も、原則として〝檻エリア〟の外に持ち出せない様になっているからだ。
(……まぁ、〝それ〟に気付くのはアニーくらいか…)
なんて事を考えている間に〝檻エリア〟に着いていたので、空いている檻にアーニー・マクミランとマイケル・コーナーをぶち込んでおく。
俺とフレッドは哨戒の打ち合わせをする為にハーマイオニーとケイティのチームに合流するのだった。
ゲームが終了するまで残り51分。
………。
……。
…。
「ロン、今〝檻〟に何人くらい居るか判るか?」
「14、15くらいだな」
「……〝微妙〟だな」
「ああ」
〝檻エリア〟を〝泥棒〟が入ったり入ったり、出たり入ったりを繰り返している内に、ゲームも残すところ20分。〝檻エリア〟とその周りに全ての〝警察〟が集まっていて、ハーマイオニーの指示で二人一組7つから3・3・4・4とそのグループの編成を変えていた。
……〝決戦〟に備えてのことだ。
俺とフレッドのグループへは新たにザカリアスが加わり、三人でテキトーな会話しつつ周囲に気を配りながら哨戒していると、いつの間にやら5分ほど経過していた。
そんな時の事…
――ウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!
(……っ!)
遠方でけたたましい警報音と共に赤い花火が上がる。誰かがフィールドから抜け出ようとしたのだ。……しかし誰も確保に向かおうとする〝警察〟は居ない。あれは〝泥棒〟側の合図だと判っているから。
そう、〝決戦〟の合図だ。
先ほど説明した通り、この〝魔法ケイドロ〟の勝ち負けは〝泥棒の総数〟〝終了時に〝檻エリア〟に居る泥棒の人数〟〝警察の人数〟で決まる。……故にゲームの終わる間近かになると〝泥棒〟は仲間を解放しようと押し寄せて来る。
〝泥棒〟側が〝決戦〟に打って出るかは人数的に微妙だったが、〝泥棒〟側は賭けに出たらしい。
……そうなれば、俺の相手は半ば決まってくる。
アニーが俺達三人の前に傍らにジョージとジャスティンを左右に携えてやって来た。……こちらハーマイオニーの同じ人数なあたりハーマイオニーの采配は見透かされていたと云うことか。
「……ハーマイオニーのところはネビルか?」
「まぁね。とりあえずは〝目には目を〟──って事になればいいけどね」
「魔法だけなら充分だろう」
「ジョージ、ジャスティン──俺がアニーを抑えるから…」
「フレッド、ザカリアス──ボクがロン抑えるから…」
「残りは頼む」「後はお願い」
――“護れ(プロテゴ)”!
――“妨害せよ(インペディメンタ)”!
こうして俺とアニーの〝決戦〟の幕は切って落とされた。
………。
……。
…。
さすがに、アニーを10分とか15分とかで降せるはずもなく、終わりの合図が発せられるまでアニーの相手をさせられてしまった。
……アニーを訓練に誘ってもう既に5年目。最早アニーはそこまでの強さとなっているのだ。
フレッドとジョージ、ザカリアスとジャスティンも、結果だけは俺とアニーと同様ではあるが、4名ともその肩で大きく息をしているあたり、まだ体力の方に難があるようだ。
……ちなみに勝利したのは〝泥棒〟チームで、上空には[泥棒チームの勝利!]の文字が判然と〝泥棒〟チームの勝利を讃えている。
「……さ、解散しようか。汗も流したいしね」
「賛成」
反省会みたいなものも無く≪プロメテウス≫のメンバーは男女別に設えてある部屋へと三々五々に散っていく。……負けた〝警察〟チームにも笑顔ばかり。
こうして笑顔を見れるのなら、レクリエーションを開催した甲斐もあったのかもしれない。
SIDE END
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