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変わり揚げでマンネリ脱出?・その3
「あ~、天龍ちゃんやっぱりここにいたぁ♪」
「た、龍田!?何でお前ここに……」
噂をすれば陰、という奴だろうか。やって来たのは先程話に出ていた龍田。入ってきた瞬間は嬉しそうにニコニコしていたが、天龍が戸惑うようなリアクションを見せると、むぅと頬を膨らませてしなだれかかるように抱き付いている。
「私がここに来ちゃ行けないの~?」
「いや、誰もそうは言ってねぇけどさ……」
この2人を見ていると、姉妹というよりラブラブカップルに見えてくるのは何故なのか。そんな事を考えつつも、俺は仕事をこなそうと龍田に声を掛けた。
「とりあえず、龍田は何にする?」
「そうねぇ……天龍ちゃんと同じ物で~」
「あいよ。ビールと揚げ物を適当にな」
さて、ちゃっちゃと作るとしますかね。
《新感覚!海老の蕎麦米フライ》※分量2人前
・海老(大):4匹
・塩、胡椒:少々
・小麦粉:大さじ1
・溶き卵:1/2個分
・蕎麦米:1/2~1カップ
※千切りキャベツやカットレモン等はお好みで。
さて、エビフライは既に天龍に一度出してはいるが、今度は衣の香ばしさを楽しむ変わり種のエビフライを1つ。パン粉の代わりに使うのは蕎麦米。蕎麦の実を殻ごと茹でて乾燥させた後、皮を剥いた状態の物。米に例えるなら玄米の外皮と米ぬかを取り除いた白米の状態、と言えば解りやすいか。蕎麦の実を蕎麦米に加工するのは非常に手間がかかるので、全国的にはこの食べ方は廃れているが今も徳島の一部地方では愛されまくりのご当地食材だ。そんなマイナー食材だが、ネット通販で購入可能。雑炊にしたりご飯と一緒に炊いても美味いぞ。いやぁ、ネット通販て便利だねぇ(しみじみ)。
……話が逸れた。今回はその蕎麦米をパン粉の代わりにしてエビフライを作る。まずは海老の下処理から。殻を剥き、片栗粉で洗って汚れを取ったら背ワタを取り、真っ直ぐになるように隠し包丁を入れ、塩、胡椒で下味を付ける。
海老に小麦粉、卵、蕎麦米の順で衣を付け、170℃に熱した油でカラリと揚げる。お好みで千切りキャベツ、カットレモン等と盛り付けたら完成。
「はいお待ち。『エビフライ~蕎麦風味~』だよ」
「蕎麦?蕎麦って……あの蕎麦か?」
「この衣の粒々が怪しいわねぇ」
「まぁまぁ、とりあえず食ってみなよ」
俺に促されるまま、エビフライにかぶりつく2人。パン粉のサクサクとした歯切れの良い衣ではなく、ザクザク、カリカリといった噛み応えのある食感。そして噛めば噛むほど広がる蕎麦の香り。そこに海老のエキスが染み出せばもう最高だ。
「うんまあぁ~……」
「ほんと、美味しいわぁ」
「どうだ?衣に蕎麦の実を加工した蕎麦米ってのを使ったのさ」
「ゴマを衣に使ったのは食べた事あったけどぉ、蕎麦の実は初めて~♪」
「これならビールより日本酒だろ!」
「そう来ると思って……準備してあるよ」
そう言って俺は冷蔵庫から『梅乃宿』の冷酒が入った瓶とお猪口を2つ、天龍に手渡す。天龍と龍田は互いに注ぎつ注がれつ、猪口に酒を注ぐと再びエビフライをかじり、その味が口の中に残っている間にキュっと煽る。そして幸せそうにプハァ……っと吐息を漏らす。
「どうだ?」
「「最高」」
ちなみにだがこのフライ、レモンを搾って塩やソースで食っても美味いが、衣が蕎麦の実なので当然ながらそばつゆにも合う。天ぷら蕎麦の海老天の代わりに……なんてのも中々いい。
「さて、お次は何をお揚げしましょうかねぇ?」
「あ、それならコロッケが食べたいわぁ」
コロッケか。揚げたて熱々の所にソースをかけて、ガブリと噛んでハフハフしたらそこにビールを流し込む。想像しただけで生唾が出てきそうだ。
「よっしゃ、ちょっと待ってな」
しかし今日は変わり揚げの日と決めた。ただのコロッケでは芸がない。何か無いかと探ってみると、夏に使いきれなかった余りだろう……素麺が出てきた。
『うし、これでいくか』
《素麺衣のパリパリコロッケ!》※分量2人前
・ジャガイモ:500g
・玉ねぎ:1/2個
・牛豚合挽き肉:100g
・バター:8g
・コーヒーフレッシュ(又は牛乳):大さじ1.5~2
・塩、胡椒:適量
・小麦粉:適量
・卵:1個
・素麺:1束(90g)
さて、作っていこう。今回のポイントは衣をパン粉ではなく素麺にした所だ。揚げた素麺の麺がパリパリになり、パン粉とはまた違う食感で楽しませてくれる。まずはジャガイモから。皮を剥き、時間短縮の為に小さくカットしたジャガイモを鍋に入れ、ジャガイモがヒタヒタになる位まで水を入れて火にかける。
イモを茹でるのと同時進行でイモと混ぜる具材の支度をするぞ。今回は定番の挽き肉と玉ねぎだ。玉ねぎをみじん切りにしてバターを溶かしたフライパンで炒め、しんなりしてきた所で挽き肉を加えて炒め合わせる。挽き肉に火が通ったら火を止めて冷ましておく。
ジャガイモに竹串を刺し、スッと通るまで火が通ったら一旦火を止めてお湯を捨てる。お湯を捨てたらもう一度鍋を火にかけてジャガイモの水分を飛ばして粉ふきいもにする。
ジャガイモが熱い内にマッシャー等で潰し、炒めてあった挽き肉とコーヒーフレッシュ、塩、胡椒とよく混ぜ合わせて成形する。コロッケの形は俵型、小判型、ボール……好きな形で良いぞ。
コロッケのタネが出来たので、今度は衣の準備だ。素麺をポリ袋に入れて、5mm~1cm位の長さになるように折っていく。衣に使う素麺だが、出来るだけ細い物を選ぶと良いだろう。揚げた時のパリパリ感は細い方が良いからな。
コロッケのタネに衣を付けるぞ。小麦粉、卵、砕いた素麺の順に衣を付けて、後は170℃に熱した油にドボン。タネは既に火が通っているので、衣にさえ火が通ればOKだ。
「さぁ出来たぞ、『特製パリパリコロッケ』だ」
「ん?何だこの表面の細長いの」
「あぁ、それか?細かくした素麺だ」
「そうめん?そうめんって、あのそうめん?」
「龍田が言ってるのがどのそうめんかは知らんが、夏にツルツルっとやる、あのそうめんだ」
そうめんって言葉がゲシュタルト崩壊しそうだ。そんな2人は疑い深そうに手を伸ばさない。見た目は普通のコロッケと大分違うが、味は保証するんだがなぁ。
「どれ」
手が伸びないなら勿体無いと、揚げたてでまだ少し熱いコロッケを手掴みで持つ。火傷する程ではないので我慢しつつ、ソースをかけてガブリ。すると、揚がったそうめんがパリパリと歯応えを残し、そこにジャガイモのホクホクとした食感が混ざる。パリパリとホクホク、一見合わないんじゃないかという異なる2つの食感は中々どうして、口の中で一体感を見せる。コロッケの熱気とソースの濃い味を十分に堪能した所で、よく冷えたビール。間違いのない組み合わせだ。
「うん、美味い」
俺の確信めいた言葉に安心したのか、2人もようやく手を伸ばす。
「あら、表面がパリパリで美味しいわぁ♪」
「なんかベビースターみたいな感じだな」
「おま、天龍よぉ。ベビースターって……別な言い方なかったのかよ」
流石に駄菓子と一緒にされると、少し物悲しい物がある。そんなやり取りを見て、龍田がクスクス笑う。笑われた事に気付いた天龍がムッとしつつ顔を赤くして、龍田に怒鳴っている。何だよ、姉妹の仲を多少心配していたが、何の問題も無いじゃねぇか。そんな2人の姉妹喧嘩?を眺めながら、俺はビールのジョッキを傾ける。こんな騒々しい夜も、たまにはいいモンさ。
後書き
次回は『あの企画』の予定ですm(_ _)m
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